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被害がやまない特殊詐欺だが、受け子など実行犯たちの軽すぎる犯行動機と罪の意識の乏しさに驚くことは多い。法廷に立った被告人たちは「この手の犯罪のことは知らなかった」「グレーゾーンとは思ったけど犯罪とは思わなかった」などと供述し、事態の深刻さを理解していないまま犯行に手を染めていることも珍しくない。

警察庁の発表によると、令和4年(2022年)度の特殊詐欺の認知件数は17,520件で前年より20.8%も増加し、合計被害額は361億4044万円(前年度比28.2%)にものぼる。

令和5年2月に大阪地裁で開かれた、2件の特殊詐欺事案に関わったとされる裁判において20代の被告人男性は「これで人生逆転してやろうと思った」と、その動機を語った。(裁判ライター:普通)

●「ちょっと騙すだけで大金が得られるなんておいしい」

今回、受け子を行ったとされた20代の被告人は、前科前歴はなく、見た目もいたって普通の細身の青年だった。高校卒業後は飲食業、風俗店ドライバーなど職を転々としており、犯行当時は250万円の借金があった。

病院の精神科からは、強迫性障害と診断され、事件当時は自暴自棄になっていたと供述する被告人。掲示板で「裏バイト」「高収入」などと検索して犯行グループと接触した。仕事内容を聞いて犯罪行為と分かったが「週に20万円約束すると言われ、これで人生逆転してやろうと思った」などと取調べにて供述している。

借金の原因は、投資と女性関係であった。

YouTubeでFXに関する動画を見て、「テレビに出るような大金持ちになりたい」と投資に挑戦するものの、手元に残ったのは100万円ほどの借金だった。さらに複数の知人女性に対して、美容整形手術費用や、被告人の子ではないのに出産費用、中絶費用などを肩代わりするため借金を重ねた。

また、犯行を決意したのは借金が原因であると供述するものの「貯金が80万円くらいしかないので3〜4カ月でヤバいことになりそう」、「詐欺グループの人が『8年やってて捕まったのは2人だけだ』と言ったのを信じた」などとも法廷で供述しており、犯行を決意する緊急性の無さや、意思決定の安直さには首を傾げざるをえない。

被告人質問にて、このような検察官とのやり取りもあった。

検察官「特殊詐欺の情報を得る過程で、他に仕事は探していないのですか?」

被告人「女性用風俗に登録したんですけど、指名が来なかったんで」

検察官「特殊詐欺をするようになったのは、簡単にお金を稼ぎたいとの思いからですか?」

被告人「前に『ライアーゲーム』という作品が流行っていて、ちょっと騙すだけで大金を得られるとは、なんておいしい話なのだろうと」

●被告人の父が背負った借金と息子への強い思い

今回の事件では、被害者は2名で、計294万円の被害となった。情状証人として証言台に立った被告人の父が、被害金のほか、被告人が背負っていた250万円の借金を含めてすべて肩代わりをしたことを明らかにした。全額返済されたことで被害者からは「被告人に対して、厳しい処罰は求めない」と一部の許しを得た。

被告人の父は飲食業を営んでおり、今は保釈された被告人を手伝わせながら様子を見ている。元々一緒に働いていたが、後を継いで欲しい思いから厳しく当たってしまい、逃げるように被告人が家を出てしまったことを強く悔いていた。親としての無念さとなんとか更生させたい思いが伝わる証人尋問だった。

この父の尋問を目の前で見ていた被告人に裁判官が質問する。

裁判官「今後、困ったら誰に相談しますか?」

被告人「親はまだ生きているんで、親ですかね」

裁判官「お金に困ったらどうしますか?」

被告人「最悪親が死んでしまった場合、生活保護とか受けることになると思います」

最後まで、弁済の肩代わりをした親への感謝などが語られることはなかった。

判決は懲役3年(求刑4年)、執行猶予4年。被害額は多額であるが、全額の弁償を済ませたことを評価したものとなった。

【筆者プロフィール】裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。