千葉県内で実施された新型タントのメディア試乗会の様子(筆者撮影)

第4世代になって、タントはどう進化したのか――。

歴代タントを乗り継ぎ、さらに現在は第2世代ホンダN-BOXのオーナーである筆者としては、新型タントのメディア試乗会を楽しみにしていた。今回は新型タントに試乗した感想を包み隠さず本音で紹介する。

想定内だった仕上がり具合

「思ったとおりだ」

ターボ車であるカスタムRS、次にノンターボのXに乗って、そう感じた。

新型タントの最大の売りは、走りの進化だ。言い換えれば、先代の最大の欠点は走りだった。タントは初代、2代目、そして3代目と進化するたびに、走りの物足りなさが浮き彫りになっていた。


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そもそもタントが爆発的に売り上げを伸ばした理由は、軽において「スーパーハイト」という新分野を切り開いたこと、さらにミラクルオープンドアによる革新的なパッケージングだった。軽自動車のみならず、クルマの常識を覆すほどの強烈なインパクトがあった。こうしたタントの歴史を、筆者はオーナーとして直に感じてきた。

だが、ホンダN-BOXが登場するとスーパーハイト系軽での勢力図は一変した。注目点は、走りのよさである。

自動車専門の雑誌やウェブサイトでは、タント、N-BOX、スズキスペーシア、三菱eKワゴンとその兄弟車である日産デイズルークスの試乗比較を掲載すると、ほとんどのケースで走りではN-BOXひとり勝ちという結果となった。N-BOXが2代目に進化すると、ライバルたちとの走りの差はさらに大きくなった。

筆者が第3世代タントを最後にしっかり乗ったのは、2019年5月。走行距離1000km程度の新車をレンタカーで4日間借りて東北各県を回った。結果として「かなり疲れた」。


新型タント カスタムRSの外観(筆者撮影)

疲れの原因は、タントの走りの物足りなさだ。乗り心地については、第3世代になってからも段階的な改善がみられるが、ハンドリングについては「根本的に手を加えないとどうにもならない」という印象を持つほど、N-BOXとの差が歴然だった。

こうした両車の差は、新型タントが「ゼロベースで新開発した軽量高剛性プラットフォーム」の採用によって大幅に“縮まった”。「埋まった」とか「超えた」のではなく、あくまでも「縮まった」のだ。これこそが、筆者の想定内だった。

N-BOXの得意領域まで踏み込まず 

新型タントの走りの進化は、ゼロベースから開発した新プラットフォーム採用によって実現している。技術的な詳細については、ダイハツのホームページをご確認いただくとするが、第3世代までとはまったく違うクルマに仕上がっていることは事実だ。結果として「疲れないクルマ」になった。

乗り心地の評価軸であるNVH、N(ノイズ:音)、V(バイブレーション:振動)、H(ハーシュネス:路面からの突き上げ)は、第3世代とは雲泥の差だ。


新型タントXのインテリア(筆者撮影)

ハンドリングについても、とくにカスタムRSでは、15インチタイヤ装着でハンドリングの手ごたえがガッシリしている。14インチタイヤのXでも、パワステの重さはカスタム並みにやや重で、走り全体ががっしり&しっかりした印象だ。

コーナーリング中に、ハンドルの切り足しなどの修正を加えても、クルマ全体がすぐに反応してくれる。第3世代ではこうしたコーナーリング中の動きに余裕がないことが、長時間運転での疲れの大きな原因だった。

こうして走りのレベルが一気に上昇した新型タントだが、走りのよさという指標でN-BOXと比較した場合、N-BOXに軍配が上がると筆者は感じた。

その理由は大きく2つある。1つは、前述のNVHの中のH(ハーシュネス:路面からの突き上げ)で、N-BOXのほうが収まりは早い。これはサスペンションの設計要件というより、採用しているショックアブソーバーやブッシュと呼ばれるゴム製品の原価に影響していると、筆者はみる。

もう1つは、走りの流れだ。N-BOXでは、ブレーキング・コーナーリング・コーナーからの立ち上がりという、走りの流れが明確にわかるが、タントではそこまでの走りの流れは感じられず、あくまでも安心安全第一という走りに思える。この差は、基本設計に加えて走行実験による味付けの差だと思う。

このような、N-BOXとの走りの差を、ダイハツは重々承知している。N-BOXの得意領域には踏み込まないことで、N-BOXとの差別化を明確にしている。

この差は、商品性と原価に対するダイハツとホンダの企業方針としての差である。試乗の前後で、各部門のダイハツ社員と意見交換をしたが、総じて「N-BOXとは別の方向性」という声が聞かれた。

タントという商品は「生活用品」という位置付けをぶれさせないこと。これがダイハツの考え方だ。さらに「しっかりと利益を出す」ことが、企業として当然の姿勢である。

高コストのN-BOXの行方

一方、N-BOXについて、ダイハツの見立ては「クルマとしての存在感が強い」。この言葉を筆者なりに換言すると「走りの追求度合いが強い」となる。


ゼロベースで開発した新型タントのプラットフォームとボディの技術展示(筆者撮影)

さらに、筆者からダイハツ社員らにN-BOXについて補足したのは、ホンダの原価の高コストという点だ。ホンダは他社に比べて利益率が低く、とくに軽についてはN-BOXが爆発的に売れているのに超薄利という経営実態であることをホンダ自身が公表している。

そのうえで、2019年4月1日に本田技術研究所の大幅な組織改編を行うなどして、研究開発費の見直しを進めている。筆者は、7月3日に埼玉県和光市で開催された一部メディア向けの新技術説明会「ホンダミーティング」に参加し、同社の八郷社長や役員らと意見交換したが、高コスト体制について真剣にメスを入れると明言した。そうなると、はたして次期N-BOXはどうなるのか。 

そうしたホンダのお家事情がどうであれ、タントタントとしての道を進む。スーパーハイト系軽の購入を考える消費者としては、新型タントとN-BOXを比較するのは当然だろう。だが、それらを世に送り出すメーカー側としては「タントとN-BOXは別物」という意識を持っていることを、消費者は理解しておくべきだと思う。