海をふわふわと漂うクラゲの中には毒針を射出する刺胞を持つものがあり、餌となる魚やプランクトンを捕食するのに毒を用いています。人間もクラゲの毒針に刺されると皮膚が腫れたり出血したりすることがあり、最悪の場合命を落とすこともあります。そんな毒クラゲで、触手の毒針を刺すだけでなく「毒針ごと細胞を発射する」種が存在することを、スミソニアン国立自然史博物館、カンザス大学、アメリカ海軍研究所の研究者が率いるチームが発見しました。

Cassiosomes are stinging-cell structures in the mucus of the upside-down jellyfish Cassiopea xamachana | Communications Biology

https://www.nature.com/articles/s42003-020-0777-8

Stinging Water Mystery Solved - “Mucus Grenades”

https://scitechdaily.com/stinging-water-mystery-solved-mucus-grenades/

熱帯のマングローブ林に生息するサカサクラゲは藻類と共生関係にあります。藻類はサカサクラゲが排出した二酸化炭素と日光で光合成を行い、サカサクラゲは藻類が光合成で生成した栄養を受け取りますが、光合成が十分に行えない環境になると、サカサクラゲは食事を摂取する必要があるため、他の動物を捕食する必要があります。

今回研究チームが注目したCassiopea xamachanaはサカサクラゲの一種で、一般的には「刺さないクラゲ」とされています。しかし、Cassiopea xamachanaが漂う辺りを泳いだダイバーから「肌が刺されたようにピリピリする」と報告される例があったそうです。



by prilfish

そこで、研究チームがCassiopea xamachanaの放出する粘液を観察したところ、小さな刺細胞のカプセルが確認できました。研究チームはこのカプセルを学名から「カシオソーム」と名付けています。

カシオソームは中空の球体で、その内部は「メソグレア」というクラゲの体を構成する半透明かつゲル状の物質や、共生している藻類で満たされています。球体を構成する細胞は刺細胞で、一部には繊毛が備わっており、カシオソームは水中を動くことが可能でした。また、刺細胞からは3種類の毒素が検出されたとのこと。

チームがCassiopea xamachanaの触手を観察したところ、クラゲが刺激を受けると触手から無数のカシオソームが放出されることが判明。ダイバーの肌がピリピリしていたのは、Cassiopea xamachanaの触手で直接刺されたのではなく、Cassiopea xamachanaが放出した「毒針付きカプセル」に刺されたからだというわけです。

以下のムービーは、Cassiopea xamachanaの水槽にアルテミアを投入したところ。アルテミアを投入してから軽く水槽をゆらしてCassiopea xamachanaを刺激すると、わずか1分でほとんどのアルテミアがカシオソームの毒によって動かなくなってしまっているのがわかります。

Brine Shrimp Succumbing to Balls of Stinging Cells From Jellyfish - YouTube

論文の共著者であるアンナ・クロンペン氏は「クラゲの毒については、あまりよくわかっていません。今回の研究で、『クラゲがいかに興味深く斬新な方法で毒を使っているか』が1つ明らかになりました」とコメントしています。

この研究プロジェクトの発案者で、アメリカ海洋大気庁の動物学者であるアレン・コリンズ氏は「サカサクラゲの存在は200年以上前から知られていますが、カシオソームの存在はこれまで知られていなかったため、今回の発見は特に刺激的です」「Cassiopea xamachanaは特に有毒な生き物というわけではありませんが、人間の健康に影響を与えます」とコメントしました。