BMW新型アドベンチャーモデル「R1300GS」(写真:BMW Motorrad)

もともとは航空機のエンジンメーカーだったBMWが初めてモーターサイクルを発表したのが1923年のこと。つまり今年で100周年となる。その記念すべき年に満を持してリリースされた新型バイク「R1300GS」の国際試乗会に参加するためにスペインへと飛んだ。

BMWのGSシリーズとは

本題となる試乗レポートの前にBMWのGSシリーズについて簡単に紹介しておく。GSとは「ゲレンデ・シュトラッセ」の略で、不整地でも舗装路でも道を選ばずに走破できることを表す。4輪で例えるならガチなSUVといったところ。そのGSも歴史は古く、初代は1980年デビューの「R80G/S」にさかのぼる。

ボクサーあるいはフラットツインと呼ばれる水平対向2気筒エンジンとシャフトドライブを組み合わせたパワートレーン構造は、BMWモトラッド(BMWのモーターサイクル製造部門)の伝統であり、歴代GSシリーズにも受け継がれてきた。GSはオフロードレースでも活躍し、世界一過酷と言われるパリ・ダカールラリーの黎明期に3連覇(1982年〜1985年)を含む4回の優勝を誇るなどその優位性を世に示した。つねに時代の最先端を走ってきたGSは、今や世界的なトレンドになっているアドベンチャーバイクの始祖的存在であり、このカテゴリーにおけるベンチマークにもなっている。


R1300GSの国際メディア試乗会がスペインで開催。テストライドに先立ちBMWの開発陣から技術説明が行われた(写真:BMW Motorrad)

BMW Motorradジャパン、シニア・マーケティングマネージャーの中根知彦氏は語る。「誕生以来43年の歴史を持つGSは今日にいたるまで、自らが作り出したセグメントのリーダーであり続けてきました。その意味でPacesetter(ペースセッター)という言葉でGSを表現しています」。事実、ビジネス面においてもGSシリーズは世界中でBMWモトラッドの大黒柱(台数と収益の両方)になっているという。ちなみに2022年の世界年間販売台数はGSシリーズ合計で約6万台と同カテゴリーでも圧倒的な実績を誇っている。

今ある2輪の先進テクノロジーを全部盛り


R1300GSのスタンダード仕様。試乗車は欧州仕様で電動スクリーンや自動車高調整システムなどの追加オプションを装備(写真:BMW Motorrad)

前置きが長くなったが、今回登場したR1300GSは、2013年に水冷ボクサーエンジンが投入されて以来、10年ぶりのフルモデルチェンジとなる。開発コンセプトはずばり「NEXT LEVEL GS」、目指したのは次世代のGSである。


エンジン下にミッションを配置した2階建て構造により前後長を詰めてコンパクト化。エンジン単体で3.9kg、パワートレーンも含めて10.4kgも軽量化された(写真:BMW Motorrad)


車体の進行方向にクランク軸を配置した水平対向2気筒エンジンは、BMWモトラッド誕生以来の伝統的レイアウト。ドライブシャフトを介して後輪に動力を伝える4輪的な構造だ(写真:BMW Motorrad)

伝統の水平対向エンジンは完全水冷化とともにクランク下にギアボックスを配置したコンパクト設計となり、排気量は逆に1300ccへと拡大。改良されたシフトカム(吸気可変バルブ)により最高出力9psアップの145ps/7750rpmへと向上。最大トルクも149Nm/6500rpmへと上乗せされた。

車体も一新し、フレームは構造と材質を見直した完全新設計に。足まわりも強化され、BMW独自の構造を持つ前後サスペンション(テレレバー/パラレバー)もEVOタイプとなり、ブレーキも前後が互いに連動するフルインテグラルタイプが新たに採用された。こうした重装備にもかかわらず、車重は主にエンジンと駆動系の軽量化によってトータルで12kgも軽くなっている。「軽さこそ正義」と言われる2輪でこの数値は大きな意味を持つ。

また今回、レーダーアシスタンスシステムが新たに搭載されたこともトピックだろう。前車との距離を自動的に最適化するACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)やレーンチェンジ警告、衝突低減ブレーキなど、BMWが4輪で培ってきた安全装備を惜しげもなく投入。さらに停止時に自動的に車高を下げる機能も初採用するなど、まさに現在の2輪における先進テクノロジーをすべて詰め込んだ仕様となっている。

【試乗インプレッション】
安定感はそのまま、より力強く軽快に


「X」デザインのLEDヘッドライトが新型GSのアイコン。スクリーンとの間に前方レーダーを配置している(写真:BMW Motorrad)

X型のヘッドライトは好みが分かれると思うが、無骨だった車体は軽快でスマートな印象になった。BMW伝統のフラットツインは出力特性もフラットなのが特徴だが、新型はよりトルクフルかつ回転もスムーズに、スロットルレスポンスも鋭くなった。回転数によって吸気バルブのリフト量とタイミングが切り替わるシフトカムも改良されて、スロットルを開けたときの加速感もさらにアップ。排気音もより官能的なサウンドになった。


