AirPods(第3世代)は世界で一番、空気に近いイヤホン。軽い装着感、良音質、バッテリー持ちで新領域に(本田雅一)

世界でもっとも多く売れてきた完全ワイヤレスステレオ(TWS、True Wireless Stereo)は何かと聞かれたら、多くの人がAirPodsと答えるに違いない。左右が独立したワイヤレスイヤホンは世の中に少しづつ浸透していき、今やTWSではないワイヤレスイヤホンはよほどのことがなければ注目してもらえない。

一方でAirPodsが登場して5年が経過し、TWS型のイヤホンを作るノウハウも定着した。今やオーディオメーカー、スマートフォンメーカーともに、TWSを発売していないブランドの方が少ないかもしれない。

第3世代となったAirPodsを使ってみると、ほとんどの、いやおそらくどのTWSとも競合しない製品だとわかった。多くのTWSは音楽や映像作品への”没入”の深さを目指している。ところがAirPodsはライフスタイルに溶け込み、存在感を消すことをテーマにしているからだ。

同じようなコンセプトの製品はこれまでもあったが、第3世代のAirPodsのように音質、装着感、機能、バッテリー持続時間のすべてにおいて高次元でバランスのとれた製品はなかった。

その心地よい使い勝手は、ライバル製品がないだけではなく、AppleのAirPodsファミリーの中にあってもライバルがいないと思うほどだ。

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▲左から順に、AirPods(第2世代)、AirPods Pro、AirPods(第3世代)
▲左から順に、AirPods(第2世代)、AirPods Pro、AirPods(第3世代)

唯一、比較してみたい製品は出荷が遅れているambieのTWSモデルぐらいだが、音質を含めたトータルでのバランスはambieよりもAirPodsのほうがかなり音楽寄りである。

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耳を通じてデジタル世界と人を繋ぐデバイス

一時期、ウェアラブルデバイスに対して”ヒアラブルデバイス”という言葉が使われていたことがある。

最近はあまり聞かなくなった言葉だが、スマートフォンと人の間をつなぐデバイスとしてさまざまなウェアラブルが提案されていたのに対し、聴覚と音声を通じてスマートフォンとのインターフェイスをとるデバイスという意味だ。

特にジャンルが確定されているわけではないため、さまざまな製品がある。筆者はソニー出身のエンジニアが作ったAmbieのコンセプトを気に入っていたし、ソニーモバイルのXperia Ear Duoもヒアラブルデバイスとしてなかなかチャレンジングな製品。いずれも日常的な音とスマートフォンからの音を心地よくミックスさせながら聴かせる点が共通していた。

外音を可能な限り遮断して没入するのではなく、実環境と馴染ませることを主眼にしているため、長時間使っていても疲れない。そしてXperia Ear Duoには通知、読み上げ機能もあった。

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それらに比べるとAirPodsは、”音楽への没入”度合いがやや強めのコンセプトだが、シリコンイヤーチップなしで装着でき、外音も遮断せず、適度な音量にしていれば周囲の状況が把握できる設計。Siri連動はもちろんのこと、iOSの進化とともに読み上げ機能などヒアラブルデバイスとしての完成度が上がってきたのはご存知の通り。

そんなヒアラブルデバイスとしてのAirPodsが、第3世代で設計を刷新したことでいよいよ完成度を上げてきたというのが、実際に使い始めての感想だ。

AirPods(第3世代)のポイントは

音質の向上

装着感と装着安定性の向上

バッテリ持続時間向上

がもっとも大きい。

そこに加えて

操作性向上と誤動作防止対策

空間オーディオ対応

があり、iOS / iPadOS / macOS / watchOSといったApple製OSによる連携がダメ押しをしている。

AirPods Proのようにアクティブノイズキャンセルを搭載し、遮音性を高めたイヤーチップで音楽世界への没入を望むのであればオススメはしないが、常にイヤホンを装着して過ごしたいと思うならば、新しいAirPodsは他にライバルが思い当たらない完成度の製品に仕上がっている。

