「una derrota dolorosa」

 試合後の記者会見で、ガンバ大阪を率いるスペイン人監督ダニエル・ポヤトスは、そう総括した。スペイン語で「つらく苦しい敗北」という意味だ。

「残念な結果でした。前半、相手のアグレッシブさや強度に押されたところは、自分たちが成熟する必要はあるでしょう。しかし、その後は互角の戦いに持ち込み、逆転もできたはずの試合でした。いいプレーができたし、勝ちに値する試合でしたが、サッカーは気まぐれな側面も持っている......」

 善戦が勝利に結びつかなかったことを、スペイン人指揮官は悔しがった。

 3月12日、大阪・吹田。G大阪は本拠地にサンフレッチェ広島を迎えて1−2と敗れている。先制されながら同点に追いつき、その後も決定機を作った。しかし終了直前にPKを献上し、失意の黒星となった。

 要約したら、際どい展開での負けではあった。しかし、はたして「勝てた試合」だったのか?


サンフレッチェ広島に敗れ、厳しい表情で引き上げる宇佐美貴史(ガンバ大阪)

 前半2分、G大阪はいきなり先制を許している。

 右サイドをしつこく攻められると、守備がずれる。寄せがやや甘くなり、クロスを入れられる。広島は人数をかけていて、エリア内で数的同数、数的不利に持ち込まれていた。ダワンは背後を取られ、ネタ・ラヴィはサポートに走れず、カバーに入ったセンターバックは足を滑らせ、その結果、もうひとりが中に絞ると大外が空いて、ナッシム・ベン・カリファに叩き込まれた。

大きなミスではない。しかし、小さなミスの連鎖があった。広島が阿吽の呼吸で人が湧き出てきたことに比べたら、大きな差だ。

「立ち上がりは大事、というのはわかっていたんですが、相手の勢いに押されてしまって、落ち着かずに失点してしまいました。そこはひとりひとりが考えていかないといけないところで......」(G大阪/東口順昭)

 厳しく言えば、チームの完成度の差が出たと言える。広島がパス交換と前へのランニングがひとつのパターンになっていたのに対し、G大阪はどこか緩慢だった。集中が足りなかったというよりも、組織としての戦いが根づいていない。あっけない失点の典型だ。

【「個人」の能力は高いが...】

 前半、G大阪はほとんど押し返せていない。シュートも数えるほど。横パスが多く、ポゼッション率は上がったが、ゴールに迫る怖さは乏しかった。

 ただ、サッカーは気まぐれなところがある。

 広島は後半開始から選手を交代し、1トップに変えたことで、前への圧力が減った。チームデザインは不明瞭になり、形勢が逆転。反撃するしかないG大阪の攻撃に、受け身に回った。

 その途端、G大阪のエースである宇佐美貴史が躍動した。ライン間でパスを引き出し、それをワンツーで持ち込み、エリア内に正面から迫る。どうにかクリアされたボールを味方がミドルを打つと、押し込む形で破竹の勢いとなった。

 69分、左に流れてボールを受けた宇佐美は、スピードを殺すことなくエリアに向かってドリブルを開始。一気にエリア内に侵入し、立ち塞がったひとりを外し、二人目がブロックしてくるのを構わず右足を強く振ると、ボールはそのままゴールネットを揺らした。単騎での打開だった。

「相手はマンツーマン気味に来ていましたが、後半になって(動きが)落ちてきて、いい時間帯になって、1点とることができた。あそこでたたみ掛けることができたはずで。2、3点目をとれなかったところが勝てない要因かな、と。終盤、相手に決勝点を決められたのは、主導権を渡してから生まれたもの」(G大阪/宇佐美)

 広島は選手交代のカードを切って2トップに戻すと、流れを再び引き寄せた。後半から送り出した選手(松本泰志)を下げる決断は簡単ではないはずだ。彼らはその賭けに勝ったわけだが、即、機能したのはチームの戦術的基盤のおかげだろう。

 G大阪は、宇佐美だけでなく「個人」が能力の高さを示した。21歳の半田陸は、プレスを受けながら展開するキックや、鈴木武蔵へのシュートに直結する縦パスなど、随所に非凡さを見せている。サブやメンバー外の陣容を見ても、下位に沈む戦力ではないはずだ。

 ただ、戦力や戦術の整合性が見えないのだ。

 たとえば、東口、谷晃生と、二人も日本代表クラスのGKがいるのは違和感がある。前節のヴィッセル神戸戦で4失点したことから、谷から東口への交代になったのだろうが、そうした短期的視点での起用は、GKがナーバスになるだけだろう。この日は、東口がネタにつけたボールを奪われ、PK献上につながってしまったわけだが、次はどうするのか。

 また、4−3−3を用いるのは悪くないが、このシステムは1対1で違いを見せられるウイングがいないと機能しない。1トップの適性、宇佐美のインサイドハーフ起用、ネタのアンカー起用なども、はたしてベストポジションだろうか。どこか窮屈そうに映る。

「人々は楽しんでくれたと思っている」

 ポヤトス監督はそう言って胸を張った。試合展開はエキサイティングだったと言える。勝っていても不思議はない。しかし、チームの未来図は見えたか?

「4試合が終わっただけで落ち込むとか、絶対やっちゃいけなくて、ここから勝ち点を取れると信じて進むしかない」

 宇佐美の言葉だ。