〈壱岐市・男子高校生死亡〉 “虐待疑惑報道”の里親の激白150分「留学生受け入れはお金目的?」「台風のなか正座させた?」「亡くなる直前の動向」…疑惑・誹謗中傷についてすべて話した

“里親ビジネス”の被害者なのか、元々心に深い闇を抱えていたのか--。離島留学制度の先進的な取り組みをしてきた長崎県の壱岐島で、茨城県出身の「留学生」が失踪の末に遺体で見つかった。発見時の状況などから事件性はないとみられるが、里親の「虐待疑惑」を巡ってメディア同士が報道で応酬を繰り広げるなど、周囲は騒然としている。渦中の里親は集英社オンラインの電話取材に応じ、150分にわたって激白した。留学制度の功罪を含めて、検証の扉を開く。

里親について各メディアが報道で応酬

壱岐島の南西約4キロに位置する「原島(はるしま)」の海岸で3月20日、壱岐高校2年の椎名隼都さん(17)が遺体で見つかった。

椎名さんは長崎県の離島留学制度を使って里親の元で生活していたが、同月1日に行方がわからなくなり、17日から公開捜査をしていた。死後2週間以上とみられ、県警で死因を調査している。

亡くなった椎名隼都さん(17)

この問題を巡っては、週刊文春が失踪後に「台風の中、外で正座させていた」「食事のおかずが里親一家と比べて少なかった」などの虐待疑惑を報じれば、NEWSポストセブンが里親Aさんの「反論」を掲載するなど、場外乱闘の様相を呈している。

そもそも離島留学は、1970年代に長野県から始まり全国に波及した山村留学制度にあやかり、長崎県が2003年度から全国に先駆けて「高校生の離島留学制度」を導入した。

同制度では県内外に広く生徒を募集し、壱岐高校や対馬高校など5校で受け入れが定着。壱岐市では2018年度から小中学校の児童・生徒に対象を広げた「壱岐市いきっこ留学制度」を開始、「里親留学」「孫戻し留学」「親子留学」の3タイプを提唱し、補助金制度も整備した。この制度を利用し、昨年の段階で壱岐島には小中学生41人、高校生36人が留学している。

このうち里親留学はホームステイ元となる里親に月学8万円(食事代込み)の委託料が支払われ、実の親の負担は半額の4万円で、残りは補助金で賄う方式だ。

椎名さんの里親のAさんは4人家族で、椎名さんを含めた7人の留学児童・生徒と一緒に生活していた。

椎名さんは中学2年時からAさんを里親に留学生活を送っていた、半ば「ベテラン」。失踪当日は高校の卒業式で、3年生の留学生たちは卒業式を終えてその日のフェリー最終便で本土に帰る慣習になっていた。

椎名さんも卒業する留学生を見送るため、Aさんらとともに船着場の郷ノ浦港に向かったが、「マスクと傘を忘れた」と言い残してその場を離れて以降、行方が分からなくなっていた。

里親のAさんは集英社オンラインニュース班の取材に対し、椎名さんを預かるようになった経緯から、これまでの報じられたことなどについて丁寧に語った。誤解を避けるために一問一答形式で忠実に再現する。

叩くなら嫁でなく自分を叩いて欲しい

――過去に留学生としてAさんと一緒に生活していた方の証言として、食事が少なかったと週刊文春では報じられました。一方で、楽しそうに食事している様子を写真で見たことがあるという方もいました。実際はどうだったのでしょう。

私はお腹いっぱい食べてほしいという気持ちですし、並べた食事で足りないようであれば他にも準備をしていました。SNSでも一部食事の様子を投稿しています。

文春さんは元留学生が告発したみたいな見出しで書いてますけど(事実とは異なるため)、実際は周りの大人たち(島民)の巻き添えを食っている(リークしたことを非難されている)のではないかと心配です。(Aさん、以下同)

――隼都くんにはどういう接し方をされていましたか?

