かつては視聴率40%台を誇ったNHK朝ドラだが、今は15%前後と低迷している。統計データ分析家の本川裕さんは「人々の関心テーマが多様化、個性化し、家族で朝食時に朝ドラを決まって見るという習慣も衰えた。また朝ドラに限らず、NHKの番組の視聴率は年齢を問わず低下している」という――。

■「ちむどんどん」15.8%、「舞いあがれ!」15.6%

NHK朝の連続テレビ小説(以下、NHK朝ドラ)は何かと話題になる番組である。沖縄本土復帰50年の節目に制作された2022年前半の「ちむどんどん」(黒島結菜主演)は、安直なドラマ構成から大半の視聴者の気持ちを最後までつかみ切れず、SNS上の悪評の山をメディアが記事にするほどだった。この3月で終了した年度後半の「舞いあがれ!」(福原遥主演)は前作の「ちむどんどん」ほど評判は悪くなかったが、期間平均視聴率は15.6%と「ちむどんどん」の15.8%をさらに下回った。

そんな中、NHK朝ドラ史上「最高傑作」だったと実感している人も多いという2013年前半放映の「あまちゃん」が4月3日から全話のデジタルリマスター版がBSプレミアム・BS4Kで同時放送されている。

日本中が東日本大震災からの復興に向き合うなか、アイドルを目指すヒロインを描いた同作は、のん(能年玲奈)演じる天野アキの口癖「じぇじぇじぇ」が、その年の流行語となるなど、一大ブームを巻き起こした。放送10周年となるのを受け、舞台となった岩手県や周辺自治体でも記念事業をおこなうことになっている。

今回は、NHK朝ドラの視聴率データを紹介し、必ずしも視聴率が人気と比例していないという謎などについてこれまでを振り返ってみよう。

■長期低迷傾向にあるNHK朝ドラ視聴率

まず、基本的認識としてNHK朝ドラの視聴率が長期的に低下してきたことを示すデータを確認しておこう。

図表1では、年次ごとにNHK連続テレビ小説の期間平均世帯視聴率の推移を追った。最近では世帯単位ではなく個人単位の個人視聴率や録画視聴を含めた総合視聴率も公表されているが、ここでは長期推移を追うため従来のリアルタイムの世帯視聴率ベースのデータを追った。また、年次推移としてわかりやすいように、年度内が前半、後半の2話となってからは2つの番組の平均値で追っている。

1960年代後半から70年代前半にかけての時代にはNHKの朝ドラは45%以上の視聴率で推移していた。すこし視聴率が下がってきた1980年代に入った1983年には、今や伝説的ともなっている52.6%という高視聴率の「おしん」が放映されている。

近年、せいぜい20%前後、最近は15%台の朝ドラ視聴率であるのと比較すると、毎日平均して半分前後の世帯がそろいもそろってNHKの朝ドラを見ていた時代があるとは想像するだけでも隔世の感が否めない。

視聴率は1980年代後半のバブル時代から低下傾向となり、2009年には13.7%にまで低下した。生活が豊かになり、家族そろって行動する時代から各人が多様な関心をもつ個性化の時代となり、家族で朝食時、NHKの朝ドラを決まって見るという習慣も衰えていったことがこうしたデータの推移から如実にうかがい知ることができよう。タイトル名を見るだけで、家族とともにそれらを鑑賞していた子どもの頃を思い出すことができる人も多かろう。

こうした視聴率の長期低下傾向についてのコラムニストの堀井憲一郎氏のうがった見方を次に紹介しておこう。

「連続テレビ小説が描いているのは、女の半生である。視聴率が高かった時代、何を見ていたかというと。戦争の苦労である。……視聴率が決定的に落ちるのは、戦争を描かなくなってからである。そのかわり、主人公の女性にいろいろな無理な職業に就かせて、社会と戦わせて、共感を得られなくなり、どんどん落ちていった。……「あんな戦争はいやだ」という一点だけを強く主張し、その後、女性政党となった社会党の凋落と同じである」(『若者殺しの時代』講談社現代新書、2006年)

