【赤木智弘の眼光紙背】違法を強要する教育で、人が育つと思っているのか - 赤木智弘
※この記事は2012年08月11日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第233回８月６日。群馬県の中学校で耐震改修工事をしていたところ、壁の一部が崩れ、アルバイトとして作業していた作業員が下敷きとなり、搬送先の病院で死亡した。
工事現場に事故はつきものであり、どれだけ安全優先に作業をしていても、どこかで障害を伴う事故は起きる。事故の内容だけで言えば、さほど取り上げるような事故ではない。しかし、この事故が他の事故と少し違うのは、死亡した作業員が栃木県足利市の中学３年生で、14歳であったということである。
労働基準法は15歳に達した日以後、最初の３月31日が終了するまでの労働を禁じている。つまり例外はあるのかもしれないが、基本的には中学校を卒業するまでは働いてはいけないのであり、14歳の中学生がどうしてアルバイトとして働いていたのだろうか。 さらに驚くべきことに、この建設会社の社長の証言によると、中学生のバイトを学校や保護者、そして市の教育委員会までもが把握し、了承していたというのだ。しかもそうした生徒は今回死亡した生徒だけではなく、これまでで20人程度ということだから、この違法な労働が常態化していたということだ。(*1)
「グンマーでは14歳で成人だから、働いても何の問題もないのだ」という冗談はともかく、生徒個人が年齢を隠して働いていたわけでもなく、親が子供を無理に働かせていたわけでもなく、学校と親と工場がグルになって子供に違法な労働をさせていたというのだから、呆れて言葉も無い。
ネット上では「不登校の生徒の受け皿になっていた」などという話も出ているようだが、例えそうであろうと、そんなことは問題にならない。
仮にこの会社に送られる生徒が、学校にとっての厄介児であったとして、労働につけたことに更生したように思えても、学校や親が行ったことは単なる厄介払いであることに決してかわりはない。また建設会社側も日給5000円という安い賃金で働かせており、それぞれがそれぞれの勘定で得をするように動いていたとしか言いようがない。
そのことをさも「生徒のため」と考えることは、学校からこぼれ落ちた罰として、違法な労働を強制していることであると同時に、教育のためなら違法行為を行なってもいいという、誤った考え方を、教育の側が該当の生徒のみならず、その生徒が働いていることを知っている他の生徒全体に伝えることになる。決して法が完全なわけではないが、法を破ることをよしと伝えることが教育としてプラスになるとは、とてもではないが考えられない。
これも一種の賃労働ファンタジーなのだと思う。
人間として一人前であるということを、人が人を認めることではなく、単に賃労働に就いているという事実だけでしか認めることができない。だからダメな生徒は、過酷な労働につけてしまえば、それで一人前に成長させたのだと、都合の良い考え方をしてしまう。 かつて教育課程審議会会長として、ゆとり教育を推進したとされる作家の三浦朱門は「限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえればいいんです」と述べている。
ゆとり教育そのものは、社会から叩かれ、むしろ反ゆとりに舵を切ったかのように思われているのかもしれないが、しかしその実態として、私達社会が子供たちに与えている環境は、子供に違法な労働を課し、実直な賃労働者として働かせて恥じることがないような、情けない環境である。
それは決してゆとり教育の揺り戻しではなく、学校ではひたすら自我を消して勉強だけに励み、会社に就職したら実直な労働者たれという、反ゆとり教育の理想そのものであると、私は理解している。
*1：桐生の工事現場事故:バイトの１４歳、下敷き死 改修工事中に壁崩れ ／群馬（毎日新聞）
*2：
">１４歳死亡事故:中学生雇用「学校も把握」…群馬の会社（毎日新聞）
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
・@T_akagi - Twitter
