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 兵庫県の神戸といえば、神戸牛、そばめし、ぼっかけ(牛すじとこんにゃくの甘辛煮)など、何かと名物グルメが多い都市です。

 先日、筆者はそんな神戸に仕事で出かけたのですが、「神戸には、“海苔巻きのようなお好み焼き”で有名なお店があるらしい」という情報が関西の知人からもたらされました。お好み焼きなのに海苔巻きってどういうこと?

 かなり興味を駆り立てられ、仕事の合間にそのお店『お好み焼き ひかり』へ突撃。その真相を確かめてきたので、さっそくご紹介したいと思います。

創業77年。地元に根付く老舗で絶品の粉物&焼きそばを堪能

JR神戸駅、地下鉄ハーバーランド駅から中央市場駅方面に向かって徒歩約15分。松尾稲荷神社を目印にすると便利

 というわけで、JR神戸駅から徒歩15分ほどの場所にある『お好み焼き ひかり』に向かいました。住宅街が密集するエリアで、松尾稲荷神社と駄菓子屋さんの間の細い路地に入ってすぐの場所にあります。

鉄板のあるカウンター6席、奥に4人がけのテーブル席と、2人がけのテーブル席が1つずつ

 お店の外観からして、すでに“只者ではない感”がプンプン。お持ち帰り専用の小さめの窓からソースの良い匂いが漂っています。店に入ると「いらっしゃいませ!」ととても気持ちよい声で迎えてくれました。

メニュー表。お好み焼きに焼きそば、アルコール、ソフトドリンクなど。中にはステーキの文字も

 カウンター席に案内され、早速メニューを確認。目的の「玉子のり巻き」の文字を発見しましたが、その横に「のり巻き」というメニューもあります。お店の人に違いを聞いてみたところ、のり巻きは、プレーンなお好み焼きを巻いたもので、玉子のり巻きはそれに卵が入ったものだそう。ちなみに、人気があるのは玉子のり巻きのほうだそうです。

 さらに「お好み焼きのメニューならどれでも+50円(トッピング海苔代)で巻くことができますよ」とのこと。

 例えば自家製のぼっかけ(牛すじとこんにゃくを甘辛く煮たもの)をのせた牛すじのお好み焼き「特製すじ焼き」(650円)をのり巻き(+50円)にしたのもオススメだそうです。

一度ゆがいてアクを抜いた牛すじを酒と砂糖、ウスターソースで煮込んだ自家製ぼっかけ

「特製すじ焼き」ののり巻きもかなり気になりますが、今回は初体験なので、シンプルな「玉子のり巻き」(650円)をオーダー。さらにお店のおすすめだという「ちゃんぽんそば」(1200円)も注文して出来上がりを待つことにします。

ふわふわ生地×海苔が激ウマ! 「玉子のり巻き」の味わいやいかに?

「玉子のり巻き」650円

 オーダーが通ると、目の前の鉄板で「玉子のり巻き」が作られていきます。その様子はまさに職人技としか呼びようがないほど見事でした。まずはキャベツと青ネギを混ぜた生地を鉄板に流し込んで円形に整形、片面が程よく焼き上がったらヘラでひっくり返して反対の面を焼いていきます。

 その後、数回に分けてヘラで生地を押して表面をこんがり焼き上げたのち、ソース2種類を塗り、ミキサーにかけたきめ細かい天かすをかけていきます。そして、満を持して登場するのがB5サイズほどの海苔。その海苔の上にお好み焼きをのせ、慣れた手つきで3回ほど巻いたら、カットして完成です。

お好み焼きが海苔巻きになっていく光景はどこか不思議で面白い

 お店の人に「生地に味が付いているのでそのまま食べてもいいですが、神戸のどろソースをかけて食べても、紅生姜と一緒に食べるのも美味しいですよ」と食べ方を説明され、早速ひと口。

 うーん、旨い! 海苔の香ばしさもさることながら、生地がふわっふわで驚愕しました。ほのかに感じるダシの優しい味と卵の甘みにうっとり。卵は生地に混ぜ込まれているようで、全体に玉子のマイルドな味わいが均一に広がり、よりコクが増しているように感じます。

 海苔巻の中心には肝となる自家製のどろソースと天かすがあります。ソースは2種類。「うちのどろソースは、とんかつ系の甘めでとろみのあるものを軸に2種類ともブレンドしてるんですよ」と三代目で看板娘のちかさんが教えてくれました。

