岸田文雄首相

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北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が行われたリトアニアのビリニュスにおいて、岸田文雄首相はジョー・バイデン米大統領にベタ褒めされて気分がよかっただろう。バイデン大統領も日本の防衛費増はオレが言ったからだとは言い過ぎで、それへのお詫びだ。

しかし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からNATO東京連絡事務所の設置計画について、「インド太平洋は北大西洋ではない」といわれ、はっきり反対された。その結果、NATOの決定は全会一致が原則でフランスが反対したため、今回のNATO首脳会議での東京連絡事務所の設置案は見送られた。

NATOは中国に対し警戒感をあらわにしている

ここで、外交の岸田を世界にアピールしたいなら、一発かますべきだった。

というのは、NATO事務局は中国を「体制上の挑戦」と位置づけている。中国は近年インターネット上のサイバー攻撃や偽情報の拡散、宇宙での安全保障での影響力拡大に関わっている。こうしたサイバー攻撃などは地理的な制約がないので、NATOの活動にも悪影響が出かねない。いずれにしても、NATOは中国に対し警戒感をあらわにしている。

NATOは、日本を非常に緊密かつ重要なパートナーとしてとらえ、日本に加え、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとの連携を広げようとしている。東京での事務所をその足がかりに、というのがアメリカやイェンス・ストルテンベルグ事務総長の構想だった。

これは、日本にとっても、中国の影響力拡大に警戒を強めるなか、NATOが自由で開かれたインド太平洋地域の安全保障に貢献しようとするのは歓迎だ。

いずれにしても、サイバー攻撃などを考えると、今は安全保障は地域問題にとどまらず、世界規模の問題ととらえたほうがいい。

この程度のことは、岸田首相も表の記者会見などではっきりとすべきだった。

最後の一押しをするのは政治家にしかできない役目

フランスの本音は、中国への配慮だ。実際中国はNATOの東京事務所に猛烈に反対している。フランスは中国がエアバスを購入するので懐柔されたともいわれている。

裏では、岸田首相はマクロン大統領に、日本はエアバスとワインを買うくらいの話をしてもいいだろう。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との首脳会談が流れたのは仕方ない。なにしろウクライナにとっては日本と会談しても武器が手に入らないからだ。

それなら、岸田首相は、日韓首脳会談などやらずにマクロン大統領に食らいついて、NATO東京連絡事務所について色よい返事をもらわないといけない。事務方がせっかくいいところまで作ってきたのだから、最後の一押しをするのは政治家にしかできない役目だ。