マイナポイント1兆8000億円、何のための大盤振る舞いか 第1弾の7倍、国に狙いを聞く
マイナンバーカードの普及策として、カードの取得者に買い物に使えるポイントなど最大2万円分を付与する「マイナポイント事業第2弾」が始まって10日あまり。第1弾は最大5000円分のポイント付与だったが、今回は最大2万円分と大きなインセンティブを与えている。
予算規模は約1兆8000億円で、第1弾(約2500億円)の約7倍に上る。「ばらまき」とも見える、なりふり構わぬやり方をしてまで普及させたい背景は何か。総務省に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
●総務省「経済対策やデジタル化を進める目的がある」
今回のマイナポイント事業第2弾は6月30日から始まった。2021年度補正予算に盛り込まれた事業で、マイナンバーカードを新規に取得すると最大5000円分、健康保険証としての利用登録と、公金受け取り用の口座を登録した人にそれぞれ7500円分のポイントを付与する。既にマイナンバーカードを持っている人でも申請できる。カードの申し込み期限は2022年9月末、ポイントの申し込み期限は2023年2月末だ。
なぜこれほどまで大盤振る舞いがなされるのか。国は2022年度末までにマイナンバーカードを全国民に普及させる目標を立てている。これまでマイナンバーカードを健康保険証として使えるようにするなど、利便性を高める努力をしてきたものの普及の動きは鈍い。6月1日現在、全国民における交付枚数の割合は44.7%にすぎない。
総務省のマイナポイント施策推進室の担当者は、今回の事業の狙いについて「マイナンバーカードの普及はもちろんですが、それ以外にも経済対策や、キャッシュレスを促進しデジタル化を進める目的があります。予算規模は大きいですが、バラマキではありません」と話す。
●第1弾事業の利用者は想定の半分、第2弾は順調
第1弾事業の給付ポイントは最大5000円分だったが、今回は2万円分のため「前回よりもインパクトが強く、カードの新規申請者が前回以上に伸びることが期待できます」(担当者)。
確かに筆者がマイナポイント事業の第1弾について取材した時には「マイナンバーカードの申請やその後の手続きが面倒で、5000円分ではとても申請する気になりません。1万円分なら申し込んだかも」という声があった。第1弾の事業では5000万人分の予算を確保したものの、実際に事業を利用した人は、2534万人と半分ほどだったという。
では今回の事業は、どれほどの勢いで申請者が増えているのだろうか。総務省によると、マイナポイントアプリを利用した申し込み件数は7月5日までに380万件。既にマイナンバーカードを持っている人も、新たに健康保険証利用や公金口座開設のポイントを申請すればカウントされるため、全てがカードの新規申請者とは言えないが、勢いはあるようだ。ちなみに第1弾の時の申し込み件数は、開始約1週間で85万件だった。前回と比べると申請者数は堅調だ。
●専門家「カード取得のメリットを増やすことも考えるべき」
マイナンバー制度と行政のデジタル化に関する政府のワーキンググループのメンバーで、東京財団政策研究所の森信茂樹・研究主幹は今回のマイナポイント事業についてこう話す。
「マイナンバーカードは、デジタルガバメントを進めていく上で基礎となるものです。政府が、なりふり構わずインセンティブを供与して進めることはやむを得ないでしょう。
一方で、政府はカード取得のメリットを増やすことも同時に考えるべきです。マイナンバー制度のメリットは、個人番号で把握している所得情報を必要なセーフティーネットに無駄なく、迅速に給付できるという点です」
森信氏が提唱するのが、政府が運営する個人向けサイト「マイナポータル」の利便性を高めることだ。マイナポータルはスマホにアプリをダウンロードし、マイナンバーカードでアクセスすると、健康保険や税、年金といった個人情報を確認することができる。国は民間企業との連携も進め、一部の生命保険会社は、年末調整や確定申告で必要な控除証明書の発行に対応している。
このマイナポータルを活用し、個人情報の確認だけではなく、児童手当やコロナ禍の各種給付金を迅速に行うのが「プッシュ型給付」だ。森信氏は特にフードデリバリーサービスの配達員のようなギグワーカーのセーフティーネットとしてマイナポータルの活用を提案する。「ギグワーカーとプラットフォーマーの合意の上で、本人のマイナポータルを経由し、個人の収入情報を得られるような情報連携を進めれば、社会保障関連の給付金など迅速なプッシュ型給付ができるようになります」(森信氏)。
森信氏は「本来は、マイナンバーカードの取得は義務化すべきだと考えています。また、マイナンバー制度に基づき行政のデジタル基盤の構築を進めるデジタル庁が技術的な知見を生かし、各省の政策づくりに関与していく、政策官庁としての地位を高めていく必要性もあると思っています」と話している。