資産運用を始めるときに気をつけるべきことはなにか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「定期預金と投資信託を同時に契約する『セット商品』には注意したほうがいい。お得に見えて、実は投資信託の手数料が高いことがある」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

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■「銀行に置いておくなら、金利のいいセット商品に」

低金利が続き、賃金も上がらない昨今、「つみたてNISA」をはじめとした資産運用でコツコツお金を育てている方は少なくないはず。今回ご紹介するのは、「口座に置いているだけじゃもったいない」と感じたある公務員が、高金利の定期預金と投資信託の「セット商品」を契約した際にハマった落とし穴です。

「今月から中山さまの担当になりました、○○銀行の△△です」

はじまりは数年前。公務員の中山裕さん(仮名/38歳)のもとにメガバンクの行員からかかってきた電話でした。その時は夏のボーナスが支給された直後で、中山さんの口座には1000万円ほどの貯金がありました。公務員として毎月安定した収入がある上に、仕事の忙しさと堅実な性格で無駄遣いをしないまま10年以上ほったらかしにしていたら「自然と貯金できていた」と言います。

そこで銀行から提案されたのが、「投資信託と定期預金のセット商品」でした。中山さんは、「定期預金の金利が最初の3カ月間3%になる」という行員の言葉に反応。「同じ銀行に置いておくだけなら、金利のいいセット商品にしたほうがいいかな」と思い、定期預金300万円、投資信託300万円でセット商品の申し込みをしました。

■投資信託の手数料・信託報酬が高すぎて損をしている

そして数年後。あるセミナーでご一緒したことが縁で中山さんの資産状況を拝見したとき、「投資信託と定期預金のセット商品」を購入していると聞き、嫌な予感がしました。そこでデータを見ると、3年で実質10万円程度しか資産が増えていなかったのです。もちろん、相場の状況等によっても違うとは思いますが、定期預金の金利が3%で、しかも投資信託にも投資しているはずなのに、なぜこんなことになるのでしょうか?

今、メガバンクの普通預金金利は0.001%。ここから税引きされるので、100万円を1年間預けても10円にもなりません。そんな低金利の中で中山さんがおすすめされた商品は金利3%。通常金利の300倍で、100万円を3カ月預けた場合、利息は7500円になります。ただ、やはりここから利子税が引かれるので、実際に手元に残るのは6000円、300万円の場合は1万8000円になります。

そして何よりこの商品の大きな問題が、「セット」ゆえ、投資信託も購入している点です。高い利率を謳ったセット商品の場合、抱き合わせになるのは往々にして、手数料・信託報酬が非常に高い商品。中山さんの場合もご多分に漏れず、購入手数料3%という投資信託がセットになっていました。すると、100万円に対して手数料だけで3万円取られる上、さらに信託報酬が年率2%なので、初年度は経費だけで5%。つまり、100万円を預けてもその時点で資産は95万円に減っているのです。お伝えしたとおり、定期預金は最初の3カ月だけの高金利のため、儲けは6000円のみ。これだけでも、まったく得をしていないことがおわかりいただけるのではないでしょうか。

■経験や知識がないと手数料の高さに気づけない

ポイントは、セットになっている投資信託の手数料や信託報酬があまりに高いことです。こういったセット商品の場合、パンフレットで大々的に謳われるのは「定期預金金利3%!」の方で、投資信託の信託報酬については非常に、非常に小さくしか表示されていません。しかも、注意を促すような書き方はしないので、見逃してしまいがちなのです。

つみたてNISAのインデックスファンドには信託報酬が「0.●%」なんて商品がいくらでもありますが、経験や知識がなければ、“メガバンクお勧め商品”の手数料がいかに高いものか、気づくのは容易ではありません。

そもそもこの「信託報酬」とは、購入時一回だけで終わりの「購入手数料」とは異なり、商品を保有している限り発生し続ける経費のようなもの。ざっくり言えば、仮に購入した投資信託の利回りが5%だとしても、信託報酬が年率2%であれば、実質の利回りは3%になるということに。

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さらにこの信託報酬は、販売を担う銀行、投資信託の運用会社、信託財産を預かる信託銀行の3社で分けあうシステムになっています。ゆえに、つみたてNISAのような信託報酬が安い商品は、販売サイドにとってうまみゼロ。いくら売れてもつみたてNISAではほとんど利益にならないので、銀行側は手数料が高く取れるセット販売をしないといけない、という仕組みになっているのです……。

■お金に「少し余裕がある」けど時間がない人こそ要注意

私の経験上、中山さんのような堅実な公務員の方やエリートの方が、ファイナンシャルプランナー的に「絶対ない」商品を買ってしまうパターンは珍しくありません。なぜかと考えてみると、“メガバンクの行員がおすすめした商品”という大企業神話的安心感や、忙しさのあまり、とりあえず資産運用をすべて丸投げしてしまっているのかな、という気がします。

中山さん含め、「投資信託と定期預金のセット商品」を購入する方は、お金に少しだけ余裕がある。だけど、時間がないんですよね。面談の際、カラリと「銀行で勧められたものを買っているんですけどたいして儲からないもんですね〜ハハハ」と、話していたように、大きく目減りもしてないし、安定してお金も入ってきているため、運用状況を気にしてないご様子でした。

たしかに今はまだ、致命的な失敗というわけではありません。ただ、これがどんどん長期的になっていくと、投資した額や期間に対して大した効果もなく、信託報酬の負担が積み重なるだけになるだろうと思い、中山さんにはセット商品の解約後、つみたてNISAを始めることをお勧めしました。

■担当者に「ズバリ聞く」のが一番いい

現在、国内で投資信託は6000本も販売されていますが、つみたてNISAは、一般の方が長期的に利用することでお金を増やせる可能性のある商品を国が厳選・スクリーニングしています。そのため、「投資信託と定期預金のセット商品」を勧められた場合は、つみたてNISAと信託報酬の差を比べてみれば、いかに今自分が買おうとしている商品が割高になっているかがわかると思います。

そして、「●万円分の投資信託をした場合、手数料は全部でいくらになりますか?」とズバリ聞いてみて、定期預金の利息との兼ね合いも計算しながら、じっくり考えてみてください。やたらと高い金利がついている商品は飛びつかず、まず、疑うこと。銀行さんの手前あまり大きな声では言えませんが、個人的には投資信託と定期預金のセット商品は、基本的にお勧めいたしません。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)