メガバンク3行は、今後10年間で合わせて3万人分を超える業務を削減する計画を掲げている。銀行業界はいったいどうなるのか。経営コンサルタントの鈴木貴博氏は「生き残る銀行は、ATMのような古いインフラをいち早く捨てたところだろう」と指摘する――。

■2019年の銀行業界を大予測

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Zentangle)

日本経済を支える3つの業界を挙げるとしたら、今でも自動車業界、携帯電話業界、そして銀行業界ということになるでしょう。21世紀に入ってからの上場企業の時価総額ランキングをみてもトップ5は常にこの3業態のリーディング企業で占められます。収益性もさることながら雇用創出や日本全体の産業への影響力を考えるとこの3つの産業は日本経済を支える支柱のようなものです。

しかしその銀行の地位が少しずつ地盤沈下を始めています。直近の時価総額ランキングでは三菱UFJフィナンシャルグループは5位につけていますが、三井住友フィナンシャルグループは16位、みずほフィナンシャルグループは21位とメガバンクの順位は微妙に下がりつつあります。

学生の就活ランキングも同じです。就職情報サイト「キャリタス」が発表する人気企業の総合ランキングでは三菱UFJ銀行が4位につけているものの、三井住友銀行は14位、みずほフィナンシャルグループは17位とやはり銀行人気に陰りが見えています。

銀行の先行きの不安定さは何が原因なのでしょうか。そこには長期的な需給の変化に加えて、AIやフィンテックなど業界外からおきたイノベーションが徐々に事業を侵食し、影響を与え始めています。2019年の銀行業界はどのような変化にみまわれるのか、業界をとりまく変化をまとめてみたいと思います。

■問題は需要よりもはるかに大きい銀行の規模感

最初に確認したいのはメガバンクの収益状況です。全国銀行協会がまとめた銀行の業態別決算をみると、メガバンクにりそなを加えた都市銀行全体では、本業の利益をあらわす「業務純益」が年々大きく減少をしています。

2016年度の業務純益は約2.7兆円だったものが、2017年度は約2.1兆円、2018年度は1.6兆円と減り、さらに昨年11月に発表された2019年3月期中間決算でもそこから対前年比でマイナス3.4%の利益減となっています。ちなみにこの利益減少傾向は地方銀行も同じです。銀行業界全体で収益性が下がってきているのです。

なぜ銀行の収益性が下がってきているのでしょうか。最大の原因はオーバーキャパシティ、つまり国内需要と比較して規模が大きすぎるのです。

銀行業の本質は「金貸し」です。わたしたち一般の人々から広く預金を集め、それを企業に貸し出す。その利ザヤで銀行は収益をあげてきました。ところがその構造に異変が起きています。

都市銀行全体の預金は2018年3月末時点で337兆円ありました。しかし貸出金の残高は169兆円と預金全体の半分しかありませんでした。貸出ができない資金は国債などで運用するしかないのですが、その国債はあいにくのマイナス金利。これでは集めた資金の半分しか働いていないわけで、経営効率が悪すぎます。

メガバンクがいくら努力してもあらがえない3要素

その分、メガバンクは手数料収入を増やしたり、国際業務に力をいれたりと頑張っているのですが、その結果がここ3年間の利益縮小という経営結果になっているわけです。

2019年の銀行業界には引き続き3つの要素が変化を促します。それはAIによるリストラの本格化、フィンテックによる競合の出現、そしてスマホ決済や電子マネーなど新しい金融取引の拡大です。

まずリストラの話から始めましょう。そもそもメガバンクは行員数にしても支店の規模にしても大きすぎるのです。とはいえ銀行の中では一定の専門知識をもった行員が判断をしたうえで処理しなければならない事務作業が結構な作業量を占めています。

そのコストを下げるために、これまでは銀行経験者を派遣労働者として再雇用するような形で行員コストを下げたり、IT投資をすることで生産性を上げたりというような取り組みが中心でした。そこに新たにAIを使った業務削減の余地が生まれてきました。

具体的にはRPA(ロボティックプロセスオートメーション)という手法です。行員の業務用PCなどの中に機械学習をするAIを組み込んでいくことで、行員がどのような判断業務を行っているのかを学習して、それをAIで処理できるようにするという新しい手法です。

■みずほ銀行「今後10年間で2万人近くの作業を削減」

みずほ銀行は、今後10年間で2万人近い業務を削減する計画を掲げています。おそらく、ほかのメガバンクも同じ期間で同じ規模のリストラをすると思います。それにはRPAの活用が欠かせません。これはメガバンクの生産性を格段と上げる一方で、行員の立場でみれば大きなリストラが待ち構えているということになるでしょう。

