グローバルダイニング訴訟、控訴へ 弁護団は「実質勝訴、形式敗訴」「主権者にボールを投げかけた判決だ」
飲食チェーン「グローバルダイニング」が、東京都から受けた新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づく時短命令は違憲・違法だとして、損害賠償を求める訴えに対し、5月16日の東京地裁判決は、同社への時短命令は違法としたものの、命令を発出した東京都知事に過失はなかったとして、原告の請求を棄却した。
判決後に開かれた会見で、同社の長谷川耕造社長は、判決を聞いた際の心境を問われ、「主文で『棄却』と言われたときはガクっときたが、(その後述べられた判決)要旨をしっかり聞いたら、こちらの主張が75%受け入れられたのかな」と話した。
原告の請求棄却という結論については、「都が勝った形になる」と表現。「このままでは納得がいかない」として、控訴の意向を示した。同社代理人弁護団によると、控訴の手続きは既にしてきたという。
●グローバルダイニングへの時短命令は「違法」
裁判では、(1)時短命令は同社を狙い撃ちした違法な目的でおこなわれたのか否か、(2)命令発出の要件である「要請に応じない」ことに「正当な理由」(特措法45条3項)があったかどうか、(3)命令を発出することが「特に必要があると認めるとき」に該当していたのかどうか、などが主な争点となっていた。
判決は、(1)時短命令は原告を狙い撃ちしたなど違法な目的で命令されたとは認めなかった。
また、(2)命令発出の要件である「要請に応じない」ことに「正当な理由」には経営状況等の理由は含まれないとした。
(3)命令を発出することが「特に必要があると認めるとき」に該当していたのか否かは、特措法に基づく(時短営業などの)要請に応じないことに加え、「施設管理者に不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があることを要する」と判示。
そのうえで、同社の夜間営業の継続が市中の感染リスクを高めていたと認める根拠は見出し難く、当時は新規感染者数が大幅に減少するなど医療提供体制のひっ迫状況も緩和されており、統計学に基づく分析では時短営業による来客数減少で抑えられた新規感染はわずかだったと認定。
4日間しか効力を生じない時短命令をあえて発出したことの必要性について、合理的な説明がされておらず、また時短命令の判断の考え方や基準について、公平性の観点からも合理的な説明がされていないとして、今回の時短命令の発出は特に必要であったとは認められず「違法」だとした。
●命令発出した都知事に「過失なし」
しかし、時短命令を出す上で、専門家からの命令発出の必要性を認める意見聴取などがおこなわれていた一方、長谷川社長の考え方は「(コロナのような)弱毒性のウイルスを感染を完全に封じ込めるのは不可能」だとして、時短営業の要請に不信感を露わにするなど、都の立場とは相容れないものだったと指摘。
初めての命令が発出された事例において、コロナ特措法の要件に該当しているかどうかを判断するうえでの先例がなかった当時、都知事が、専門家からの意見聴取より長谷川社長の考え方を優先し、同社への「命令の発出を差し控える旨判断することは、期待し得なかったというべき」とした。
結論として、都知事が今回の時短命令を発出するにあたり過失があるとまではいえないとして、職務上の注意義務違反を否定。国家賠償法に基づく損賠請求を認めず、原告の請求を棄却した。
原告側は、特措法や今回の時短命令について、営業の自由を侵害するなど「違憲」主張もしていたが、命令の違法性の判断で平等原則を事情として考慮していると述べた点を除き、同主張を認めなかった。
●「実質勝訴、形式敗訴」
長谷川社長は、判決後の会見で、同社への時短命令が違法としたことなどを受け、「(自分たちの主張が)75%くらいは裁判所にもわかってもらえたとは思っている」とし、判決内容について一定の評価をしたものの、請求が認められなかったことを踏まえ、「控訴する」と話した。
憲法の保障する営業の自由や表現の自由などに反するという主張が認められなかった点については、判決全文を読めてないと前置きしたうえで、「違憲に踏み込むというのは、第一審ではなかなかないのかな」話した。
「憲法を大事にするために、(都に対する)異議申し立て(裁判)をやってよかったなと思っています」(長谷川社長)
同社弁護団の団長をつとめる倉持麟太郎弁護士は、今回の判決について、「実質勝訴、形式敗訴」と表現した。
時短命令を違法と判断した点については「インパクトのある判決」と評する一方、都知事が、専門家の見解と長谷川社長の意見とを比較して、専門官の見解に基づいて判断し、命令の発出を差し控える旨判断することは期待できなかったとする点について批判した。
「(裁判で)専門家への聴取の対応がずさんだと主張してきました。原告尋問はおこなったにもかかわらず、都知事本人への尋問をせずに、注意義務違反についての主張を退けたことには非常に不服です。高裁ではその点を争っていきたいと考えています」
今回の判決は、裁判所が司法権の行使として出したものだ。控訴する以上、この判決が確定することはなさそうだが、今後行政側が時短命令等をおこなう際、一つの指標として機能する可能性はある。
「たとえば、行政が時短命令等を出すにあたって、実際に店舗を確認して、命令に合理性があるのかどうかを判断するという運用をこれからやるのかどうか。
国会でもコロナをめぐる政府の対応を検証する有識者会議などの動きがある中で、判決の事情をどれだけ国会が取り入れるのかどうか」(倉持弁護士)
さらに、倉持弁護士は、「我々にもボールを投げている」判決だと指摘する。
「同調圧力の中で、『みんなが我慢しているんだから、(営業しようとする店も)我慢するべきだ』という風潮の中で、『なんとなく不公平感で規制してはダメ』『個別の店舗を感染症対策を見て命令の合理性を判断すべき』だとして、主権者やジャーナリズムに対してもボールを投げかけた判決だと思います」(倉持弁護士)