「野田政権には理想がない！」 離党届提出の中島政希議員に独占インタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2011年12月28日にBLOGOSで公開されたものです
議員会館でインタビューに応じる中島政希氏
この行動が呼び水となり、27日には小沢グループを中心に9人の衆院議員が離党届を提出。中島氏が起こした旋風は政界に大きなうねりを起こしている。
中島氏は「新党さきがけ」を経て、96年の旧民主党の結成に参加した古参メンバーの一人。鳩山由紀夫元首相に近いものの、特定のグループに属さず中間派を貫いている。衆院選では一貫して群馬4区から出馬していたが、09年の衆院選では同区の公認候補を三宅雪子氏に譲った上で、比例北関東ブロックで初当選を果たした。
15年近く所属して愛着もあるはずの民主党。そこから離党することに踏み切ったのはなぜか。ひっきりなしに来客が訪れ、電話が鳴る議員会館の中島氏の部屋で、詳しい話を聞いた。【写真・文：安藤健二（BLOGOS編集部）】
■民主党から理念が失われた
―旧民主党が産声が上げた時代からずっと民主党に所属されていましたね。
そうですね。新党さきがけを鳩山（由紀夫）さんと一緒に離党して民主党を作ったときの創立メンバーですね。それから20数年にわたって、本当に泡沫政党みたいな時代から政権交代するところまで見届けた生き証人の一人ですね（笑）
―その民主党を党内に残って改革するのではなく、あえて離党に踏み切った理由というのは何があったんですか？
私も随分、民主党を政権交代できる政党にするまでに自分なりに、自分の立場や地域で全力でやってきましたし、政権交代してからも民主党が政権を維持できるように、党内抗争からは一歩距離を置いてきたつもりですけどね。民主党はそれなりに、鳩山内閣・菅内閣は「掲げた政策を実現しよう」と努力してきたことは認められるんですけど、野田内閣になってからは、あまりに官僚の書いたシナリオ通りに物事を進める構造になってしまいました。特に財務官僚や、今回の（八ッ場ダムの件で言えば）国土交通省の官僚の書いたシナリオ通りに政策が進められていくと。この現象はどうしても、私流の力だけではどうにもならないことなんですが、他にもそういう人もいるんですけど、「何とかしなくては」という気持ちがずっとありました。
で、僕は比例で当選しているんですが、民主党を民主党たらしめている「理念の柱」ってのがいくつかあったと思うんですね。八ッ場ダムというのは、その象徴的な物だったんです。単なる公共事業の箇所付けの一つという問題ではないんです。民主党の理念の象徴だったわけですよ。それを捨て去るということを平然とやったということですね、野田政権が。これは「民主党が民主党でなくなる」ということにほかならない。
民主党は政権交代を実現したときの旗印があるわけですよね。その大きな理念の一つに八ッ場ダムがあったんです。民主党のマニフェストは真っ白だったのが、色あせて灰色だったけども、クリーニングに出せばまた白い旗に戻ると思っていたんです。でも、野田さんが今回やったことは、その旗を捨てて、黒いキレで作った新しい旗を立てたんだな。全く別のことですよ！八ッ場ダムを中止するために一生懸命努力してきたことと、（工事）継続と決定を下すことは、白い旗を黒い旗に架け換えるということですね。
―今までの子ども手当や、高速道路無料化など「マニフェスト違反」や「マニフェスト逸脱」と指摘されてきた問題とは全く別次元であるということですか？
そうですね。今までは「マニフェストを実現しようと努力してるけど財政上できない」という苦悩があったんです。色あせてるとはいえ、白い旗を取り下げてはいなかったんです。でも、今回のは完全な旗の架け替えです。
―「（八ッ場ダムを）やらない」と言っていたことを「やる」に転向したわけですからね。
やらないというか、「やっちゃいけない」と言ってきたわけです。「我々はこういう方向で日本を作りますよ、と。そのためにこういうことはもうしません」と言ってたのを、「やっぱりこっちで行きます」と言うのと同じです。
いわば「戦艦大和を造るのをやめて、航空戦力の時代に合わせて戦闘機をたくさん作ります」と言ってたのに、「やっぱり戦艦大和作ります」と変わったようなものです。
―ダムという名の大艦巨砲主義ですね。政権交代以前の自民党政権の時代に戻ってしまったということですか？