 次は、自家製のどろソースをつけていただいてみます。甘辛いソースの味が、生地の優しい味にバッチリ合ってこちらも美味! ソースの主張が強すぎるかと思いきや、しっかりとお好み焼き自体の味も感じられ、バランスが秀逸。お好み焼き、ソース、そして海苔。異なる3つの味と食感が絶妙な塩梅で絡み合うことで、一般的なお好み焼きとはひと味もふた味も違うオリジナリティの高い味わいを醸し出しています。

三代目・看板娘のちかさん

 この独特のふわふわな生地について秘訣を聞いてみると、生地は粉にダシを混ぜただけのシンプルな構成で、山芋などは使っていないとのこと。

「生地を押し付けて焼き上げることで、表面を香ばしく、中はふわふわにしています。さらに海苔は、神戸の菊屋海苔さんのもの。時季ごとに一番良い海苔を持ってきてもらうようにしているんですよ」(三代目・ちかさん)。

 特別なことは何もしていないと語る三代目ですが、恐らく何十年もお好み焼きを焼き続けて体得したワザがなければ、同じ素材を使ったとしても、同じように美味しくはならないハズ。感服しました。

 そして、一番気になっていた疑問。なぜお好み焼きを海苔巻きにしたのか、その理由を尋ねてみました。ちなみに『お好み焼き ひかり』が創業したのは昭和20年前後。「のり巻き」はちかさんのおばあちゃんが昭和25年頃に考案したメニューなんだそうです。

「私が子供の頃にはすでにメニュー表に書かれていました。もともとこの辺りは港町で、造船が盛んだった街です。近くには海鮮市場もあったためか、よく近所の人が海苔を持ってきてくれていたんです。余らせるのももったいないから、お好み焼きを巻いてみようと思ったんじゃないですかね(笑)」とちかさん。

 ちなみに当時はそこまで売れておらず、人気が出始めたのは17~18年前からだそう。「人気になった理由は特に思いつきませんね」とちかさんは笑います。

テイクアウトにすると、ビジュアルはほぼ巻き寿司

 いやぁ、創業して数年ですでに存在していたという事実に驚きです。おそらく関西圏で海苔に巻かれたお好み焼きが食べられるのは同店のみ。なおかつお好み焼き自体も絶品となると、全国に目を向けても恐らく唯一無二ではないでしょうか。

大ぶりな海鮮がゴロゴロ、ボリューム満点の「ちゃんぽんそば」も旨し

「ちゃんぽんそば」1200円

「玉子のり巻き」を堪能したあとは「ちゃんぽんそば」をいただきます。こちらは豚バラ、えび、貝柱、タコ、イカ、もやし、キャベツ、仕上げに青ネギという具沢山の贅沢な焼きそば。麺は、地元・神戸の製麺所・木下製麺の北海道産小麦「ゆめちから」でつくるたまご麺だそうです。

鉄板にソースをかけると、ジューッという音と共に美味しそうな匂いが一気に立ち込めます

 合わせるソースは、「玉子のり巻き」にも使われている2種類のソース。少し薄めに味付けをすることで、お客さんが自分で好みの味に調節できるように仕上げているとのこと。

 いざズルズルと食べてみると、これまた絶品! エビのぷりっとした食感に、イカやタコの程よい弾力。そして海鮮の旨みを吸収したもちもちの麺がひとすすりごとに食欲を増進させてくれるようです。先に「玉子のり巻き」を食べて、ややお腹が満たされていた筆者でしたが、あまりの美味しさに箸を止めることなく、こちらもペロッと完食。ごちそうさまでした!

「美味しかったです!」と改めてちかさんに伝えると、「創業時からの味をコツコツ引き継いでいるだけですが、美味しいと言ってもらえると嬉しいですね。気取った店ではないし、できるだけ体に優しい素材を使うようにしているので、老若男女、子供から年配の方まで、赤ちゃん連れでもOKですので、気軽にいらしてください」と暖かい言葉が返ってきました。

 飾らない昔ながらのお好み焼き屋さんで、神戸の人情に触れながら食べる「「玉子のり巻き」は最高に美味。みなさんも神戸に立ち寄った際に、ぜひ訪れてみてください。

●SHOP INFO

店名:お好み焼き ひかり

住:兵庫県 神戸市兵庫区 東出町 3-21-2
TEL:078-671-4016
営:10:30~20:00(19:30LO)
休:水曜、第3木曜