隼都自身の生い立ちや事情もありますから、私たちが本当に親心で、高校卒業なり大学に行くまで、うちにいろと言って、いよいよ大学まであと一年ちょっとだね、って話もしていたし、島を出て大学に行ったらお金と食べ物に困るから、食べもの屋さんでアルバイトするといいよって話もしました。

そんな話をしてたけど、隼都本人が変わっていく自分の気持ちを読み切れなかったのかなと感じます。今思えばカウンセリングなんかもそうだし、僕らも気持ちに余裕を持って接しなきゃいけなかったんです。

隼都と同室の子が今年の1月にうちを出たんですよ。それからの隼都はかなり不安定になっていたのに私達が気づかなくて。確かに元気はなかったんですけど。

ラケットを持つ椎名隼都さん

――その子と隼都くんは仲が良かったんですか?

9か月も一緒で家族のような存在ではあったと思います。その子は元々ゲーム依存がひどい子で、自立をするためにうちに預けられた子だったので、「ゲームは21時まで」みたいなルールを作らざるを得なかったんですよ。

彼なりに我慢して生活していたんでしょうけど、我慢できなくなってうちを出て行ったんだと思います。本人からは相談もなく、実親さんから急に出ることを伝えられました。

――ネット上ではいろんな批判的な意見があるのをご存じですか。

ネット上には個人情報や電話番号も晒されてますし、職場の部下宛に「お宅の上司はこんな人だよ」っていうメールや、誹謗中傷のような手紙まで届いてますね。

嫁さんには「SNSは見るなよ」と注意しているのですが、つい見てしまうんですね。ネットでは嫁さんの方が悪いみたいな内容もあるから、思い詰めないようにしてほしい。嫁さんが叩かれるのはやっぱり辛い。叩くなら、淡々と取材に応じる自分を叩いて欲しいです。

「隼都はゲームへの依存がひどかった」

――お金のために留学生を受け入れていたとの意見もあります。委託料の使い道は?

贅沢なんて全然ですよ。ほぼほぼ残らないですから。一番大きいのは食費ですね、高校生になったら給食ではなくお弁当ですからね。あとは送り迎えの移動費とか。

少し残った分があっても、みんなで使う机や、みんなで使う道具を買うのに使ってました。あとは全員自転車があるんで駐輪するためのスペースの改築に使ったりもして、生活水準を上げるのに使いました。

――文春ではお弁当が夕食の残り物だとか、8~9割が米だったみたいに書かれていましたが。

晩ご飯はみんなに腹いっぱい食べてもらうために作ると、バイキングのように大皿で料理を出すようになるんですけど、そうすると残ることがあるんですよね。そうなると翌朝に朝食でそれを食べたりとか、お弁当にすることはありましたよ。

――隼都くんはゲームが好きだったんですか?

隼都はうちに来る前はゲームの依存がひどかったんですよ。だからeスポーツの大会が島で行われた時なんかは凄かった。何年もやってないのに元々やってたゲームがあるとすごく上手でした。

うちに来てからは、隼都はスマホにはゲームアプリをひとつも入れていなかったし、うちにあるビデオゲームも隼都は全然やっていませんでした。やり出すと止まらなくなるから、我慢してたんだと思います。

――元々スマホも依存してしまうからという理由で、自分から預けてたんですよね。

そうです。そもそも『いきっこ留学制度』のルールの中で、中学生まではスマホを持たせないという決まりがあるんです。もし実親に電話をしたければ里親に電話を借りて電話するとか、それに基づいてやっていただけなんですよ。

隼都は高校生になってスマホを持つかと思ったら、依存したくないからという自分の意思で預けていたということです。

「いきっ子留学制度」HPより

――日常的に暴力や暴言はあったんですか。

うちには高校生は3人いて、下の子たちをリードしてくれよ、なんて話もしてました。寄り添っていたからこそ叱るところではハッキリ叱るし、いろんなところに連れて行ったり、可愛がる時は可愛がるし、そんな中で日常的に手を上げてたと言われるとびっくりしますよ。