順番に評価のポイントを紹介していこう。

ウェルバランスで心地よい軽やかな音質

第3世代のAirPodsは、従来よりも大型のダイナミックドライバを搭載し、低音までしっかり出るようになったとAppleは説明している。

耳の内部に向けられたマイクも装備し、音響特性を計測しながらイコライジングを行うことで、耳の形状の個人差や装着状態による音質変化にも対応するという。

実際に聴き始めると、同種のオープンエア型イヤホンに比べると明らかに中低域がしっかりとしている。決して力強いわけでもスピード感があるわけでもないが、ベース音のボリューム感がきちんと感じられる程度には出てくれる。

とはいえAirPods MAXのような低音が出るという意味ではない。一般的なポピュラー音楽を楽しむ上で、クラシックでもティンパニーやコントラバスの質感を求めるというのでなければ、ウェルバランスの聴きやすい音域バランスに仕上がっているという意味だ。

高域にかけての特性も素直で、情報量が多いわけではないが、自然に伸びてピーキーな帯域がなく、自然に超高域にかけてロールオフしていく。嫌な音を聴かせない音作りはApple製品に一貫したもので、長時間使っていても聴きづらさはない。

ハイファイ音響機器としての”品位の高さ”はそこそこだが、”音の質”に関しては練り込まれ、何時間でも楽しんでいられる軽やかな音質と言えるだろう。

装着安定性が格段に改善

▲AirPods(第3世代)

AirPodsと言えば、シリコンやウレタンフォームを使ったイヤーチップを介さず、耳に引っ掛けるだけで装着できる軽い感覚も魅力だが、一方でフィットしないという声もあった。筆者自身、何度もAirPodsを落としてしまったことがある。フィットする人はランニングやワークアウトでも使いやすいそうなのだが、私自身は外れてしまいそうで運動時にはとても使うことができなかった。

しかし、今回の製品は軽快な装着感はそのままに安定している。何人かに試してもらっても同じ感想だったので、(もちろん)個人差はあるものの装着感は確実に上がっているのだと思う。

IPX4に対応する防水性を持つだけでなく、柔らかな素材を一切使わないレジンコートの本体は当然ながら汗にも強い。これならばランニングや各種ワークアウトの時にも積極的に使えるだろう。周囲の状況を適度に把握しながら良好な音質で音楽を楽しめる。

第2世代のAirPodsと比べ、ドライバ部分から伸びる軸の部分の長さも2/3になっている。言い換えればそれだけ上部に重心が集まっているということで、そのあたりも首を動かしたときの不安感が減っている理由なのかもしれない。

一度の充電で6時間以上使えるバッテリー

ヒアラブルデバイスとしてのAirPodsの優秀性は、第2世代まででも同様だが、それでも少しばかり残念だったのがバッテリー駆動時間だ。それが第3世代では6時間使えるようになった。

実際に使い始めてみると、常にヒアラブルデバイスとして装着しているつもりでも、食事の時や打ち合わせなどをしている時など、装着していない時間帯が必ずある。

筆者の場合、朝、起き抜けに装着して朝食を摂り、メールをチェックして返信。ランチまでの間に50%ぐらいのバッテリ残量がある。外して充電をしておき、テレビをつけて午前のニュース番組を録画機でまとめ視聴し、午後の取材や仕事に入る頃には100%に戻り、そのまま夜まで使い続けられる、といった具合だ。

実際には6時間でバッテリーが空になることはない。1年も使っていれば劣化も進んでスペック通り、あるいはもう少し短い持続時間になっているかもしれないが、それでも困ることはないだろう。

▲左から順に、AirPods(第2世代)、AirPods Pro、AirPods(第3世代)

他社製品でも6時間のスペック値を持つ製品はいくつか出ているが、それらと同様に、概ね運用に余裕がある数字だと思う。また、バッテリーケースを含めたトータルの駆動時間は30時間だ。

