「ヤクザとの交際を指摘したら、紅白から演歌が消える」 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年12月30日にBLOGOSで公開されたものです
「今年の紅白歌合戦、NHKは出演者の過去の暴力団との密接交際は問わないと言うことにしたようです」
ヤクザに関する著書を多数執筆し、新刊の「暴力団」（新潮新書）が20万部を超えるベストセラーになっている溝口敦氏と、元警察庁の芝昭彦弁護士が東京・日比谷の外国人特派員協会で暴力団排除条例に関する会見を開いた。（BLOGOS編集部 田野幸伸）
暴力団排除条例は「住民VS暴力団」
溝口：暴力団排除条例は、一言で言って、今までの警察対暴力団という枠組みが、住民対暴力団になる枠組みだと言われています。警察が後ろに退いて、住民あるいは企業が自己責任で、暴力団に対応していかなくてはならない、そういう条例。条例違反に対する罰は警告とか公表とか、非常に軽微なもの。しかしながら、一部企業は、条例の遵守に神経を尖らせており、暴力団排除条例のセミナーは一部上場企業の聴講者で満員になっています。中小企業は企業名を公表されることによって、銀行からの融資を止められ、公共事業の入札に入れなくなり、潰れるところが出てきている。
すでに一部企業に犠牲が出ているが、暴力団排除条例は、宅配便という業種でヤマト運輸が暴力団の荷受けをしないと通告し、荷受けの受託窓口である、例えばクリーニング店の店主が 暴力団の荷物を自己責任で拒否しなくてはならないと言う現実があります。
暴力団排除条例にあわせ、金融機関と不動産業界などでは、すでに暴力団の新規口座を開設しないとか、証券口座を開けないだとか、生保・損保も暴力団と契約しないとか、そういう方向にあります。
暴力団排除条例には中小企業を犠牲にし、暴力団の生活権・生存権を否定する面があります。テキヤはお祭りや花火から排除され、公共事業からも排除され、新規に口座が作れないという効果が生まれており、暴力団の子供の授業料自動引き落としができないというしわ寄せも生まれています。
問題は、暴力団の生活権の否定しながらも、暴力団対策基本法では暴力団の存在を認めているということ。諸外国においては、暴力団などの犯罪集団の結成、運営、加盟を禁止している国が圧倒的に多い。たが、日本では暴力団の存在を認めている。
暴力団排除条例が全国に制定されているのならば、法律にすればいいのだが、生存権や生活権を否定することになるので、法律に出来ない。ダブルスタンダードの状態です。
日本の警察は暴力団を完全に排除することが出来ない。江戸時代、テキヤや博徒の親分に、十手を持たせ、岡っ引きとして捜査人員の補助として使った、そのような歴史があるからだろうと思います。
暴力団排除条例は暴力団を直接規制するというよりも、企業舎弟やフロント企業、共生者とか周辺層を追い詰めていく事によって、資金源を断つ。しかしそれは住民や企業の責任で行われる事であり、日本政府はどうして法律で暴力団の存在を否定しないのか非常に疑問に思います。
暴力団そのものは暴力団排除条例に静観の構えですが、北九州市の工藤会という暴力団がヤマト運輸を相手について裁判の準備をしています。荷受けについて差別してはならないと言う運送事業法に違反しているという理由です。
また、年末に行われるNHK紅白歌合戦には、過去、暴力団との関係が取り立たされた、歌手が何人か登場します。NHKとしては過去の密接交際は問わないという選考をしたようです。そうでもしないと演歌歌手が誰も出場できないという事態になりかねない。そういうことで、暴力団排除条例が今後空洞化する危険性もあります。
質疑応答
Q:私は、暴力団はなくならないと思っています。福岡ではあきらかにその筋の人が県議会議長にもなった事があるほどです。暴力団が世の中から消えるのに何年ぐらいかかるのか。知り合いに聞くと、条例を守るなら廃業を選ぶと言います。（報復が）怖いのと、（いままでの）恩を仇で返すことは出来ないという人が大半です。今回の条例で暴力団は消えるのでしょうか？溝口：暴力団排除条例は間接的に規制する条例で、直接向けているものではありません。司忍山口組組長も、「まるで心配していない」と言っています。これで壊滅することはないと思います。しかしながら、元の経済に寄生する暴力団ですから、日本経済の不況に伴い、暴力団経済も衰退していく。そのために中堅暴力団からドロップアウトする層が出てきている。 そういった層が、徒党を組んでマフィアになっていく。暴力団は長い目で見れば衰退していく。
Q：弁護士、ジャーナリストは暴力団排除条例にどう対応するのか。
芝：非常に鋭い質問です。条例上「利益を供与してはならない」となっているんですけれども、条件がありまして、暴力団の活動を助長する、または暴力団が運営していることを知りながら、利益供与することが禁じられているんです。
ですので、ジャーナリストが暴力団の宣伝やイメージアップのために記事を書くと、ひょっとすると違反していると言われる可能性はあるかも知れません。
ただ、但し書きというのが条例にありまして、法律に基づいて利益供与する場合、例えばお医者さんが医師法に基づいて患者をを治療しなければならないと言う義務がありますから、暴力団を治療しても問題ない。あとは、暴力団が法的な権利に基づいて、無罪を主張したり、お金を返せと弁護士を依頼するのは憲法上認められている権利ですから、暴力団が弁護士を雇う場合も条例違反にはならない。
Q:金正日がなくなりましたが、ヤクザと北朝鮮の関係はどうでしょうか？
溝口：日本の暴力団のメンバーに、朝鮮・韓国籍の人たちが多数いるのは事実です。暴対法で指定された22団体のトップの数人は在日韓国・朝鮮の人たち。そして、数年前までは北朝鮮から覚せい剤を密輸するルートもあった。しかし、現在は北朝鮮からの密輸は難しくなっています。
ヤクザから金を受け取らなかった渡哲也
Q:スポーツ選手や芸能人がヤクザと縁を切るのに、どれぐらい時間がかかるのか溝口：暴力団員が組を抜け、「元組員」になるのに、慣習的には5年と言われています。暴力団との付き合いを断つのにどれくらいと言うことですが、（俳優の）渡哲也は稲川会の誕生日会で歌を頼まれ歌って、少なくないお金を帰りに差し出されたが、受け取らなかった。以後、稲川会には2度と呼ばれなかった。利益供与を断れば、暴力団はその人間を信用せず、警戒するので関係が断ち切れる。
Q:なぜ、暴力団がいなくならないのか？
溝口：警察による暴力団利用というのは、たとえば1945年敗戦直後、日本の治安が非常に乱れた。闇市を牛耳っていた、韓国とか台湾の人たちに対して、日本のヤクザが治安を回復させた。
それと、1960年の安保の時、左翼勢力に対抗するために、ヤクザや右翼などを動員して、鎮圧にあたるという計画が検討されたことがあります。歴史的に見て、日本の警察は、国が存亡の時に、暴力団は国側に立って治安をを守る働きをするんじゃないかという幻想があるんだと思います。
この幻想を断ち切ってもいい時期だと私は思いますが、依然として、日本は現在の暴力団対策法のような位置づけにとどまり続けているわけです。