実は銀行経営に関して言えば人件費に加えて「物件費」と呼ばれる要素がコストのかなりの部分を占めています。端的に言えば支店のキャパシティが時代遅れになってきているのです。

銀行の支店は財務省の認可をうけないと増やしたり減らしたりはできないのですが、銀行内で業務の見直しをすすめた結果、近年ではどこの店舗でも中で働いている人の数が大きく減っています。

支店の窓口で言えば、窓口のテラーと呼ばれる行員の後ろに2列ぐらいの行員が控えていて、その後ろに役職者が座っているというのが過去の銀行の支店の様子だったのですが、最近ではその中間の2列の人がいなくなって銀行の支店はがらがらになってきています。

しかし人数が減っても支店のフロア面積はそう簡単に減らしてはいけないというのが財務省のルールです。ですが、さすがにこれから先、もう一段人員のリストラが進めば、銀行の店舗面積や店舗の数はこれから先、徐々に縮小していくことになるでしょう。

■これから持つべきは「支店」よりも「スマホ」

さて二番目の要素であるフィンテックは銀行業界全体にとっては逆風になりそうです。私はハイテク分野のイノベーションに関わるコンサルティングが本業のため、フィンテック関連のベンチャー企業をよく知っています。ひとことで言えば、彼らはこれまでの銀行業が手にいれられなかったビッグデータをうまく入手して、これまで使われてこなかったようなアルゴリズムを用いて銀行よりも的確に情報処理をすることで既存の金融機関を出し抜く方法を編み出そうとしています。

たとえば住宅ローンを売る場合、既存の銀行はいろいろなところに広告を打ったうえで、住宅を買うことを決めた顧客が銀行窓口に来店することに期待してビジネスを行っています。

しかしフィンテックのベンチャーならもっとうまく先回りして顧客を獲得しようとします。たとえばスマホのGPSデータを見ればある消費者がマンションのショールームに頻繁に出かけるようになったといった情報が手にはいるかもしれません。そのデータを活用して集客すれば銀行よりも早く、潜在的な住宅ローンユーザーを獲得することができます。

これから先、未来の銀行業では支店を持っているよりもスマホを持っているほうがずっと銀行業での競争には有利だと言われています。その観点で見れば、今は異業種の携帯電話会社は、将来的には銀行の一番の競争相手になるのかもしれないのです。

■キャッシュレス化の高まりは逆風になる

スマホということでは第三の要素である電子マネーやスマホ決済など決済分野の進化にも関係してきます。

政府は2020年の東京オリンピックに向けて、現在は遅れ気味のわが国のキャッシュレス(電子)決済の比率を上げることを主要な政策のひとつに挙げています。これまでの現金での決済を減らし、クレジットカード、電子マネー、スマホ決済などの利用を他国並みに増やしていきたいということです。

経済産業省の調査によると、わが国のキャッシュレス決済比率は18%程度(2015年)で、これは中国の60%、韓国の89%、アメリカの45%などと比べて大きく遅れています。そこで東京オリンピックを機会にこの比率を一気に上げていこうというのです。

日本全体にとってはよい変化だと思いますが、実はこの変化、銀行にとっては逆風です。なぜなら現金をハンドリングする業務や、銀行口座間で資金を送金する業務が銀行の本業であるのに対して、これらのキャッシュレス決済はその銀行の競合事業になるからです。

スマホ決済が広がれば海外と同じように個人間での資金のやりとりはスマホアプリ上で行うことになり、その手数料は銀行の送金手数料のような高い金額にはならないでしょう。決済分野やATMの手数料収入は銀行にとっては安定収入だったのですが、それがキャッシュレス化によって脅かされるわけです。

■楽天やセブンイレブンが競合になる日

さらに決済情報自体がビッグデータとしてフィンテックの競合にとっての武器になります。それがソフトバンクであれ、楽天であれ、イオンであれ、セブン‐イレブンであれ、消費者との接点を持っている新しい競合が、銀行が持たないあたらしいタイプの顧客情報を武器に競合として台頭する。そのような状況は銀行にとってはうれしくない未来です。

結局のところ、キャッシュレス決済、スマホといった新しいインフラが、長期的には現金、口座、ATM、店舗といった銀行の古いインフラにとってかわっていくというのが銀行の長期的な未来です。その古いインフラを捨てて、新しいインフラにどう乗り換えていくのか。その変化のスピード次第では、2019年は銀行にとって痛みの伴う年になるでしょうし、その痛みが軽ければ銀行はまた一段、収益性を下げてフィンテック競合との競争から遅れて行くリスクがあるのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『仕事消滅AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博 写真=iStock.com)