※この記事は2012年10月06日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第240回

今年７月１日に生食用の牛レバーの提供が禁止された時に、ネット上では「豚肉は禁止になっていないので、豚レバーを食べだす奴がいる」というネタが飛び交っていた。私は「そんなやつはおらへんやろ～」と思っていたら、なんと豚レバーを生で提供している店があるのだという。(*1)

それに対して、厚生労働省は寄生虫やE型肝炎ウィルスなどのリスクがあるとして、注意の喚起を行なっている。(*2)

なんとも馬鹿げた話というか、豚肉は必ず加熱して食べるというのは当たり前のことだと考えていた。しかし、そうしたことが当たり前ではなかったり、お店の人が「大丈夫」といえば大丈夫だと信じてしまう人が、これほどまでに多いとは思わなかった。

こういうものは裏で、常連に対して「ミンナニハナイショダヨ」と、こっそり提供されるべきものであり、新規のお客に「うちの豚肉は新鮮だから生で食べても安心です」という根拠のないハッタリをもって、提供するものではないはずだ。

それをウリにして、大々的に売り出す手法をとるような店は、表に対して大々的に「うちは衛生観念のない儲け至上主義の店です」と喧伝しているに等しい。

記事中で豚レバーを提供している店は「鮮度や衛生面も徹底管理している」と主張しているが、そもそも食中毒は鮮度だけの問題ではなく、新鮮であることが食品の安全性を保障するものではないということを、私たちは牛レバーの一件で学んだはずである。元々生体が病原菌を持っている以上、鮮度に関係なく加熱を行うことでしか食中毒は防げない。そうした店が主張する「衛生面の徹底管理」とは、一体何の管理なのかと、その言葉の白々しさに首を傾げるばかりである。

こういう店が少しでも流行ってしまうということは、結局私たちは牛レバーの騒動で、何も学ばなかったということの証明である。

あの提供禁止前の狂乱とも言えるくだらない馬鹿騒ぎの中、本当に衛生観念があれば即提供が中止されるべきだったはずの牛レバーを、少なくない店が「駆け込み需要を狙え」とばかりに禁止ギリギリまで提供し続け、マスコミも「最後の食べ納め」とばかりに煽り立てた。その結果、駆け込みで牛レバーを食べた70代の男性が、O157の感染により死亡(*3)、他にも多くの食中毒患者を出してしまった。

その結果に対して、食肉業界は反省するべきであるはずなのに、今度は豚レバーの提供をするという、客のことを露程も考えない儲け至上主義の姿勢を隠そうともしない。

僕はもちろん、危険性が少し高いものに対して、何が何でも規制するべきだという考え方には反対する。

しかしながら、牛がダメなら豚と飛びついてしまう人が、消費者だけではなく供給側にもある程度おり、そうした人々によって消費者が危険に晒されてしまうという現実がある以上、単純に反対とばかりも言えなくなってしまう。

そうした現状を打破するためには、やはり消費者が知恵をつけ、豚レバーを安全と称して提供しているような店はもちろん、規制の前日まで牛レバーを提供していたような店を「あの店は金儲けのことしか考えていない」とシッカリと見極めていくしかないだろう。そうでなければなんでも御上に規制してもらうしかなくなってしまう。何も国民自ら「私たちはバカなので、守ってください」と御上に恥ずかしい姿を晒す必要などないのだ。

*1：人気「豚レバ刺し」牛禁止で（nikkansports.com）http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20121005-1027875.html
*2：豚レバーを生で食べるリスクに関する注意喚起（厚生労働省）http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002l7y7.html
*3：Ｏ１５７で男性死亡、千葉禁止前のレバ刺し食べる（47NEWS）http://www.47news.jp/CN/201207/CN2012071301002132.html

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter