近年の結婚相談所は「コスパ」「タイパ」を求めるモテ男性の利用も多いといいます。だからこそ、本来の理由で利用していた人が苦戦を強いられることも……(写真:polkadot/PIXTA)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、10年近く婚活を続けてきた、コミュニケーション力に不安のある男性が結婚するまでの道のりをご紹介します。

最近の結婚相談所はモテ男性が多数入会

10年ほど前までは、結婚相談所には「出会いがない、女性に縁のない、モテない男性が行くところ」というイメージがありました。ところが近年は違います。

婚活において「コスパ」「タイパ」という言葉が聞かれるようになり、恋愛をしてデートを重ねて結婚相手を自分で選ぶことは面倒、合理的に自分に合う人を探してもらいたいと希望する人が増えてきました。

そこで婚活を効率よく済ませる手段として、結婚相談所を利用する人が増えてきたのです。いかにもモテそうな年収3000万円台の男性もたくさん入会しています。

そうすると、「本来の目的」で結婚相談所に入っていた人たちは苦戦を強いられます。

30代半ばの男性・俊夫さん(仮名)もその「本来の目的」で入っていた人の1人でした。年収は400万円台。何カ所か結婚相談所を転々としながら10年近く婚活を続けてきました。

20代半ばから入会していたので結婚願望は強いのですが、コミュニケーションの面で苦戦し、結婚にはなかなか至りませんでした。毎日、一人暮らしの部屋と職場の往復ですから、コミュニケーション力を培う機会もなく、当社が最後の砦だと思って入会してきました。

パッと見て婚活中とは思えないいでたちの俊夫さん。髪は整えていないし体臭も強い。私は「これまで10年近く婚活をしてきたといっても、自分が女性からどう見えているのか教わってこなかったのだから、ゼロに等しい。白紙からのスタートだ」と考えました。

体臭などを指摘するのは難しい

そこでごく基本的なことではありますが「朝晩ちゃんとお風呂に入って、お見合いやデートに行く時も、お風呂に入ってから少しコロンなどをつけて行きましょう」と伝えました。中にはそこで怒る人もいますが、俊夫さんは素直に聞いていました。

一般的なアドバイザーは、体臭やフケ、鼻毛といったことをなかなか指摘できません。しかし、そういったところから改善していかなければ、結婚は難しい。

私はいつも最初に「これだけ長く婚活を続けてきても結婚できないのは必ず理由があります。これからその理由を指摘します。気分を害するかもしれませんが、私は嫌われても構いません。聞いていただけますか」と確認します。

それで「聞く」という人に対しては、容赦なく「鼻毛が出ています。その髪ではお見合いできないので、すぐに美容院に行きましょう」などと伝えています。

俊夫さんは年収が高いわけではないので、お見合いを組むだけでも苦労しましたが、私のアドバイスのもとでマッチングすると、少しずつ決まり出しました。ところが、いざお見合いに行くと俊夫さんのほうからお断りすることが続きました。

俊夫さんは「あの女性はやる気がないです。失礼だ」と言う。よくよく聞いてみると、お見合いは女性が自発的にあれこれ話してくれるものだと思い込んでいるんですね。

しかし、接待ではありませんからそんなわけはありません。「その女性は会話のリードをあなたに委ねたんだと思いますよ」と説明するところからのスタートです。これを理解してもらうのに、半年ほどかかりました。

「初デートはお茶だけ」

お見合いがうまく行って交際に入っても次に会う約束をきちんとできない。次の電話まで2週間、3週間経ってしまい、会わないまま終わることもありました。

初デートは「どこに行きましょうか? 何か食べたいものありますか? 時間はどれくらいありますか?」など、互いに話し合って決めるものですが、俊夫さんはなぜか「初デートはお茶だけ」という固定観念に縛られていました。初デートは食事でも映画でもよいのですが、彼は自分のルールとしてお茶だけと決めていたようです。

喫茶店でデートをした俊夫さんはコーヒーを注文。女性はフルーツパフェを注文。あとで「1000円もするパフェを奢らされた。図々しい」と怒っていました。「奢るなんて不公平だ」と言う。

「初デートは1000円でもいいから男性がごちそうしてあげると女性は喜び、2回目のデートにつながりやすいです。2回目からは話し合って割り勘でもいいんですよ。喫茶店にこだわらず食事でも構いません」と説明すると、次から食事として、ショッピングモールのフードコートを指定していました。

ある時は、女性からもつ鍋屋を希望されたそうで、「1回目のデートで、お金がかかるもつ鍋を希望するなんて非常識ですよね」とまた怒る。さらに、女性がビールを注文したとのことで、「他人のお金でビール飲む女性ってどうなんですか? しかも2杯も飲んだんですよ」と、また憤慨しています。

「女性を喜ばせよう」と思えないワケ

これまで長く婚活を続けてきて、散々お金も使ったでしょう。精神的にもつらかったと思います。そのため女性を「喜ばせよう」という気持ちになれない。しかし、この調子では結婚は無理です。何度もフラれては、そのたびに何がいけなかったのか細かく説明しました。

俊夫さんのすごいところはここで足を止めなかったことです。多くの男性はフラれ続けると、「こんなに頑張ったのにもうダメだ」と諦めるか、「世の中の女はみんなおかしい」と人のせいにして婚活を辞めてしまいます。

