WBC優勝の余韻が残るなか開幕したプロ野球2023年シーズン。セ・リーグは、15年ぶりに指揮を執る岡田彰布監督率いる阪神がセ・リーグ首位を快走している。エース・青柳晃洋の不振、抑えの湯浅京己の離脱と投手陣崩壊の憂き目に遭いそうだったところに、村上頌樹、大竹耕太郎が台頭。打線も近本光司、中野拓夢の1、2番を筆頭に切れ目がなく、どこからでも得点できるのが強みだ。投打のバランスのよさは、12球団屈指といえよう。

 阪神のライバルである巨人は、5月26日からの"伝統の一戦"で3タテを喫するなど、浮上のきっかけをつかめずにいる。両チームの差はどこにあるのか。巨人OBで阪神にも精通している球界の大御所・広岡達朗が、阪神・岡田監督と巨人・原辰徳監督の采配について語った。


15年ぶりに阪神の指揮を執る岡田彰布監督(写真左)と巨人・原辰徳監督

【対照的な起用法】

「まず岡田は、キャンプインする前からファーストは大山悠輔、サードは佐藤輝明でいくと明言した。昨年まではポジションを固定せずに戦っていたわけだが、ただでさえエラーが多いチームなのに、内野を固定せずにどう鍛えればいいというのか。それにショートだった中野をセカンドにコンバートして、木浪聖也をショートで起用しているのもうまくはまっている。失策数はリーグ2位(5月31日時点、以下同)の多さだが、相手の流れを潰すダブルプレーが多くとれるようになった。逆に巨人は、失策数こそ最少(18)だが、エラーが失点に結びつくケースが多い。そうなるとチームの勢いは削がれてしまう」

 守備の確実性こそがゲームを支配するとかねがね言っている広岡は、まずポジションを固定することが最優先だと語る。

「巨人の4番である岡本和真がサードをやったり、ファーストをやったり、外野をやったり......事情があるにせよ、"チームの顔"であるべき選手をちょこちょこ動かしてどうする。そんなことをやっていれば、チームの成績も安定するはずがない」

 そして話は、売り出し中の秋広優人に及んだ。

「期待の若手である秋広が出てきたが、3番に起用してバントをさせるなど、どういうつもりなのか。今は左ピッチャーでもスタメン起用を続けているが、最初の頃は左がきたらスタメンから外していた。原は"左対左"が不利というセオリーに惑われすぎ。若手の調子がいい時の勢いは、不利なものでもプラスに変える力がある。使い続けてこそ力になるということを知らないのか。

 その点、岡田は佐藤が大不振に陥っていた時も『きっかけさえつかめれば変わる』とコメントし、使い続けた。実際、今季初ホームランから佐藤は復調の糸口をつかんだわけだが、野村(克也)のようにメディアをうまく使ってのコメントだった。策士だよ、あいつは」

 それまでホームランゼロだった佐藤が1本打ったことで肩の荷が降りたのはもちろん、監督の言葉を受けて「これで変われる」と暗示にかかったのかもしれない。

【先を見据えた岡田采配】

 主軸を我慢して使うのは坂本勇人や丸佳浩も同じように見えるが、打順を変えたり、体調面を鑑みてだろうがスタメンを外したりと、原監督の起用には一貫性がない。首脳陣からの信頼を得て、選手たちはグラウンドに立っている。ベテランになればなるほど、去就を迫られるなかで1年1年が勝負となり、己との戦いがより研ぎ澄まされる。だからこそ、指揮官からの信頼が選手にとってなによりの糧となり、エネルギーとなるのだ。

「阪神の場合、投手力、走力に加えて平均点以上の守備力が備われば、自ずと結果は見えてくる。交流戦までに貯金17を数えるが、まったく浮かれた感じがない。岡田の『(2008年シーズンは)貯金23あっても勝てんかった』というコメントを聞いても、大逆転された苦い経験が教訓となっているから、まだまだ先を見据えているんだろう。とにかく落ち着いている。

 打順も固定化しつつあり、6、7番あたりは日替わりでチャンスを与え、その試合をしっかり任せる。ドラフト1位の森下翔太にしたって、開幕から起用して、打てなくなったら二軍に落とし、調子が戻ってきたら一軍に上げてしっかりチャンスを与える。選手も納得のいく起用だと思う。

 それとは正反対に、原は打順をコロコロ変え、1、2打席で結果が出なければすぐ落とす。これでは選手は育たない。岡田とは器の違いが見える。そんな原を推薦したのはオレなんだどけな。長嶋(茂雄)が勇退する時に、次の監督は誰にしたらいいかという相談を受け、原の名前を出した。野球人だった親父さん(原貢氏)が生きているうちはまだよかったけど、いまや誰も進言する人がいないんだろうな」

 若手を起用しても、肝心の采配に迷いが生じ、それが選手にも伝染して悪影響となっているのが今の巨人だ。要するに、チーム内の約束事が曖昧になっているのではないかと広岡は言う。

「阪神の打者を見ていると、ボール球に手を出さず、ポイントを前に置いて自分の打てるコースだけ振っている。データ的に見逃し三振が多いのは、おそらくベンチから『三振OK』の指示が出ているのだろう。変に当てにいくスイングをして調子を崩すよりも、しっかりボールを見極めて自分のスイングをする。そうした取り決めを明確にしておけば、選手は安心して打席に立てる」

【巨人はもう球界の盟主ではない】

 これまで常勝を義務づけられてきた巨人は、若手が一軍に上がって試合に出ても、すぐに結果を求められ、1試合打てなければすぐに降格となるケースを何度も見てきた。秋広はコンスタントに結果を残しているためスタメン起用が続いているが、もしスランプに陥った時に我慢して使い続けられるかどうかだ。

「巨人はもう球界の盟主ではないということを、身をもって理解しないといけない。常に優勝を狙うのはいいとして、そのために現状のチームをどうすべきかを長期的なビジョンを持ってチームづくりに着手していくべきだ。これまで大量点をとる野球に固執して、よそから4番ばかりとってきたからチームづくりができなかったのだ。基本に忠実に、シンプルに野球をやることがどれだけ大事であり、その大変さをわからせるのが指導者の役目だ。それをわかっている岡田の阪神がこの順位にいるのは、当然の結果である」

 たとえ勝ちに恵まれなくても、チームとして明確なビジョンがあれば、選手も安心してプレーできるだろうし、粘りも出てくるはずだ。幸い、今の巨人には秋広というニュースターが現れた。秋広のおかげで打線が活発になり、チームとしても戦う形が見えてきた。

「秋広、惑われるなよ、貫け!」

 広岡は希望を込めて言い放った。