うわっ…ヒガンバナの異名、多すぎ?その数1,000を超える「ヒガンバナ」の異名を紹介!

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「暑さ寒さも彼岸まで」

この季節になると、あちこちで咲き始める彼岸花(ヒガンバナ)。その名の通り秋のお彼岸に咲く花ですが、その華奢で優雅な花弁と燃えるような紅色に、昔の人は様々な想いを抱き、それを花の名に表しました。

美しいものから禍々(まがまが)しいもの、そして醜いものまで、ヒガンバナの異名は実に1,000を超えます。日本の「雨の呼び名」は400語を超えると言いますが、それを遥かに凌ぐ多さなのです。

そのすべてを紹介するのは大変すぎますから、今回は基礎的なもの、特にインパクトの強い異名まで、いくつかピックアップしたいと思います。

【彼岸花/ひがんばな】

最も有名であろうこの名前には、冒頭の通り「秋のお彼岸ごろに咲く」という意味と、その毒性のため「食べたら彼岸の向こう側=あの世へ行ってしまう」という意味が込められています。

確かに、その幽美なたたずまいは、三途の川のほとりに咲いていそうです。

また、旧暦八月ごろに咲くため「御盆花(おぼんばな)」と呼ぶ地域もあるそうです。

【曼殊沙華/まんじゅしゃげ】

ヒガンバナの別名として、最も有名な一つと思われますが、その出典は「天上の花(manjusaka:サンスクリット語)」を意味する仏教用語(『法華経』など)です。

一説に、東北弁の「まんず咲ぐ(葉のつく前にまず花が咲く)」が訛って、美しい漢字をあてたものとも言われます。

以下、あ行から一つずつ紹介していきます。

【親死ね子死ね/おやしねこしね】

※分布:大分県など

随分と恐ろしい名前ですが、ヒガンバナは花と葉が同時に出ることがありません。またの別名を「花知らず葉知らず」等とも言います。

どっちが親か子かはともかく、互いに殺し合った結果こうなったとも言われます。また、その毒性が暗殺に用いられたのか、骨肉の争いが繰り広げられたのかも知れません。

似たような異名として「親殺し」「親知らず」というものもありますが、親子みんなで幸せになって欲しいものです。

【狐提灯/きつねのちょうちん】

作者不詳『化け物尽くし絵巻』より、狐火。江戸時代後期。

※分布:山口県など

狐が夜道を歩く時、主に儀礼(例:狐の嫁入り)などで火をともすのがこの花と言われているため、その名がつきました。

他にも「狐の花火」「狐のかんざし」「狐の扇」「狐のたいまつ」「狐のロウソク」「狐のタバコ」「狐の嫁籠(よめご)」など、何かと物騒なヒガンバナの異名ですが、「狐の〜」シリーズはなんだかメルヘンチックで、少しホッとします。

【姑花/しゅうとめばな】

芳年「奥州安達がはらひとつ家の図(部分)」より、明治十八1885年。

※分布:大阪府、奈良県、愛媛県など

又の異名が「舅花(しゅうとんばな)」。

なんだかお嫁さんが嫁いだ先の家(特に義理の両親)に対して、何か「思うところ」ありそうな名前ですね。

ちなみに、さ行は「死人花(しびとばな)」や「地獄花(じごくばな)」など、スタンダードに恐ろしい異名も各種そろっています。

【提灯煌々/ちょうちんかんかん】

※分布:山口県など

真っ赤な花弁が煌々(こうこう、かんかん)と灯る提灯のようで名づけられました。

これの別バージョンに「提灯燈籠(ちょうちんどうろう)」があり、更に訛っていくと「チャンチャンゲーロー」や「チンカラポン」、「チンリンボーリン」など、謎の進化?を遂げていきます。

