※この記事は2012年02月06日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第210回

　総務省の調査によると、ハローワークで相談された内容がまったく記録されず、次回以降の相談に活用できていない状態であったことが明らかになった。(*1)

　相談件数の71%に相談内容の記録がなく、希望する勤務地や仕事を無視した求人や職業訓練の斡旋などが常態化していたようだ。


　ハローワークに求職に訪れる人は、失業保険を受けて当面の余裕がある人もいれば、金銭的に余裕が無い人もおり、希望とする職種や働きかたなど千差万別である。

　しかし、そうした人たちにも一貫して言えるのは、今の日本は「賃労働についてなければ、人間として認めてもらえない社会」であり、たとえ金銭的な余裕があったとしても、仕事がないということは日本人としての尊厳の危機にある。その危機を解消するためにハローワークを訪れるのであり、公的機関として職業を斡旋する立場にあるハローワークは、人間を人間たらしめる最後の拠り所である。

　個人だけではなく行政の機能として、ハローワークに寄せられる期待は決して小さなものではない。

　かつてNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠が内閣府参与として、生活保護や職業訓練、住宅手当などのワンストップサービスを実現しようとしたが、この時に窓口としたのがハローワークであった。

　当然、ハローワークには職業に関する資料が揃っているということもあるが、一方で肝心の役所が、生活保護を受けようとする人に説教をして追い返したり、また国民健康保険や住民税の滞納に対して、借金取りとしてしか機能しておらず、貧しい人にとってはとても行きづらい場所になってしまっていることもある。そのことからハローワークの「貧しい人の側に立てる行政機関」という立ち位置にも期待していたのだと、私は解釈している。

　しかし、今回の調査結果のような体たらくを見るに、求職者やそれを取り巻く人たちがハローワークに期待をしていても、現場では期待されているという意識が全くなく、まるでバイトを紹介するかのように、右から左へ客を流そうとしているのだろう。繁華街に行くと、よく風俗の無料案内所があるが、あれとハローワークのどっちが親身になってお店なり仕事なりを紹介してくれるのか、両方とも知っている人がいたら教えてもらいたい。冗談はともかく、そのような態度では、とてもではないがハローワークは期待される役割を果たすことはできないだろう。

　最近「職業訓練を生活保護支給の条件にしよう」などと口にする人たちがいる。もちろん職業訓練を受けたからといって雇用の需要が増えるわけではないのでナンセンスと言う他ない馬鹿げた提案なのだが、飲食店を希望する求職者にコピーライターの養成講座を受けさせるような現状では、この馬鹿げた提案をする人たちの期待にすら答えられそうにない。

　ハローワークは様々な立場の人から、多くの期待を受けている。それに気づいていないのか、気づいていても気づかないふりをしているだけなのか。個人的に言えば、ハローワークの社会的役割は、警察や自衛隊に期待されるレベルと大きく違わないはずだ。個人的には年金にしか興味のない厚労省などとり潰して、代わりに「ハローワーク省」を作ればいいと思う。そのくらいに大きな役割を担っているはずである。

　いずれにせよ、当のハローワーク職員が、それだけ重い期待を寄せられているという自覚を持たない限り、なにも変わりようがないのだけれど。

*1：ハローワークに改善勧告　職業相談７割が記録せず　訓練と無関係な仕事紹介（スポニチ）http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/01/31/kiji/K20120131002542310.html

プロフィール
画像を見る赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。