自民党政権と同じだとは言わないまでも、民主党が目指していた物を自ら放棄することで政権を維持しようと。理念よりも権力を取ったということですね。今やっていることは、民主党でやらなくても自民党でも同じことができますよ。八ッ場ダムなんか自民党の方が作りたいし、消費税も上げるし。
八ッ場ダム予定地をまたぐ国道用の橋脚（2009年9月、AP/アフロ）
それは官僚に調べてもらえば、「ダムを造った方がいい」という結論が当然出ますよ。消費税について聞けば、彼らは「15％に上げないと将来が不安ですよ」とも言うに決まってるでしょう。戦闘機だって10機より20機がいいってなりますよ。
でも、その通りにやってたら政治家なんていらないですよ！
今、（野田政権が）やっているのはそういうことですね。官僚の言うとおりに動いている。民主党はそういう政治を転換しようと思ったわけですよ。日本の統治システムは、これまで官僚が絵を描いて、政治家がそれにハンコを押していくだけでした。そうした官僚主導の政治を変えていくという意気込みで政権交代したのに、今の民主党は自民党時代以上に官僚主導になってしまいましたね。
―なぜそうなったのでしょう？
民主党の政治家から、理念というか志（こころざし）が失われたからですよ。「政権を維持することが大事だ」と。そのためには、どこまでも現実に追随していけばいい。「官僚の言う通りに波風起こさないようにやればいい」となってしまった。
物を選択するときには理念が必要でしょ。大和にするのか、戦闘機にするのかってときには、「戦艦大和は大事かもしれないけど、もしかしたら戦闘機の方がいいかもしれない」という政治的な判断が必要なんです。判断するためには理念がいる。そうした理念の力がないと、予算の何が大事で何がいらないか判断できないですよね。官僚を主導することはできないですよね。
―野田首相には理念の力が欠けているということでしょうか？
そうです。総理に欠けているから政権に欠けてるんだね。そうなると現状追随になるんだね。「ドジョウが何たら」って言ってたけど、一国の総理大臣がドジョウでは困るんだ。吉田茂が自分の弟子の佐藤栄作や池田勇人に、どんな書を送ったか。「呑舟（どんしゅう）の魚 枝流（しりゅう）に泳がず」という書を送ったんですね。これは「舟を飲むような大きい魚は小さい流れでは泳がない」という意味です。要するに、「舟を呑むような大きな魚であれ」と教えたわけです。「ドジョウであれ」と教えた人なんていませんよ（笑）。
「私はドジョウである」と言うのは、卑下して言ってるのかと思っていたんですが、実際にドジョウだということが露呈したんですよ。
―八ッ場ダム問題に関しては、野田首相は前田武志国交相に丸投げしていて、総理としての決断が感じられない印象を受けました。
そうです。その通りです。前田大臣も当初はいろいろ考えていたけど、「ああしなきゃダメだ、こうしなきゃダメだ」と官僚達に言われて押し切られました。それが官邸が追認したということですね。
―前田大臣はもともと建設官僚ですよね。
ええ。ですが、民主党歴が長い人なので、ダムを造ることにそんなに熱心であったとは思わない。
―「前田氏を国土交通相にする」という人事の時点では「八ッ場ダム再開ありき」ではなかったということですね。
と、思いますけどね。
―先ほどおっしゃってましたが、鳩山さんや菅さんが首相の時代にはまだマニフェストは生きていたと？菅さんの時代からは、若干変更があったようですが。
（菅さんの時代から）TPP参加問題や消費税増税の話は出てきたんで、おかしいとは思っていたけども、まだ（マニフェストを）「守りたい」という気持ちはありましたよ。菅さんには、良かれ悪しかれ、民主党がこうなる前からの責任者でありましたからね、そういう気持ちは私は感じました。脱原発政策なんかも、彼なりに考えて理想を実現していこうという気持ちもあったと私は評価していますけどね。
―彼らの政権には、理想を掲げる余地があった。それが野田政権ではなくなったということですか？
野田政権には理想がない！「理想過剰で鳩山も菅も失敗した。だから自分は現実主義で行くんだ」と（首相の）ブレーンが思っているんですね。でも、政権は三木内閣などのように理想主義過剰で倒れることもあるけども、現実に埋没して現実主義で倒れる政権もあるんだね。野田政権はそっちですね。
―普通の人だったら「これは変だろう」と思うような政治になってしまうのでしょうか。八ッ場ダムにしても、消費税増税にしても「こんなやり方をしては国民の怒りを招く」と気づかないのが不思議でならないのですが。
官邸の中にいると、普通の人の意見というか世間の風が入らないんですよ。会ってる人がみんな官僚だから、「官僚の言ってることが正しい」と思うようになってしまうんです。