他にも、た行には「手腐花(てぐさればな)」とか「手焼花(てやきばな)」など、触るだけでかぶれそうな異名がたくさんつけられています。

【南無阿弥陀仏/なんまいだっぽ】

※分布:三重県など

文字通り、食べようものなら「お陀仏=死」を意味する言葉が訛ったものです。

また、な行は「野松明(のだいまつ)」など「野〜」系や、「猫騙花(ねこだまし)」などの猫系、食べた時の中毒症状を示す「喉焼花(のどやけばな)」などがあります。

【吐掛婆/はっかけばばあ】

佐脇嵩之『百怪図巻』より「山うは」、元文ニ1737年。

※分布:神奈川県、山梨県、静岡県、群馬県など

なんだか「妖怪はっかけばばあ」みたいな名前ですが、これまでの流れ?からすると、恐らくヒガンバナで一服盛られた姑が、強烈な吐き気に襲われて悶絶している光景が目に浮かぶようです。

この他、婆つながりの異名には「鬼婆」「婆殺し」「歯抜け婆」などがあり、平素からの恨みつらみが察せられます。

あまり嫁さんをいじめない方が良さそうですね。

【水子衆花/みずくしのはな】

歌川国明「子返しの戒め(部分)」19世紀。

※分布:石川県など

「水子(みずく、みずこの訛り)」とは、生まれる前、又は間もなく亡くなった赤子のこと、衆(し)はその複数形です。

お彼岸の時期には水子たちの魂も還ってくるので、それが花に咲いて現れると考えられたようです。

【嫁簪/よめのかんざし】

※分布:和歌山県、埼玉県など

先ほど登場した「狐のかんざし」のファンタジックなムードとは打って変わって、こちらは嫁さんの「リーサルウェポン(暗殺武器)」的な意味を感じてしまいます。

世の大奥様がた、本当に嫁さんは大事にした方が良さそうです。

【雷様花/らいさまばな】

尾形光琳「雷神図」。

※分布:茨城県など

雷様(らいさま)とは文字通り「かみなりさま」のことで、「地震雷火事親父」と言われる通り、激しい地域では昔から恐れられてきました。

ヒガンバナとの直接的な因果関係は不明ですが、又の別名「夕立花(ゆうだちばな)」と何かつながりがありそうです。

【忘花/わすればな】

※分布:長野県、群馬県、静岡県など

何を忘れてしまうのか定かではありませんが、ま行に「道忘花(みちわすればな)」、「道迷草(みちまよいぐさ)」等の異名が多くあることから、もしかしたらこの世から迷い出てしまい、帰り道を忘れて=そのまま死んでしまうことを暗喩しているのかも知れません。

【馬背花/んまぜばな】

※分布:茨城県など

わ行で終わりかと思いきや、東北弁?でまさかの「ん行」がありました。

放射状の花弁が馬の背=たてがみのようだから、とか、又は馬も背を向ける=毒だから食べない、などと言われています。

他の別名にも「牛舌曲(うしのしたまがり)」「蛇舌曲(へびのしたまがり)」などがあり、その毒性が如実に表わされています。

【その他・番外編】

外国でもヒガンバナに独自の名前がつけられており、英語圏では「Magic Lilly(魔法の百合)」「Red Spider Lilly(赤蜘蛛の百合)」、お隣のチャイナだと「銀鎖匙(銀のカギ)」なんてファンタジックなものから「鬼蒜」「避蛇生(蛇も食わない植物)」といった毒性を示すもの、学名は「Lycoris radiata Herb」と、その放射形の花弁を示すなど、世界各地で強烈な印象を与えていることを実感します。

【終わりに】

これまで紹介してきたヒガンバナの異名は、1,000を超える内のごく一部に過ぎませんが、その毒性と美しい外観のギャップが、無数のエピソードを生み出し、伝承されてきたことが察せられます。

それにしても、嫁・姑のドロドロ関係に由来する異名が多いことに驚きでした。美しいばかりでなく、身近な猛毒植物の代表格としても知られるヒガンバナ。

この季節、みんなで仲良く鑑賞したいですね。