日本体操協会「塚原夫妻にパワハラなし」判定の舞台裏
「とにかく信じられない」
体操リオデジャネイロ五輪女子代表の宮川紗江選手(19)が、弁護士を通じてコメントしたこの言葉と、同じ思いを抱いた人は多いのではないだろうか。
8月に宮川選手が「日本体操協会の塚原光男副会長(70)と、塚原千恵子女子強化本部長(71)にパワハラを受けた」と訴えた、体操協会のパワハラ問題。
12月10日、調査をおこなってきた第三者委員会が、パワハラは認められなかったと判断。それを受けて日本体操協会は、一時職務停止となっていた2人の処分を解除すると発表した。
「第三者委員会のメンバーが発表された時点で、こうなることはわかっていた。結果ありきの調査だったということ」と憤るのは、ある体操関係者だ。
「第三者委員会は5人で構成されましたが、委員長を務める岩井重一氏は、塚原夫妻が経営する朝日生命体操クラブを協賛する、朝日生命が株主になっている『ブロードリンク』という企業の顧問弁護士です。
委員の松田純一氏も、朝日生命本社ビルに入っている弁護士事務所の弁護士です。この人選では、『塚原サイドの息がかかっている弁護士を選んだ』と言われても仕方がない。
さらに怪しいのは、きちんと調査をしたかです。宮川選手の代理人である山口(政貴)弁護士も言っていましたが、宮川選手が『この人に話を聞いてください』とお願いした人には、聴取をおこなっていないんです。
パワハラを受けたと言っている人間が、話を聞いてほしいと名前をあげた人に、話を聞いていない時点でパワハラですよね。
『反塚原派』の人間への聴取はおこなわず、『塚原派』の人間には話を聞いている。記者会見では25人に聴取したとされましたが、その人数が本当に聴取されたのか、関係者の間では疑問の声が上がっています」
パワハラ認定を厳しくしたこともおかしいと話すのは、あるスポーツ紙記者だ。
「報告書では、千恵子氏が宮川選手に対して『(家族が)宗教みたい』と発言したことは認められ、『塚原夫妻の態度が終始高圧的な態度であって、同選手の側から見れば、パワーハラスメントであると感じさせてしまっても、仕方がないものであった』との指摘もあった。
それでも、『パワハラがあった』とは認められなかった。選手ファーストと言っているのに、これでは『塚原ファースト』。パワハラ判断のハードルを上げており、選手のことを考えているとはとうてい思えない」
現場も、この調査結果に不満が爆発しているという。
「多くのコーチなどが、納得いかないと憤っています。結局、コーチたちが朝日生命所属の選手の得点が高いことに怒り、試合をボイコットした27年前の事件と何も変わっていないんです。
あのときも塚原夫妻は辞任しましたが、数年後に復帰した。その後、ボイコットしたコーチたちは、嫌がらせをされたと聞いています。
そのことを知っている人間は、それが怖くて声を上げられないんですよ。いくら怒り心頭でも、何も言えない。それほど塚原夫妻の権力がいまでも強大だということです」(前出・体操関係者)
では、なぜそこまでして、塚原夫妻は権力を維持しようとするのか。それは「東京五輪」だという。
「塚原夫妻は、自らの名誉のために、東京五輪まで体操協会を牛耳っていたいんですよ。それまで現場を退くことはないと思います。自分たちが引退した後は、息子の直也氏にトップの座をバトンタッチしたい。
今回の調査結果は、世間的にもおかしいと思われている。日本体操協会は、そこをわかっているのかと。協会は、なぜ問題が起きたかを調べる『特別調査委員会』を設置。夫妻が協会に手続きを取らずにマスコミに発言したことが、倫理規定違反にあたるかを検討して、懲戒の可能性も示唆した。
でも光男氏は、調査結果が出た翌日、フジテレビの直撃にしゃべっていた。あれは処分の対象にならないのかなって思いますね」(前出・体操関係者)
今年、アマチュアスポーツ界では多くのパワハラ問題が起こり、多くのトップが責任を取って辞任した。年の最後に下されたのは、「パワハラ行為はなかった」という判断。