隼都が自殺したいと言った時に、一度手を上げてしまったことはあります。「もっとしっかりしろ」ってビンタして体を揺すって。

これは関係各所にも報告しているし、警察にも言いました。そういう風に考えないようにしてあげたいっていうのもありますし、強く生きようなって話もたくさんしましたね。

隼都は褒められるのが大好きだったんですよ。その代わり怒られてしまうとすごく落ち込む子でした。その落ち込みで「もう自殺したい」とか「僕なんて生きてなくていいんだ」って自虐に入ってしまって、自分の頭を殴ったりしてた時もありましたから。

「台風の中、正座はさせていないが…」

――失踪する直前にも叱ったことがありましたか。

直近は3月1日の話ですね。隼都の部屋は1階で、僕ら夫婦や子供たちの部屋が2階にあって、常日頃から「用事もないのに2階には上がってはいけないよ」という決まりにしていました。

ところが3月1日の昼、2階の子供部屋の布団に隠れてたのを嫁に見つかって「見送りするための洋服がないから2階に探しにきた」と言い訳をしたそうなんですけど、2階に隼都の服があるわけないでしょって話になって。

あとから警察の調査でその時間帯にスマホを触っていたってわかったんです。本当は普段から頻繁にスマホを触っていたようなんが、全然気づきませんでした。だからバレたらどうしようっていう考えがずっと隼都の頭の中にあったのかもしれません。

その何日か前に、隼都のスマホケースが空っぽで、スマホがないって大騒ぎしたことがありました。多分「死にたい」ってスマホに残してた頃だと思うんです。失踪後に警察の調査で2月22日にそのメッセージを入れてたのがわかったんで。

子供達の迎えに隼都一人を家に残していって、帰ってきたらスマホがケースに戻ってたんですよ。これどうしたのって言ったら何も答えなくて、もうそこはうやむやのままです。

使いたい時はいつでも言ってくれって伝えていたんですが、自分がスマホに依存するのがわかってるから言いたくなかったのかもしれない。

むしろ部活の遠征とか連絡とれなきゃ不便なので、こっちから持たせてた時もあったんです。でも本人から「使いたい」と申請してきたことはなかったです。

――台風のなか正座させたという報道もありましたが事実ですか?

正座はさせてないです。台風の話は去年の夏のことで、発端は隼都のスマホを他の子が勝手に使っていたことだったんです。

21時になったらスマホを回収するボックスがあるんですけど、そのボックスを置きっぱなしにしてたら隼都のスマホがなくなっていた。しかも隼都が寝てる時だったので、それはおかしいだろと問い詰めていくうちに、実際に触っていたのは自分の子供2人と留学生2人の計4人が、どうやら動画を見ていたらしいということになった。

隼都にも留学制度の決まりで、他人にスマホを使わせたらダメだぞって言ってたので、みんなで外に出て展望台に行った。「台風の中、なぜこんな状況で話をするかわかるか」と言いながら、展望台の広場で風の影響受けないようにしっかりとあぐらで座って、全員で話をした。

でも結局寒いのもあって10分もいなかったんですよ。まあでもせっかくの機会なので「台風の日に外出たことあるか」とか話したり、帰り道は笑いながら手を広げて風の強さを感じてみたり。

帰ったら嫁さんが温かいコーンスープを用意してくれていて、それを飲んでみんなで交代でシャワーを浴びつつ、一人ひとりにもうこんなことをするなよと釘を刺しつつ終わりました。

壱岐島

Aさんの話通りであれば、「虐待」と表現するのは大げさかもしれない。しかし、椎名さんがAさんに悩みを打ち明けられないまま失踪し、若く尊い命を散らしてしまったのも事実だ。後半では地元で知られているAさんの人となりや、留学制度を支援してきた自治体の反応も含めて検証する。

※「集英社オンライン」では、今回の“事件”や里親にまつわるトラブルについて取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:

shueisha.online.news@gmail.com

Twitter

@shuon_news

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班