工業団地に向かうおびただしい通勤マイカーの中を新しい公共交通機関として誕生したLRTが進んでいく(写真:山下大祐)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年1月号「宇都宮のLRT『ライトライン』開業75日」を再構成した記事を掲載します。

週末の30〜40分遅れはマイカー利用者の試乗?

宇都宮ライトレールは2023年8月26日(土)、晴れやかに開業した。11時40分発の記念電車では、起点の宇都宮駅東口と次の東宿郷電停付近の間で自動車交通を止めて地元高校生ダンサーたちが電車を先導する華やかなパレードも繰り広げられた。一般営業は15時発の電車から。しかし、長蛇の列となった乗客を順に乗せてスタートしたものの不慣れな乗客の多さから、当日に限らず明くる日曜も、さらに以降も週末などには30〜40分遅れとなった模様。

混乱の原因は運賃収受。ICカード利用者ならば全ドアを使って乗降できる「信用乗車」の採用が1つのトピックだったが、現金利用者は降車時に運転士がいる最前部ドアまで移動しなければならない。日頃は電車にもバスにも乗らない人々が押し寄せたため現金支払いが予想を超えた、あるいは1枚のICカードから複数人の運賃を引き落とす家族といった事例が多く、混乱したのだ。だが、公共交通に縁遠かった人々が大いに関心を持った証左でもあった。

それから2カ月を経過した10月末、再び現地を訪れてみると、日常利用はかなり浸透している。混乱は収まったが報道や口コミでかなりの評判が伝えられており、まだまだ初乗り客を多く見かける状況だった。

宇都宮ライトレールは、宇都宮駅東口から宇都宮市に隣接する栃木県芳賀町の芳賀・高根沢工業団地間14.6kmを結ぶ。停留所数は19ある。大雑把には宇都宮駅から東へ、市街地を抜けて鬼怒川を渡り、のどかな田園地帯から清原工業団地へ、さらに工業団地とともに成立した郊外の市街地などを縫い、芳賀・高根沢工業団地に至る。終点はホンダ技研工業の北門付近に位置するというロケーションだ。

敷設の原点はこれらの工業団地の通勤に際して、途中の鬼怒川の橋が激しく渋滞する難所であったため。象徴的に言えば「新幹線で東京から宇都宮まで1時間弱。なのに宇都宮駅から工場までは雨降りには1時間半」とされる足の問題を抜本的に改善する必要があったことによる。


宇都宮駅東口停留所。JR宇都宮駅とは屋根付きのデッキで連結しており、朝は2線両方を使い交互に発車してゆく(写真:山下大祐)

電車はこの間を44分で結ぶ計画であるが、まったくの新設路線で不慣れなうちは乗降時間に余裕を持たせて当面は48分とされた。途中電停2カ所に待避設備を設け、快速運行も考慮しているが、それも当面は各駅停車のみとした。また、需要予測は平日約1万6300人だが、開業初年はその8がけとして約1万3000人。それを基準に、利用定着後は朝ピーク時6分間隔、オフピーク時10分間隔の計画であるところ当面は8分、および12分間隔とされた。車両は全長29.5m、定員160人(うち座席50人)の3車体連接低床車で、芳賀と宇都宮の頭文字および3車体であることに由来して、形式をHU300形とし、全17編成が導入されている。

運行時間帯は4時台〜深夜0時台(土休日は5時台〜23時台)と幅広くなっており、これは新幹線との接続が強く意識されたためだ。普通運賃は初乗り150円の対キロ制。終点の芳賀・高根沢工業団地までは400円である。

さまざまな呼び名は統一できるか

事業形態としては、整備主体は宇都宮市と芳賀町、その設備を使用して運行する営業主体を宇都宮ライトレール(株)とする公設型上下分離方式を採用している。


ところで、同線に関係する呼び名についてはさまざまあり、会社名としては「宇都宮ライトレール(株)」だが、事業全体は「芳賀・宇都宮LRT事業」と呼ばれてきた。「LRT」の表現も積極的に用いられてきたので、「宇都宮LRT」と記されることも多い。車両が登場した時は車両愛称を「ライトライン」と命名、さらにあまり表立っては使われないが正式な路線名は「宇都宮芳賀ライトレール線」と称する。その不統一ぶりは目下の課題でもあるようで、関係者においては今後「ゆりかもめと言えばお台場へ行く路線や新交通の列車とすぐわかるようにライトラインで統一してゆきたい」としている。

開業から2カ月が経過して平日は予測どおり、土休日は予測の2倍という好調な滑り出しを見せている中、宇都宮の新しい交通手段としてわかりやすい名前で定着してほしいものだ。

(鉄道ジャーナル編集部)