お互いに二度目の結婚となった45歳と50歳のカップル。2人の幸福な生活とは? (イラスト:堀江篤史)

「浩平くんとは一緒に子育てはできないな。家族をほったらかして出張ばかりなんて許せない。ぜったい無理! 前の夫は育休まで取って子どものことをよくみてくれました。それはすごく感謝しています。未練はないけどね!」

「お互いに子離れしたタイミングで知り合えてよかったよね。経済力もある女性と一緒に暮らすってなんて楽ちんなんだろう」


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ここは東京の下町にあるマンションの一室。今年の春に結婚したばかりの岡本美穂さん(仮名、45歳)と浩平さん(仮名、50歳)にお招きいただいた。

元ソムリエで自衛隊で料理人を務めたこともある浩平さんが、小粋なエプロン姿でフランス料理のコースを作ってくれるらしい。サーブと料理を同時並行しながら自分もワインを飲んでいる浩平さん。余裕の表情だ。2人とも赤裸々トークなのはワインが進んだせいではなく、経験と年齢によるものだと筆者は感じた。

お見合い結婚した夫と30代後半に離婚をした美穂さん

21歳のときにお見合い結婚したという美穂さん。前夫との間に2人の息子がいる。家庭円満だったと思っていたが、30代後半になって前夫に「好きな人」ができたことで夫婦関係は終了。調停を経て離婚をした。

「別居した頃は息子たちが中学生と高校生の難しい時期でもあってモヤモヤしていました。でも、離婚した頃には気分サッパリ。調停の帰りに前夫とランチをして、『(月8万円の養育費を)よろしくね!』と言って別れました」

息子たちが巣立つまでは再婚するつもりはなかった。ただ、一緒にお酒を楽しく飲む相手は欲しい。飲み会などで知り合った男性とお付き合いすることはあったが長続きはしなかった。

本気で婚活を始めたのは昨年の春。それぞれ大学と高校を卒業していた息子たちがほぼ同時に1人暮らしを始めた。美穂さんは3LDKのマンションで1人きりで過ごす時間が増え、孤独感を募らせたと振り返る。

「夜は1人でもいいんです。今までも息子たちが帰るより早く寝ることが多かったので。でも、朝はたいてい誰かが寝ている気配がありました。息子たちがいなくなってガランとした家に住むようになって、これは寂しいわ〜と思いました」

マッチングアプリで浩平さんと知り合う

酒場で出会った既婚者と付き合ってしまった時期もある。しかし、「こんなことをしていたらいかん」と思い直し、10歳年下の独身の女友達と一緒にマッチングアプリに挑戦することにした。

「5人ほどと会いましたが、やっぱり既婚者がいました。最初は私と同じく子どもがいるバツイチを装っていたのですが、なぜか『元嫁』というワードを口にしないんです。おかしいなと思って、『結婚しているよね?』とかまをかけたら『なんでわかったの?』と白状しました」

危ない橋はもう渡りたくないと思っていた美穂さん。その男性には深入りせずにマッチングアプリを継続し、昨年末に浩平さんと知り合うことができた。

美穂さんの相手選びの条件は、年齢は一回り年上までで、1人暮らしをしていること。できれば未婚よりも自分と同じくバツイチがいい。体型などは問わないがプロフィール写真を見たときのフィーリングも重視した。

いいね!を押してくれた浩平さんとはすぐにLINEでつながり、お互いの本名も教え合った。しかし、小規模の建設関連会社で管理職をしている浩平さんは接待の忘年会が続く時期に突入。実際に2人が会えたのは1カ月後のことだった。

美穂さんにとってはこの1カ月間がよかったのかもしれない。毎日のように浩平さんとLINEでやり取りすることで「会話の相性」を確かめ、同時に彼が誠実な人物なのかをそれとなく探ることもできた。

デートが実現してからの展開は早かった。お互いのキーワードは「酒を飲む」ことだったので、美穂さんはデート場所を上野駅周辺に指定。昼飲みを楽しむ人が少なくない町である。

「1軒目で、LINEや電話とのズレがないことを感じました。話もかみ合って、すっごく楽しい! この人はきっと大丈夫だと直感したんです。大丈夫じゃないと感じたら1軒目で引き上げていましたが、この日は結局6軒ハシゴしました」

決断が早かったのは浩平さんも同じだ。2軒目で早くも美穂さんに真剣に交際してほしいと告白した。自分はもう50歳なのでグズグズしている時間はもったいない。よかったらお付き合いしてくれませんか、と。美穂さんは明るく「ハーイ!」と返事をして乾杯。大人のリズムである。

