『大乱闘スマッシュブラザーズ』の大手コミュニティー大会である「ウメブラ」も任天堂のガイドラインによる影響が大きいとみられます(写真:さきょう)

著作物利用のガイドラインを発表

任天堂は10月24日に、公式サイトにて「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公開しました。これまで任天堂は基本的にeスポーツに関与することなく、ゲーム大会についてはグレーゾーンでしたが、今回のガイドライン公開により、個人やファンの集まりであるコミュニティーはゲーム大会を開催しやすくなったと言えそうです。


任天堂が公開した「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(画像:任天堂ホームページより)

ざっと解説すると、任天堂に著作権のあるゲーム大会を開催することができるのは、営利を目的とせず、大会規模も大きすぎない個人の主催者だけとなります。オフラインでは参加者が200人まで、オンラインでは300人までと制限が示されており、オフライン大会に限っては参加者から参加費を税込2000円以下、観客から観戦費を税込1500円以下で徴収することができます。

ただ、これはすべて運営費に充てることが条件で、運営費を超える金額を徴収した場合は、その分を観客や選手に還元しなければなりません。つまり、1円たりとも利益が出ることができないわけです。参加費や観戦料を徴収する場合は、それらの収支決済を誰もが閲覧可能なウェブサイトやSNSで公開する義務もあります。

eスポーツ大会は、スポンサーから支援や第三者からの支援が一般的ですが、これも禁止されています。配信による収益化は認められていますが、年間を通じて1人の主催者が1年間で100万円未満にする必要があります。

賞品を提供することは認められていますが、現金や金券、電子マネー等の金銭と同等の価値があるものは禁止。賞品であっても市場価格で税込50万円を超えるものは禁じられています。

著作権絡みでは、オフライン会場にて、正式発売後の任天堂のゲーム大会のプレイ映像の上映や大会告知用としてゲームのキャプチャー画像やスクリーンショットを使用することはできます。ただ、任天堂公認、公式であるとうたうことや任天堂の社名やロゴを使うことはできません。

ゲーム大会のタイトルに、ゲームタイトル名もしくはタイトルを省略したものを入れることもできないとされています。ガイドラインのQ&Aでは例として「大乱闘スマッシュブラザーズ スーパーチャレンジ」や「スプラトゥーン後楽園」などは認めていないと書かれています。ただ、何のゲーム大会をするのか説明文中にゲームタイトルが使用されることは禁止されていません。

サークルや部活動が主催する場合は?

今回のガイドラインは個人向けであり、団体でのゲーム大会の開催には当てはまりませんが、学生が主体の学校のサークルや部活動などが主催する場合はこのガイドラインに準拠します。ただし、2校までによるゲーム大会であること。単発の大会であること。ゲーム大会の出場者はサークルや部活所属のメンバーであることが求められます。

つまり、三つ巴戦以上の対抗戦や年間を通じてのランキングバトルは認められていません。さらに文化祭などで大会を開き、来場者から参加者を募るということもできなくなっています。

これに当てはまらない学校のサークルや法人、団体が大会を主催する場合は、任天堂に許諾を得ることになり、許諾を得たゲーム大会には任天堂から許諾番号が付与されます。許諾されるかは任天堂の裁量によって決定するとのことです。

ざっとこういった内容ですが、ガイドラインが公開される前までに行っていたゲーム大会で、すでにガイドラインに抵触している場合はどうなるのでしょうか。

多くの団体が開催してきたゲーム大会はすでにコミュニティーであり、複数の運営者からなる団体であることからガイドラインに当てはまっていません。『大乱闘スマッシュブラザーズ』界隈では「ウメブラ」や「スマバト」など、『大乱闘スマッシュブラザーズ』の省略したゲームタイトルが入っている大会もあり、大会名にゲームタイトルもしくはゲームタイトルを省略したものを使うことを禁止しているところに抵触します。

参加人数の上限を超えているものもあります。任天堂以外のオンラインのeスポーツ大会では、優勝賞品としてアマゾンギフトカードを提供しているところもあります。これらの状況から、これまで開催されてきたコミュニティー大会も開催ができなくなってしまうのではないかという懸念や臆測が広がっている状況です。

今回のガイドラインは「画期的」

しかし、今回のガイドラインは厳しく取り締まるためではなく、これさえ守れば自由に大会が開けるというかなり緩めのものだという見方もあります。

「ウメブラ」の運営の1人として関わっているアユハ氏によると、ガイドラインが発表された後で、すでに多くの団体が任天堂に開催申請を出しており、そのほとんどが認められているそうです。

「今回のガイドラインが発表されたときは、ネガティブに捉える人が多かったのですが、今ではポジティブに捉えられる人が多いようです。今回のガイドラインが画期的だったのは、ガイドラインに書かれていることを順守すれば、大会の開催を任天堂に申請しなくてもよいということです。ガイドラインから外れてしまったものに対しても、申請をすれば開催できるか判断して貰えるわけです」(アユハ氏)

ガイドラインの存在は「ここに書かれている以上のことはできません、認めません」というものではなく、書いてあることを順守すれば完全にホワイトで、それ以外は完全にブラックになるのではなく、グレーゾーンとし、その部分は個別で相談に乗るという話だとアユハ氏は捉えています。

そういう解釈をすると、今回のガイドラインはかなり緩めのものだと言えるでしょう。以前、任天堂はゲーム実況やゲームプレイの動画配信についてのガイドラインも公開しましたが、こちらも個人向けのガイドラインはかなり緩めと言えるものでした。

「われわれが主催しているのは『大乱闘スマッシュブラザーズ』の大会ですが、われわれ以外にも多くの団体が主催しています。その中で今回のガイドラインに当てはまらないと思われる大会を主催している団体は国内に12もありました。そのほとんどが任天堂に申請をし、許諾を得ています。われわれの「ウメブラ」も大阪の「スマバト」も大会名をそのまま使用することも許諾されています」(アユハ氏)

地方活性化のための利用は厳しくなった

当然、営利目的での開催や賭博行為、公序良俗に反するものなどは申請しても許諾が下りないことは明らかですが、ガイドラインに少しでも抵触してしまうと開催できなくなるという話ではないということです。


『大乱闘スマッシュブラザーズ』のコミュニティーの老舗である「ウメブラ」は、今後も大会名に使用できることとなった(写真:@darimoko)

とはいえ、ガイドラインの表面だけ取り繕って開催することもできません。例えば、観光地や商店街の集客が目的ながら、個人での開催を装って行うことも認められていません。

任天堂のタイトルを使用してeスポーツ大会を開き、イベント興行を成り立たせたり、地方活性化として利用することを考えている企業や地方自治体にとってみれば、厳しい結果になったと言えなくもないですが、個々のゲームを楽しみ、同志を募って一緒に遊ぶ、競い合うコミュニティーにとっては追い風と言えるでしょう。これをきっかけに、国内のゲームメーカーもガイドラインの策定をし、プレイヤーが安心して大会を開けるようになることを期待したいところです。

(岡安 学 : デジタルライター)