マンション広告で最も見るべきポイントとは? うたい文句に惑わされずに物件の真価を見抜く方法を解説します(写真:y-studio/iStock)

新築マンションの広告はどれもきらびやかなものばかり。しかし、不動産のプロからすると、あまりにも大仰すぎるキャッチコピー、通称「マンションポエム」はまったく参考にならない。マンションの「真の価値」を見極めるにはどうすればいいのか? 住宅ジャーナリストの榊淳司氏が解説する。

何年か前に、「天地創造」というキャッチコピーを打ち出した、さる財閥系大手不動産デベロッパーが東京近郊に開発した、600戸規模のマンションがある。建物は数年前に竣工。もちろん、そのマンション自体は「完売」している。

「天地創造」とは、旧約聖書の冒頭で「光あれ」から始まる、神様がこの世界を創ったというエピソードを指すフレーズ。それをたった600戸程度のマンションのキャッチコピーに使うのだから、それはもうポエムとしか言いようがない。

そのマンション、かなり販売に苦戦した。彼らにとっての「天地」は「創造」できたが、住む人は思うように引き寄せられていない様子だった。

10年以上前の例だが、ある新築マンションが「○○涼子」という人気女優をイメージキャラクターに起用した。このマンションの折り込みチラシの表面には、彼女の写真と「感度リョーコー」というキャッチコピーが躍った。これには正直、あまりのバカバカしさに腰が砕けた。

こういったマンションポエムを、横目で見ながら笑っている分にはいい。しかし、そのマンションの購入を真剣に考えている場合には笑えない。そこで、マンションの広告からその物件の「真の姿」をあぶりだすノウハウをお伝えしたい。

プロは広告の「どこ」を見る?

はじめに、われわれ業界インサイダーは、マンション広告の中でどこをまず見るのか。「不動産の価値は9割が立地で決まる」と言う。誠にそのとおりだ。だから、われわれは最初に、「現地案内図」や「MAP」という項目を探し出してクリックする。そして、物件がどのあたりにあるのかを大まかに把握する。

首都圏で分譲される新築マンションの場合、場所の次には「〇〇駅徒歩〇〇分、3LDK、〇〇・〇〇m2、〇〇〇〇万円」を確認する。業界用語では「3P」。Place、Plan、Price の3要素だ。最寄り駅とそこからの徒歩分数、間取りと面積、価格の3要素。これらの要素は、「概要」という新築マンションのオフィシャルサイトのなかでは、最も地味に作られているページに集約されている。ただし、これらの要素だけで、そのマンションの資産価値が決まる。

あと、私は「全体計画図」を割り合い重視する。敷地形状と建物や共用施設の配棟計画である。ここで、そのマンションの設計がどの程度丁寧になされているかをうかがい知ることができる。しかし、これはプロだからわかること。一般の方には少し難しいだろう。また、全体計画図を表示していない物件も多い。

共用施設についてはプールや温浴施設など、よほどのものでないかぎりはざっと見るだけ。また、「設備・仕様」というのは大手ならどこも似たり寄ったりなので、チェックさえしない。「ディスポーザーがついている」などということは枝葉末節。

オフィシャルサイトのトップページに大きく出ている「天地創造」とか「感度リョーコー」とかいったところは、そのマンションの真の価値を見極めるためには、何も関係がない。むしろ邪魔だ。

そこからわかるのはただ、売り主の販売担当者が自分たちの開発したマンションをどう考えているか、ということだ。例えば、「天地創造」であれば「俺たちはこんなに大きなスケールで街を作ったのだ」という、やや上ずった意気込みが表れている。「感度リョーコー」には、「このマンションは、なんの取りえもないから、涼子ちゃんのイメージでごまかしています」という本音が透けている。

本当に見るべきは「立地」

トップで「渋谷区松濤」とか「京都下鴨」など、地名を大々的にうたっていれば、「このマンションのいちばんのウリは立地です」と言っている。単純に、「駅徒歩3分」とか「1分」を大々的に打ち出しているトップページも多い。なんと言っても、「不動産は場所が9割」なのだから、そういう打ち出し方は、むしろ王道と言っていい。

なんの関係もないタレントやキャラクターが前面に出ていれば、要注意。何かをごまかさなければいけないマンションである場合が多い。そもそも、スペックの優れたマンションは広告に頼らずとも売れる。じつのところ、広告がほとんど出ないのに完売しているマンションもそれなりにある。

オフィシャルページを眺めていて、「なんだこれは」という印象を受けるマンションは、選択肢から外してもいい。「自分と合わない」と感じたなら、そのマンション自体と感性がずれていることが十分考えられるからだ。

自由主義経済の下では、モノの価格は需要と供給の関係で決まる。これは不動産といえども同じ。マンションの価格にしてもそうだ。新築マンションの場合は、まず売り主側が販売価格を設定する。その価格で売れればいいが、売れなければどうなるのか?

当然、価格を引き下げなければならない。新築マンションの販売価格が下がるパターンはいくつかある。まず、最もわかりやすいのは、「価格改定」。売り主が販売価格を引き下げて、それを広告などでアピールする。これはもう、あからさまに元の価格では売れない場合に選ばれる手法。売り主企業のギブアップみたいなものだ。

次にわかりやすいのは、「特別価格の設定」。これは「モデルルーム使用住戸につき」といった言い訳がつく。つまり、限られた住戸だけ理由をつけて値下げする、というもの。

しかし、そんなことをやっている新築マンションは、その限定住戸以外でも同じ割合で値引きをしている場合がほとんどだ。もう買ってしまった人への言い訳をしているだけである。

広告上で表明せずに、個別交渉で値引きをする場合も多い。ほとんどの値引きは、水面下での交渉で行われる。値引きによって契約が成立した場合、購入者は「他言いたしません」という念書を取られる。だから、いくらの値引きが行われたかを、ほかの検討者は知りえない仕組みになっている。

ただ、私のところには、マンション購入に関するさまざまな相談が寄せられる。「〇〇〇万円の値引きを提示されているのですが、買ってもいいですか」といった内容だ。マンションが売れなくなると、そういう相談が多くなる。

新築でも「値引き」できる

ところが、最近では、人気の高い都心エリアの物件でも、値引きに関する相談がチラホラ寄せられるようになった。


新築マンションの値引きというものは、売り主が決断することで行われる。売り主が値引きをしない方針である物件では、販売現場の担当者とどれだけ上手に交渉しても無駄だ。また、売り主によっては、どれだけ販売不振でも絶対に値引きをしない方針の企業がいくつかある。そういう売り主のマンションについては、値引き交渉をしても無駄。

値引きをしている新築マンションを見分ける方法はいくつかある。まず、すでに竣工しているか、竣工間際のマンションだと値引きが行われやすい。物件の公式ホームページなどで、販売側の焦りが感じられる物件も、値引き可能な場合が多い。先に挙げた「モデルルーム使用住戸につき」とやっている場合は、ほぼ値引きが可能。

結局、マンションは高くなりすぎると売れない。間違って高すぎるマンションを買わないためにも、まず値引きの可能性を探ってみるべきだろう。