―市民感覚とはズレてきてしまう？
ズレてますね。
―八ッ場ダムを着手すれば反発を招くことにすら気づかないと？
やるんだったらやるで、自分で説明しなきゃいけません。「方針を大転換します」と。それなのに（野田首相は）「検証した結果やることにしました」でしょう。検証したのは誰か？ってことですよね。
中島政希氏
―「もし八ッ場ダムが再開決定されたら民主党を辞める」というのは、いつごろから考えてらしたんでしょうか？
今年の9月に野田内閣ができて、そのドサクサの中で、関東地方整備局が「検証案」というのを出しましたね。検証案には「建設続行が適当だ」と書いてありました。そのときです。
「これを政府が認めるようなことがあれば、この政党には私は加担できない」と思いました。だから政治生命をかけて、そのときから反対運動をもう一回やり直しました。
そのときまでは政府を信じていましたね。「必ず中止するから任せてくれ」「本体工事はさせない」と言っていました。
―前原誠司・政調会長も八ッ場ダム中止に向けて積極的に動いてましたね。
前原さんは、前原さんなりに頑張ったと思いますね。
―最後がもうちょっと踏ん張ってくれても、という印象を受けましたが。
（政調会長の）職を賭すべきでしたね。「私の敗北でした」と報道番組で話していましたが、政治闘争はスポーツではありません。「負けました。次は頑張ります」というフェアプレーの精神でどうなるものでもない。「敗北しました」と淡々とされても困ります。これは命がけなんだから。私達と同じように（八ッ場ダム反対で）命がけで戦っている人間がたくさんいて、その先頭に立っているわけだから。
―そこは筋を通すという意味では、職を賭す・離党するといのは分りやすいですね。
（前原さんも）職を賭す決意があれば、もう少し違う結論になったかもしれませんね。前原さんには一生懸命に頑張っていただいたけども、最後のところの詰めの部分では「有難いけど不満を禁じえない」という風には思っています。
―今回の離党に当たってはどなたかに相談されましたか？それともお一人での判断でしょうか。
一人で判断しました。
―離党届を出してからは、地元の支援者の方からは「民主党を出ないでくれ」といった意見はありましたか？
そういうことはないですね。むしろ「（離党して）良かった」と評価してくださるご意見が多かったですね。あと、意外なところでは（元社会党委員長の）田辺誠先生からもお電話を頂いて、「よく決断した」とお褒めを頂きましたね。
■「反」というだけの新党ではダメ
―今日になってから斎藤恭紀議員らも民主党からの離党する表明をしていますが、集団離党もありえそうですが、中島議員も彼らと連携して一緒に新党を立ち上げたりすることはありますか？
最初に人数ありきじゃないと思うんですね。大事なのは「どういう国家像で政治を運営していくか」という理念の柱ですね。旗印ですよね。それに納得できるのならば、そこに参加するのは、やぶさかではないです。ただ、反消費税や反TPPなどの「反」というだけではダメですね。
―個別政策への「NO」だけでは旗印にならないと？
政党にとって大事なのは、国家像です。それをはっきり示してくれないと何とも言えないですね。
―中島議員が呼びかけ人となって「この旗に集まれ」という方式をされることはないですか？
まあ、それはそういう機会があればしますけど（苦笑）。まだ離党届を出したばかりですから、様子を見てからですね。僕も来年59で数え年でいえば還暦。新党運動も、新党さきがけ、民主党とずっとやって来ているから、新しい時代の政党は、新しい世代の人に作ってもらいたいと思いますね。
僕は民主党を今、批判しましたけども、「民主党が頑張って自民党政権を倒した」ということは大変な意義があると思いますね。これは明治維新に匹敵する意味合いがあったと思います。日本の政党政治、民主主義の歴史を一歩も二歩も先に進めたという意味で、大きかったんです。
何しろ自民党というのは世襲政治だったんだから。名門の御曹司が二世、三世で当選する。小泉純一郎さん、安倍晋三さん、福田康夫さん、麻生太郎さん。総理になった人のほとんどは、世襲議員です。
それをなくしたということは非常に大きいですね。民主党の場合には、鳩山さんと小沢さんを除けば、世襲の人はほとんどいない。みんな（政治家として）創業者なんです。「新たな人材を世の中に出した」「世襲政治を打ち倒した」という意味は非常に大きいですよね。
日本社会の流動化を一歩も二歩も進めたという意味で、僕は高く評価していますよ。