案外、当たっていると私は思う。

■手を変え品を変えても低空飛行を続くNHK朝ドラ

以上は年平均の値で見てきたが、やはり年の前半と後半の視聴率が気になるので、放映時間が朝8:15から8:00に早まった2010年以降の各話のデータを図表2に掲げた。各話の内容を思い出しやすいように括弧書きで主演俳優の名前も記しておいた。

これを見ると、かつては、2012年後半の「純と愛」や2015年前半の「まれ」のように前後の作品と比較して大きく視聴率が落ち込むといった変動がかなりあった。ところが、最近はもともと視聴率の水準が低下してきていることに加え、各話ごとの値もそれほど変動しなくなっている。

あれほど不評だった「ちむどんどん」についても、それほど大きく視聴率が落ち込んでいたわけではない点が印象的である。「ちむどんどん」の1つ前の「カムカムエヴリバディ」がラジオ英語講座と3世代女性の100年のファミリーヒストリーを描くため、3人の主演女優を配し、視聴者を飽きさせないよう工夫した作品であり、そのため多少、期間平均視聴率が高くなっているので、それを考慮すると「ちむどんどん」の視聴率はほとんど前話と比較して同水準だったといってもよい。

「ちむどんどん」のあまりの悪評ぶりに興味を感じてか、同話終了後にFLASH誌が20歳以上の女性を対象に、過去20作品についての人気度(実際は不人気度)をアンケート調査で調べたデータがある。これを基に図表3に各話の人気度と視聴率の相関図を描いてみた。

これを見ると、不人気度と視聴率はおおまかには右下がりに相関しているものの、相関度はそんなに高いわけではないことがうかがえる。確かに「ちむどんどん」は最悪の評判であり、視聴率も最低であり、その点で相関が感じられる図となっているが、上で述べた通り、「ちむどんどん」の低視聴率はむしろ最近の低迷ぶりを反映しているに過ぎない側面が大きいのである。その証拠に「舞いあがれ!」は「ちむどんどん」ほど不評ではなかったのに、視聴率はむしろ低下しているのである。

■高評価の「あまちゃん」だが視聴率は高くなかった

視聴率と人気度が比例していない番組の先行事例が、実は、2013年前半に放映された「あまちゃん」である。放映中、列島各地にブームを引き起こし、国民の関心事として絶大な人気を誇った「あまちゃん」であるが、視聴率的には、まったく目立ったところがなかったことは図表2を見ても明らかである。前作の「純と愛」が低かったので、高い視聴率のように見えていたが、その1つ前の「梅ちゃん先生」や次作の杏主演の「ごちそうさん」よりも低い視聴率だったのである。

NHK放送文化研究所では、ブームと視聴率が比例していなかった謎を解明するため、「放送研究と調査」2014年3月号で独自調査を実施した結果の記事「朝ドラ『あまちゃん』はどう見られたか〜4つの調査を通して探る視聴のひろがりと視聴熱〜」を掲載した。

NHK関係者は視聴率の低さについて「あまちゃんは、今まで朝ドラを見ていなかった若い人たちに人気があった。より早い時間に家を出る世代がBSで見ていたのだろう」と言っていたが、この記事では、時間帯別の世帯視聴率や男女年齢別の個人視聴率を、あまちゃん以前あるいは以後の年度前半番組と比較して分析した結果、あまちゃんブームは、マスコミ報道やインターネットなど、視聴率とは別のところで盛り上がっただけだという結論に達している。

「ソーシャル・リスニング調査でTwitter上の発言を具体的にみてみた:発言数は日を追うごとに合計約650万件で、前年同時期朝ドラ「梅ちゃん先生」の約12倍に達した。1%の人(アカウント)が全発言数の4割を発信しており『あまちゃん』に非常に高い“熱”を持つ一部の人が全体のツイートを牽引していたようである」。しかし、「国民全体からみるとSNS参加者はごくごく少数であり、その少数者の発言が大きなブームや話題性をどうやって形成していくのかについては、今回は十分には解明できなかった」(同2014年3月号)としている。

