子どもへの思いを書いたノートと送られてきた写真を見て思いをはせる雅美さん

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「家族連れを見ると、息ができなくなるくらい苦しくなりました。長男は今、あれくらいかな、長女はこれくらいかな、とか考えます。

【写真】引き離される前に撮った、子どもとの写真

 赤ちゃんの泣き声を聞くと、なんであのとき、怒ってばっかりだったんだろうという後悔の気持ちで胸が苦しくなります」

 亀山雅美さん(仮名・38)は、もう5年以上もわが子に会うことができない現実を、寂しげな表情で伝える。当時2歳だった長男は小学2年生に、生後3か月だった長女は5歳になっているが、

「一緒にいることが当たり前だと思っていた子どもと会えなくなって、その存在の大切さがわかります。つらいです」

 と大粒の涙を流す。

血を流す父親の姿を見ていた息子

 きっかけは、自分にある。

「2013年8月12日に事件を起こしました。普段から夫は家に寄りつかず、帰っても週に1回。数日前に帰って来たときに、ケンカになりました。夫が“もういい”と言って子ども2人を自分の兄の家に連れて行ったんです」

 後に裁判所が《幼い2人の子どもを抱えて育児に奮闘し、夫との不仲もあって孤立する中で、子どもと引き離されてさらに精神的に追い詰められて》と認定した、ひどい時代。

「私はどうしても長女にお乳をあげたくて、自分の家に帰してもらったんですが、長男を帰してもらえなかった。それが許せなくて脅かしてやろうと思って、家にあったいちばん小さな刃物だった果物ナイフを持ち、長女を背負って義兄の家に行ったんです。

 夫と口論になりました。私がナイフで脅すと、やれるもんならやってみろと挑発されて、刺してしまったんです」

 義兄に取り押さえられ、警察も駆けつける。その間、夫は、妻に刺され血を流す姿を2歳の息子に見せていた。

 夫は全治2週間。

 雅美さんは殺人未遂で現行犯逮捕され、8月30日に傷害罪などで起訴。懲役1年6か月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。

 '04年9月に母が亡くなって以来、疎遠になっていた義父が身元引受人になってくれたという。

子どもとの最後の触れ合い

 釈放後、とにかく子どもに会いたかった雅美さんは、夫に「会わせて」と懇願した。

「夫が同席する条件で、数分だけ、会わせてもらえることになりました。'13年11月30日でした。

 生後6か月になっていた長女を抱くと、泣いてしまって……ショックでした。長男は“おいで”っていうと私の首に手を回してギュッと抱きつきましたが、夫に“行くよ”と離されて連れて行かれてしまいました。直接、子どもと触れ合ったのは、それが最後です」

 翌'14年7月には離婚調停を申し立てられた。

「事件のこともありましたし、“親権を譲ってくれれば子どもには会わせる”と言われたので、それならばと1回の調停で離婚が成立しました」

 ところが、面会交流調停を申し立てても会うことができない。新しく雇った弁護士に言われたことは「なんで離婚して親権を渡してしまったんですか!」だったという。

 面会交流事件を多く手掛ける稲坂将成法律事務所の古賀礼子弁護士は、

「離婚時には取り決めた内容を公正証書や調停調書などの書面で残しておくこと。取り決めが守られなかった場合、書類の有無が重要になります」

 雅美さんのケースでは幸い、

「会えてはいませんが、新しい弁護士さんが頑張ってくれたおかげで、毎月10枚の写真と3か月に1度はビデオレターを送ってもらえています。また、子どもの誕生日とクリスマスにはプレゼントを贈れるようになりました」

 思えば愛情に飢えた人生だった。

「私は母親失格です」

 物心ついたころには父のいない母子家庭で、母親から“お前はあの男に似ていてかわいくない”と邪険にされた。6畳ひと間のアパートで母と妹と3人暮らし。次の日の食べ物にも困ることも。

 中学1年のときに母親が再婚し、暮らし向きがよくなった。自分の部屋もでき、高校にも進学。大学へは奨学金とアルバイト代で通った。

 25歳で出会った元夫は既婚者だったが、離婚を待って'10年9月に結婚。翌月に長男が生まれた。雅美さん、30歳のときだった。

「結婚をしたら温かい家庭ができるんだと思い込んでいました。夫は稼ぎもよく何不自由のない生活を与えてくれましたが、幼い子どもと3人で孤独でした。

 誰かに話を聞いてもらい共感してほしかったんです。子どもは言うことを聞かず思いどおりにいかない。怒鳴ってしまったことも。私も母と同じことをしていました」

 現在は、得意の英語を生かし翻訳などで生計を立てる。

「この5年間、1日も子どものことを考えなかった日はありません。私は母親失格ですし、正直、もう会えるとは思っていません。ただお母さんは、あなたたちのことを愛していると、ただそれだけを伝えたいんです」

 A5サイズのノートには、子どもたちに向けて、言葉をつづる。そこには《なにがすきで、なにがとくいで、なにをがっこうでならったのかしりたいよ……》など、会えない切なさが込められている。

 10月25日は長男の誕生日。8歳になる。プレゼントを贈ることは許されているが、

「何が好きなのかわからなくて……。渡しているかどうかもわかりません」

 母と子どもの距離を、時間がさらに広げていく。