なお、AirPods(第3世代)のバッテリーケース(AirPods Proも含め)はMagSafe充電器に載せると、磁石で充電効率の良い位置へ自動的にセンタリングされる。

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空間オーディオとAirPods

これ以外にもAirPods Proで導入された圧力センサーによる操作(ノイズキャセンリング機能がないため再生、停止、次トラック、前トラックなどが規定値で割り当てられている)が取り入れられたほか、新しい要素として肌検出センサーが追加されている。

これまでは近接センサーで装着を検出していたが、これにより充電ケースに入れずにポケットに入れた場合などでも”装着”と誤認識されることはない。

このように細かな改良が加えられているとともに、AirPods ProとAirPods Maxのみが対応していた空間オーディオのヘッドトラッキング(頭の動きに合わせて音像定位が変化する機能)が導入された。

空間オーディオで再現されるバーチャルな3D音響はAirPods Proと大きな違いはない。AirPods Proの方が低音再生能力が高いため、それと比較するとAirPodsでは映像作品を鑑賞している場合にサブウーファーが担当しているような低域の効果音は聴こえてこないが、立体音響の再現性に大きな違いは感じられなかった。(ただし、AirPods Maxは別格)

Apple MusicのDolby Atmosによる配信も始まっているが、空間オーディオで配信されている楽曲を楽しむ際の感覚はとても好ましい。

頭を左右に振ってもDolby Atmosの曲はヴォーカル位置などが変化しない。高さ方向の再現も意識しているようで、斜めに頭を傾げてもきちんと追従する。ところが、椅子をターンさせて方向を変えたり、歩きながら聴いている時だったりはヴォーカル定位が変化しない。

このあたりのチューニングの自然さはAirPodsだけに限らず、Appleの空間オーディオ対応製品すべてに共通することだが、空間オーディオでアレンジされた楽曲はイヤホンで聴いていても窮屈な感じがなく、開放的で愉しい音作りのものが多い。

AirPodsが空間オーディオのヘッドトラッキングに対応したことで、一般リスナーまでにこの価値観が拡がれば、さらにDolby Atmos対応曲の製作が拡大するだろう。

どの製品とも競合しない孤高のTWSに

冒頭でambieのTWS版が唯一のライバルと書いたが、実際に書き進めながら使い込んでいくと、そもそもよく似た製品などないと感じ始めている。

イヤーチップで耳道を密閉せず、開放的な装着感の製品はいくつもあるが、音楽を楽しむための音質と開放感のバランスという観点で、第3世代のAirPodsほどバランスの良い製品は他にないだろう。

一日中使っていても快適で、周囲の状況を把握しやすいオープン設計ながら、静かな場所では音楽環境に足る音質を備えている。

ただ、あらためて書くまでもないがAirPodsはiPhoneの周辺デバイスである。Bluetoothを通じてAndroidスマートフォンと接続することはできるが、その実力を発揮させることはできない。

一方でiOSやmacOS、watchOS、tvOSなどが提供する機能と統合されているため、これらのOSが動作するデバイスとはシームレスに連動し、さらにOSの機能がアップデートされるたびに通知の読み上げ機能も洗練されていく。

Apple Watchで改札を通ればSuiCaの残高を教えてくれ、大切な電話を取り逃さないよう家族やパートナーからの電話は通知を入れるように設定もできる。読み上げもiOSが進化するたびに自然になってきた。

たとえそうしたプラスαの付加価値がなかったとしてもAirPods(第3世代)は、オープン型で装着感と装着安定性を両立し、さらにそこそこ低域のボリューム感を感じさせるウェルバランスの音を出すだけでユニークな製品だと言える。

同じAppleの製品で比べるならば、第二世代AirPodsこそ“下位モデル“の扱いだが、AirPods Pro、 AirPods Maxはいずれも外界との間を遮断し、音楽や映像作品に没入したい人向け、 AirPodsは音楽や耳を通じた情報の通知を日常生活の中で身に纏いたい人向け。実はラインナップの中でも競合していないのが第3世代 AirPodsだと思う。

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