俊夫さんは足を止めなかったどころか、私の言うことを素直に聞いて、2〜3年かけて少しずつではありますが、コミュニケーション力を上げていきました。

だんだん女性に対して気配りができるようになり、次のデートを決めるときは、「僕の休みはこれです」とシフト表を見せて、相手のシフト表とすり合わせたり、「僕は君のこんなところが好き」「結婚したらこんなふうに暮らそう」と伝えたり。いわゆるイケメンでもなかなかできないことができるようになりました。

もともと家庭的でマメな性格。自分で料理をするし、ベランダで野菜やお花を育てています。デートの相手としては不慣れでイマイチだと思われていたかもしれませんが、結婚したらいい夫になれそうです。

実はそういった男性はたくさんいます。しかし、女性はそういう観点で男性を見ていない。それよりもパッと見てカッコいいか、会話がこなれているか、気前よく奢ってくれるか、年収が高いか、そういうところばかり見て選んでしまう。

諦めずに婚活を続けた俊夫さんは、無事に穏やかで優しい女性と成婚。「うれしい、幸せ」と号泣していました。彼女に「彼のどこがよかったんですか?」と聞いたら、「会うたびに『疲れていない?』『顔色悪いけど何かあった?』と気遣ってくれる。そんな男性、これまでいなかった」とのこと。見事な成長ぶりです。

どうしても「上の年収」を見てしまう

俊夫さんのように年収は高くなくても結婚はできます。はっきり言ってしまうと、自分と分相応の人同士であれば結婚できるのです。

しかし、結婚相談所に入会すると、男性も女性も多くの人が高望みしてしまう。自分の年収が300万円だとしても、相談所の検索システムを使うと600万円、800万円といった候補者がいくらでも出てきますから、「やっぱり800万円以上がいい」と夢をふくらませてしまうんです。

30代男性・新一さん(仮名)も俊夫さん同様、当社に来る前に何カ所か結婚相談所を回っていました。年収は300万円台。俊夫さんよりも、さらにコミュニケーション力に不安がありました。

「デートはどこに行けばいいですか? そのとき何と言えばいいですか?」とアドバイザーに1つひとつ確認しないと行動できない男性でした。

そんな新一さんのアピールポイントは家庭的で子ども好きなところ。「僕の職場に提携している保育所があるから、将来子どもができたら僕が送り迎えをするよ。安心して仕事を続けてね」「僕は定時に仕事が終わるから、子どもをお迎えに行ってご飯つくるね」と、2回目のデートでアピール。そこまではいいんです。デートで結婚後のライフプランを具体的に話すことは婚活の基本です。

ただ、2回目のデートで「保育所に一緒に見学に行こうと思ってます」と言い出してしまいました。「いやいや、まだ1回しか会っていないのですから、それは引かれてしまいます。『職場近くに保育所がある』と説明するだけで充分ですよ」と説明。これを言ったら女性がどう思うかということに思いが至らないんですね。

プロポーズがダメで振られてしまう

女性の気持ちがわからず、プロポーズの段階で振られてしまう男性も少なくありません。結婚相談所では互いに結婚の意志を確認し合ってからプロポーズをするので、通常そこで振られることはありません。

プロポーズの日取りやシチュエーションは、結婚相談所が女性の希望を聞いてお膳立てをします。誕生日がいい、クリスマスがいい、バレンタインがいい、大安吉日がいい、シチュエーションは夜景の見えるレストラン、港が見えるレストラン、さざ波が聞こえるビーチ、東京タワーを背景にしてひざまずいてほしい……などなど、女性はいろいろと希望を持っています。

ところが、30代男性・透さん(仮名)は、デート中にどこかの病院の駐車場に適当に停めてプロポーズ。翌日、女性は「交際を終了したい(=結婚をとりやめたい)」と訴えてきました。

「プロポーズが思いどおりではなかったからといって、交際終了にするほどではないでしょう」と言うと、女性は「プロポーズは一生に一度のもの。記念の日なのに粗末に扱われた」と言う。

なんとかなだめて、透さんはもう一度トライ。夜景のきれいな展望台で「ほら、きれいな夜景です。結婚してください」とプロポーズ。周りには写真を撮るカップルが大勢並んでいたそうで、女性は「周りのみんなに見られて恥ずかしかった」とまた怒っていました。

プロボーズに「造花」の花束を…

3回目でようやくおしゃれなレストランの個室で、チョコレートで「Will you marry me?」と書いたスイーツを用意し、指輪をカパッと開いて、女性の満足の行くプロポーズができました。

また、別の男性は「プロポーズのときに、女性が花束を希望しているので持って行ってください」とアドバイザーに言われ、100円ショップで売っている造花を持って行きました。もちろん女性は激怒。

その男性には「花束といえば生の花のことですよ。ただ束にして持っていくのではなく、お花屋さんにブーケにしてもらって、手提げ袋に入れてもらってくださいね」と細かく説明。ようやくプロポーズを成功させました。

ここまで説明しないと、花束も買えないという男性はたくさんいます。それでも俊夫さんのように素直な気持ちで取り組めば、少しずつ成長することもできるのです。


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(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)