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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、駅前や商業施設の喫煙所が閉鎖されている。また、4月1日からは改正健康増進法が全面的に施行され、禁煙となった飲食店や灰皿を撤去したコンビニなども少なくない。

そのような中、ネット上では「ポイ捨てされているタバコの吸い殻が増えた」という声が複数上がっている。吸い殻が落ちている場所は、閉鎖された喫煙所付近や駐車場、公園、路上、ビルの階段などさまざまだ。

●灰皿を撤去したコンビニ脇の花壇に「大量の吸い殻」

神奈川県に住む会社員のヨシコさん(仮名・30代女性)も、ポイ捨てされている吸い殻が4月から増えたと感じている。近所のコンビニ脇にある花壇には、大量の吸い殻が捨てられているという。

ヨシコさんの近所のコンビニはこれまで2つの灰皿を置いていた。しかし、法改正を受けて撤去してからは、コンビニ脇にある花壇に捨てられた吸い殻を見かけるようになった。

「コロナの影響で商業施設の喫煙所も閉鎖されたからか、一気に吸い殻が増えました。遠くから花壇を見たときに地面が白く見えたので、最初は白い石でも敷いているのかなと思っていました。でも近づいて見たら、白いものはすべてタバコの吸い殻だったんです」(ヨシコさん)

コンビニは公園や小学校などの近くにある。大人がポイ捨てしたタバコの吸い殻を拾ったり、誤飲したりする子どもたちもいるのではないかとヨシコさんは心配しているという。

●理論的には「軽犯罪法」「廃棄物処理法」違反が成立する

タバコの吸い殻をポイ捨てした場合は「犯罪」にあたるのだろうか。

まず、抵触する可能性があるのは軽犯罪法だ。同法は「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」(1条27号)に対して拘留または科料に処するとしている。タバコの吸い殻も含まれるといえるだろう。

中には、側溝に吸い殻を捨てる人もいるようだ。これについても、軽犯罪法は「川、みぞその他の水路の流通を妨げるような行為をした者」(同条25号)に対しても拘留または科料に処するとしている。

ただし、軽犯罪法には「情状」によって刑を免除することもできる(2条)という規定があるほか、この法律の適用にあたっては「国民の権利を不当に侵害しないように留意」しなければならないともされている。

また、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」にも「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」という文言がある(16条)。廃棄物処理法に違反した場合は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金(同法25条14号)が規定されている。

タバコの吸い殻は「廃棄物」にあたるのだろうか。元警察官僚の澤井康生弁護士は、次のように説明する。

「廃棄物処理法は『廃棄物』について、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)をいうと包括的に定義しています。

したがって、タバコの吸い殻も理論的には『ごみ』として廃棄物に該当しますので、みだりに捨てると廃棄物処理法16条違反になります。

つまり、タバコのポイ捨てをした場合、理論的には廃棄物処理法違反、軽犯罪法違反が成立します」

タバコのポイ捨てした人を逮捕することは可能?

では、実際にタバコをポイ捨てした人が逮捕されることはあるのだろうか。澤井弁護士は、次のように語る。

タバコのポイ捨てを逮捕するとしたら、まずその場で逮捕する現行犯逮捕が考えられます。ただし、軽犯罪の場合は被疑者について氏名不詳や住所不定、逃亡の恐れのある場合に限って現行犯逮捕することができるとされています(刑事訴訟法217条)。

現行犯逮捕のほかに裁判所の令状を得て行う通常逮捕も考えられます。ただし、軽犯罪の場合、被疑者が住所不定や正当な理由なく出頭しない場合に限って逮捕することができるとされています(刑事訴訟法199条1項ただし書)。

最近では街中に防犯カメラが設置されていますので、防犯カメラの画像からタバコのポイ捨ての瞬間を証拠として確保し、あとは防犯カメラの画像をリレーで追跡してその人の身元を割り出して令状請求することが可能です。

以上のとおり、タバコのポイ捨てであっても一定の条件を満たせば逮捕することは可能ですが、私が知っている限りではポイ捨てでの逮捕というのは聞いたことがありません。

しかしながら、ポイ捨ても立派な犯罪行為です。ポイ捨てで子供が火傷したり火事の原因になったりすることもありますから絶対やらないようにしてください」

タバコのポイ捨てをなくすためには?

タバコのポイ捨てをなくすためには、どのような対策が望ましいのだろうか。ネット上には「灰皿を撤去するのではなく、設置した方がよいのでは」「やはり刑罰が必要」などの意見が並んでいる。

吸い殻のポイ捨てを条例で禁止する自治体もある。千代田区は罰則つきの条例を設け、路上禁煙地区で吸い殻をポイ捨てした場合は過料処分の対象としている。しかし、罰則を設けずに努力義務としている自治体も少なくない。

タバコをポイ捨てすれば景観が損なわれ、街は汚くなる。「路上などにゴミを捨ててはならない」と家庭や学校で教わった子どもたちにとっても教育上よくない。

子どもが触れたり、誤飲したりしてしまい、1本のタバコを捨てたことで「被害者」を生んでしまうおそれもある。

何より、見知らぬ誰かが捨てた吸い殻を掃除している人たちがいることも忘れてはならないだろう。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身。企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/