「5軒目ぐらいにお互いにベロベロになり、浩平さんは東京の西のほうにある自宅に帰る気がしない、ということに。ホテルに泊まるぐらいならうちに来たら、と誘いました。もちろん、変な意味ではありません。その日は次男が仕事仲間とうちで宴会をしているので一緒に飲もう、と提案したんです。たまたまですが次男は浩平さんと同じ業界で働いています。話が合うと思いました」

浩平さんは快諾して美穂さんの家に向かい、次男くんたちと「どんな現場に行ってんの?」と会話しながら飲み交わした。オープンマインドな男性である。

「包容力がある」と好意を持たれやすい浩平さん

ただし、浩平さんは家庭的な人物ではない。冒頭で美穂さんが指摘したように「家族をほったらかして出張ばかり」をしていたことも影響し、一度目の結婚は7年間で崩壊した。

「月のうち4分の3は全国出張があって家に帰れませんでした。幼い娘と息子を1人で見ていた妻はパチンコにハマるようになり、彼氏も作ったんです。あるとき予定より1日早く出張から帰ってきたら、私のジャージを着た男が居間で新聞を読んでいました」

わかりやすい修羅場である。離婚して前妻に養育費を払いながら1人で暮らす道を選んだ浩平さん。ちなみにその金額は子ども2人分で月8万円。養育費の相場なのだろうか。美穂さんが受け取っていた額と同じである。

清潔感がある外見で、落ち着いた物腰の浩平さん。異性からは「包容力がある」と好意を持たれやすいのだろう。なじみの酒場で飲んでいると女性の一人客と仲良くなり、交際に発展することが多かった。

「僕のような男に寄ってくるのは、いわゆるメンヘラ系です。よく言えば自己主張が強い人。私は来るもの拒まずではありますが、包容力なんてこれっぽっちもありません」

期待を裏切られたと思うのだろうか。浩平さんと交際した女性は次第に不安定になることが多かった。最後に同棲していた女性からは鍋を投げつけられて骨折したという。

「給料を全額渡しても『お金が足りない』という無職の女性でした。かなり痛い方でしたね……。もう無理だと思って別れたのが昨年の11月です。彼女と別れたことよりも、一緒に飼っていた猫を持っていかれたことのほうがショックでした。寂しいな、と初めて思いましたね」

浩平さんはスマートだけど情はさほど厚くない人物なのだ。酒場で「優しそう。頼れそう」と勘違いされて好かれるよりも、マッチングアプリで多くの候補を見て自分からアプローチするほうが正しかったのだろう。

「私がいなくても食べていける人が理想です。その点、美穂さんはちゃんと仕事をしているし、私の仕事もちゃんと尊重してくださる、と感じました。一緒に住んでいない頃、電話もできない時期もあると伝えたら『いいよ』と受け入れてくれたのはうれしかったです」

人生の後半戦を一緒に過ごす相手は飲み友達でいい

お酒好きの浩平さんは美穂さんの地元でもある下町の酒場を大いに気に入り、東京の西部地域にある部屋は撤収する予定だ。職場までは少し遠くなったとはいえ、片道1時間ほどで通える。

美穂さんは小さな会社の事務を一手に引き受けており、朝4時起きで出社しなければならない。浩平さんが美穂さんの広い部屋に引っ越してくることが現実的だった。

「私の生活は何も変わりません。毎日、浩平さんと一緒に食事ができて、休日は今日みたいに美味しい料理をいろいろ作ってくれます。スーパーで食材を買うのが楽しみになりました。外で飲むことは減りましたね。家で飲んだほうが楽だからです。

二人の子どもを作るつもりはさらさらありません。孫が生まれたらうれしいけれど、一緒に住みたいなんてまったく思いませんよ。30分ぐらいかわいがれば十分です」

浩平さんの娘と息子もすでに成人している。息子のほうとはオンラインゲームだけでつながっていて、お互いをハンドルネームで呼び合っているらしい。

「ボイチャ(ボイスチャット)で結婚したよと報告しました。おめでとう、と言ってもらいましたが、顔を合わせる機会は今後もないと思います」

人間関係にややドライな感覚の持ち主である浩平さん。2人の息子を育て上げて生活を楽しむことに集中したい美穂さん。それぞれ自立しつつ、あれこれ気楽にしゃべれる晩酌の相手が欲しいという点で一致している。人生の後半戦を一緒に過ごす相手は飲み友達でいいのかもしれない。

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(大宮 冬洋 : ライター)