当時と比較してSNS参加者は格段に増えている。したがって、「ちむどんどん」が案外低視聴率ではなかったのも視聴率とは別のところで不評が増幅されただけであり、「あまちゃん」とはまったく裏返しの事態が起こったためと考えられよう。

テレビの番組で起こっている限りでは大きな社会的問題とはならないが、現実についてのプラス、マイナスの評価や判断を一部の「熱心者」が過剰に増幅してやりあい、それを報道機関が偏って取り上げる状況が、大統領選挙で起こっている米国や韓国では、SNSが民主主義にとって大きな脅威となると考えられてもおかしくない。

「アテンション・エコノミー」という言葉がある。かつて言論は有限であり、何を人々の関心事として取り上げるべきかを決めるのは言論だった。ところが、インターネットがある現在、有限なのは人々の関心のほうで、言論はそれこそ無限にある。従って人々の関心の争奪戦こそが今日の問題の核心だという考え方である。下手をすれば、社会にとって本来重要な事項が人々の無意味な関心事の前にかすんでしまいかねないのである。

SNSなどによる情報増幅やフェイクニュースを含めた情報偏食を野放図に報道や言論の側が取り上げるとすると社会は混乱しかねない。朝ドラの視聴率と人気度の乖離(かいり)もこうした観点から見てみる必要もあるのではなかろうか。

■年齢を問わず低下してきたNHK人気番組の視聴率

これまで見てきたビデオリサーチの世帯視聴率データでは、男女年齢別の動向がわからない。そこで、最後に、「NHKの朝ドラ」「大河ドラマ」「7時のニュース」についての男女年齢別の個人視聴率のデータ推移からどんな動きが起こっているかを紹介しておこう(図表4参照)。

図表を見ると全体として男女ともにテレビの視聴率は高年齢者ほど高い傾向が明確に認められる。特に50代以上で高くなっており、逆に、10代〜20代では非常に低くなっており、若者のテレビ離れを端的に示している。

2000年代末期の3カ年平均(図表赤線)から2010年代末期の3カ年平均(同黒線)にかけて男女年齢別の視聴率がこの10年間でどう変化しているかを見てみよう。

連続テレビ小説は、その視聴が毎日の習慣と化しているからか、各層ともほとんど変化がない。これに対して、大河ドラマとニュースでは、男女ともに各年齢層で視聴率が低下していることが分かる。この10年の変化としては、テレビの視聴率が低下しているとしても、若者が低下し高齢者がそのままというのではなく、全般的に低下していると見たほうがよさそうである。そうだとすると視聴率の低下はインターネットの影響とばかりはいえない可能性がある。

ニュースについては、若年層はもともと低い視聴率なのであまり変化がない点、また男女別には男性の方の低下の方が目立っており、男女差が小さくなる傾向にある点にも気づく。

視聴率の年齢差が大きいことや、若者だけでなくこれだけ各年齢層で視聴率が低下してきているということからは、NHKの受信料をテレビ装置がある世帯一律に集めることには無理が生じていると見なさざるを得ないだろう。

NHKにとって、視聴率以上に朝ドラや大河ドラマで国民の関心を引き付けている状況が、現受信料方式を維持するための追い風となっていると考えられていてもおかしくはない。

それだけNHKの番組に対するSNSや報道機関の評判や報じ方が気になるところなのであろう。人気番組内で朝ドラや大河ドラマの番組宣伝的な時間が増えているように感じられるのもNHKの低下する視聴率への危機感を表しているように思われる。

朝ドラの視聴率維持が受信料徴収方式維持の最後の手段となっているのではなかろうか。だとすると直近の状況は極めて厳しいと言わざるとえない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)