6.5インチTFTフルカラーディスプレイ。手元のスイッチを操作してライドモードやABS、トラコンなど様々な設定を自在に選択できる(写真:BMW Motorrad)

最初に試乗したのはスタンダード仕様。ライディングポジションはひとまわりコンパクトに。タンクもヒザがあたる部分はスリムでホールドしやすくマシンとの一体感がある。シート形状も前後の自由度が増えてより積極的に操れるようになった。また、シート高は850mmと従来と変わらず、このクラスとしては標準レベルと言える。

シリンダーが左右に突き出たフラットツインの特徴として、従来型はコーナーで車体を倒し込むときなどにエンジンの重量を感じやすかったが、新型ではそれがなくなり抜群の安定感をキープしたままフットワークが軽快になった。


道を選ばず長距離を安全・快適に高速で移動するための性能が求められるアドベンチャーバイク。GSはそのベンチマーク的存在だ(写真:BMW Motorrad)

テレレバー独特の路面にタイヤが張り付くような接地感や、狙ったラインをトレースしていく正確性も健在。フロントからスパッと曲がっていく旋回力はオンロードスポーツ並みだ。ブレーキングではフロントにしっかりとした剛性感があり、ABSが効くまでガッツリ握ってもフロントの沈み込みは最小限。それでいてサスペンションは独立して路面の凹凸を吸収してくれるので安心してコーナーへ飛び込んでいける。


ワインディングではオンロードスポーツ顔負けの軽快な走りを楽しめる(写真:BMW Motorrad)

とくに新型は前後連動のフルインテグラルタイプなので、レバー操作だけでもリアブレーキ併用による安定感が得られるのが素晴らしい。もちろん、ライドモードと連動したABSとトラコン(トラクションコントロール)もフルサポートしてくれるので、朝露に濡れた滑りやすい現地のアスファルトを含め、どんな路面でも安心してライディングを楽しめた。


コーナリングでの抜群の安定感とライントレースの正確性はGSならでは(写真:BMW Motorrad)

なお、1日目は混雑した街中から高速道路、ワインディングまで350kmほどを走破したが、ほとんど疲れ知らず。メーターに表示された平均燃費もリッター20kmを超えた。走行ペースを考えるとかなり良い数値と言えるだろう。

クラストップを狙えるオフロード性能


オフロード性能を高めた「GSトロフィ」仕様。ワイヤースポークホイールとブロックタイヤ、スポーツサスペンションを装備(写真:BMW Motorrad)

続いてオフロードでの試乗。ブロックタイヤと20mm長いストロークを持つスポーツサスペンションを装備した「GSトロフィ」に乗り換えたが、エンジンまわりの軽量化とマスの集中による動的な軽さの恩恵はオンロード以上に感じられた。常用トルクにふった瞬発力のあるエンジンは250kg近い巨体を楽々と宙に舞わせ、剛性を高めたEVOテレレバーは路面からのあらゆる衝撃をハンドルに直接伝えることなく吸収してしまう。

また、オーバートルクで後輪が滑り出したときでもスイングアーム長を伸ばしたEVOパラレバーが穏やかな姿勢変化でコントロールしてくれる。もともとGSは出力特性がリニアでマシンの挙動がわかりやすいのが特長だったが、新型ではそのメリットがさらに際立っている。


ビッグアドベンチャーならではの豪快な走り。優れたコントロール性と路面をつかむトラクション性能で本格的なオフロード走行も可能だ(写真:BMW Motorrad)

軽量化と重量バランス、ディメンションの最適化による相乗効果のおかげだろうか、普段なら臆してしまうような荒れたガレ場や急こう配のヒルクライムも自信を持って挑んでいけるのだ。ひと言でまとめるなら“自在感”が素晴らしい。今まで数多のビッグアドベンチャーモデルに試乗してきたが、オフロード性能の高さは同カテゴリーでもトップレベルと感じた。

最新デバイスも満載、ロングライドも快適


R1300GSの走行イメージ(写真:BMW Motorrad)

新たに搭載された最新デバイスも試してみた。ACCはとてもスムーズかつ正確に前車を追従しつつ、SWW(レーン・チェンジ・ワーニング)は後方から近づく車両を確実にとらえてバックミラー内のインジケーターで知らせてくれた。

なかでも効果絶大だったのが自動車高調整機能。車速が15km/h以下になると自動的にサスペンションが沈んでシート高を30mmほど下げてくれるシステムだ。スムーズすぎて本人には気付かないほどだが確実に足着きの不安を解消してくれる。これは車高の高いアドベンチャーバイクでは大きなメリットになるはずだ。R1300GSはまさにペースセッターを名乗るに相応しい実力を見せつけてくれた。「NEXT LEVEL GS」のコンセプトどおり、GSの新時代を告げるマシンである。

なお今回試乗したのは欧州仕様でタイプ設定などは仕向け地により異なる。先日発表された日本導入モデルの価格は284万3000円〜(消費税込み)となっている。

(佐川健太郎 : モーターサイクルジャーナリスト)