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職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第14回は「私的なSNS投稿で炎上したら懲戒処分される?」です。TwitterやFacebook、インスタグラム、TikTokなどさまざまなSNSがありますが、気軽におこなった投稿が思わぬ炎上に発展することもあります。

笠置弁護士は「重要な企業秘密がSNSで漏洩されたような場合には、当然のことながら会社に実害が生じる可能性がありますので、懲戒処分の対象となりえますが、原則として私生活上で非行をしてしまったとしても、会社がそのことを理由に懲戒処分を下すことはできません」と話します。

●懲戒処分の対象となりえるとき

表現の自由は憲法21条により保障されているわけですが、会社に勤務している従業員がSNSを投稿した場合、内容によっては勤務先から懲戒処分を受ける可能性があります。

重要な企業秘密がSNSで漏洩されたような場合には、当然のことながら会社に実害が生じる可能性がありますので、懲戒処分の対象となりえます。

裁判例の中では、従業員が経営再建案について書かれた文書のコピーを社外に漏洩した事件や、会社の機密情報を持ち出して競合会社に就職した上でデータを漏洩した事件について、懲戒解雇が有効と判断された事例等があります。

従業員が会社を批判する投稿を行うことも、会社の利益を不当に損なう行為であるとして懲戒の対象となることがあります。

裁判例の中では、新聞記者が自らのホームページで取材源等の機密情報を公開しつつ、会社に対して「天然記念物級の古く汚れた組織」などとして批判したことを理由として行われた出勤停止処分が有効と判断された事例等があります。

ただし、企業秘密の漏洩や会社批判の言動が、内部告発として正当であると認められる場合には、会社はこのような言動を理由に従業員を懲戒処分に処したり、不利益な取扱いを行うことができません。

裁判例の中には、「会社が役員らによって私物化されている」と批判を行った従業員が懲戒解雇等の処分を受けたことについて、従業員側の告発には目的に高い公益性があり、告発の手段も正当と認められるなどと判断され、懲戒解雇等の処分が違法無効であって不法行為に該当すると認められた事例等があります。

●業務と関係ない不適切な投稿である場合は?

それでは、業務とは関係のない、私的な内容のSNS投稿で炎上してしまい、問題になったような場合にはどうでしょうか。

自社の従業員が業務外で行っている活動に会社が口出しをすることは、プライバシーの侵害となるため、原則として許されません。そのため、原則として私生活上で非行をしてしまったとしても、会社がそのことを理由に懲戒処分を下すことはできません。

その一方で、私生活上の非行の内容が重大で、その従業員の立場等からして会社の事業の信用性などにも悪影響が及びうるようなものである場合には、会社の社会的評価が不当に害されることになると言えますので、懲戒処分を下すことが認められる場合があります。

ただし、従業員には私生活上の自由があるわけですから、会社の社会的評価が不当に害されるか否かは、慎重に判断されることになります。

例えば、勤務先の事業とは全く関係のない内容の投稿で、SNS内で物議を醸したというだけであれば、いかに不適切な投稿であろうとも、勤務先が懲戒処分を行うことは許されないでしょう。

その一方で、以前インターネット上で仲間を募り、鉄道車両内にて集団で痴漢を行うという犯行が問題になりましたが、このような行為について鉄道車両内の安全を守るべき立場にあるはずの鉄道会社の従業員が、SNS上で煽動するようなことがあれば、その鉄道会社自体の社会的評価が低下するおそれが非常に高いと言え、懲戒処分の対象になり得るでしょう。

私生活上の非行を理由とする懲戒処分に関し、裁判所は、タイヤ製造・販売会社の従業員が、深夜に酩酊して住居侵入罪を犯したことで罰金刑の有罪判決が下されたことを受け、会社が懲戒解雇を行ったところ、会社の対面を著しく汚したとまでは言えず懲戒解雇は無効と判断しています。

その一方で、鉄道会社の従業員が他の鉄道会社の電車内で痴漢行為を行い戒告処分を受けた後、さらに別の鉄道会社の電車内で痴漢行為を行って逮捕されたことを受け、懲戒解雇された事案では、懲戒解雇を有効と判断しています。

判断の分かれ目は、その従業員の立場等や行為の内容からして、勤務先である会社の社会的評価を著しく貶めていると客観的に認められるか否かという点であろうと思われます。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/