世界のトンデモ空港 手を伸ばせば飛行機に届く? 航空ファンの聖地、その実態
空港には安全面でシビアな基準が要求されますが、世界には目を疑うような環境下で運営されている空港も。危険をはらみながらも、迫力ある光景が繰り広げられています。
手を伸ばせば飛行機に届きそう!?
空港が担う一番大切な役割は、飛行機を安全に飛ばすこと。数ある交通施設の中でも、とりわけ安全面ではシビアな基準が要求されます。しかし、世界には目を疑うような環境下で運営されている空港があるのです。
たとえば、カリブ海に浮かぶセント・マーチン島。面積約88平方キロメートル、北側がフランス領、南側がオランダ領とふたつの国に統治されているこの島では、水着姿ではしゃぐ人々に、容赦なく飛行機が迫りくるというスゴイ光景が広がっています。
プリンセス・ジュリアナ空港に隣接するマホ・ビーチ。頭上すれすれを飛ぶ飛行機を撮影しようと人が集まる(画像:Sean Pavone/123RF)
島の玄関口であるプリンセス・ジュリアナ国際空港は、オランダ領側西部にあり、観光地であるマホ・ビーチに隣接しています。ビーチとフェンス1枚で隔たれた先は滑走路という特異な環境から、「世界で最も危険な空港」に選ばれたこともあるのです。
飛行機は、観光客で賑わうビーチの上空わずか20〜30mを、轟音を響かせながら通過して離着陸。ビーチには突風が吹きつけ、砂嵐が舞います。10階建てのビルよりも低い高さを飛んでいるため、「手を伸ばせば届きそう」なほど近くに感じるとか。数年前までは、4基のエンジンを備えた2階建ての客室を持つ超大型機B747(通称ジャンボ)も飛んでおり、その迫力はもはや想像を絶します。
ビーチでは、飛行機の離陸時にジェットエンジンから噴射される「後方気流」も凄まじく、大人の男性でも立っていられないほどです。通常、後方気流が直撃するおそれのある滑走路付近は立ち入り禁止ですが、この空港では「危険。離着陸時の気流で重傷を負ったり命を落としたりすることがあります」といった注意喚起の看板があるだけです。
とはいえ、このビーチではもはやフライト自体が無料の航空ショー化しており、連日、見学の人が絶えません。
高度な技術が求められる極短滑走路
同じような空港は、エーゲ海西部に位置するスキアトス島(ギリシャ)にもあります。映画『マンマ・ミーア』のロケ地として知られ、70か所以上もの美しいビーチや入り江を有する面積約50平方キロメートルの小島です。
海に面したスキアトス島国営空港。離陸を間近で見ようと付近に人が集まっている滑走路には、黒いタイヤ痕が(画像;David Fowler/123RF)
スキアトス島国営空港の滑走路は全長約1600m。これは羽田空港でいちばん短いB・D滑走路の全長2500mよりも大幅に短いうえに、両端は海という環境です。最小高度でのアプローチが必要で、少しでもズレると着陸復行(着陸を断念し上昇体制に移ること)を求められます。そのため、離着陸を許されるのは、特別な訓練を受けた高度な操縦技術を持つパイロットのみ。滑走路に刻まれた真っ黒なタイヤ痕が、そのアプローチの難しさを物語っています。
隣接する港やビーチは、頭上すれすれをゆく飛行機が見られるとあって、島内でも人気の観光スポットに。飛行機が飛来するたびに、爆音と歓声に包まれます。また、地中海らしい真っ青な空と海に映える白い機体がフォトジェニックであることから、この撮影を目的に島を訪れる人も多いそうです。
紹介した両空港へは、日本からの直行便はなく、乗り継ぎが必要です。「プリンセス・ジュリアナ国際空港」へは、アメリカ・ニューヨークやカナダ・トロントを経由するのが一般的。「スキアトス島国営空港」へは、ドイツ・ミュンヘンやトルコ・イスタンブールなどを経由してまずはギリシャ・アテネへ向かい、そこからさらに飛行機で約50分です。夏のシーズンには、ギリシャ本土から高速船も運航しています。いずれも、日本からたどり着くまでに1日以上かかる「秘境空港」と言えるでしょう。
※記事制作協力:風来堂