第三者委員会によって組織的な不正融資が認定されたスルガ銀行スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団との対立が深刻化している(撮影:梅谷秀司)

「そして誰もいなくなった」

9月12日、東京高等裁判所内にある司法記者クラブ。スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団の団長を務める山口広・弁護士は険しい表情で記者会見の口火を切った。

破綻したスマートデイズのシェアハウス「かぼちゃの馬車」を受けて今年3月に発足し、約260人のシェアハウスのオーナーから相談を受けている被害弁護団。今年3月以降、オーナーの抱える債務の減免をめぐり、スルガ銀行の代理人を務める弁護士との間で、7回の交渉を行ってきた。

だが、この9月12日に予定していた8回目の交渉は行われなかった。それどころか、窓口となるスルガ銀行側の弁護士が立て続けに辞任し、今後の行く末すら危ぶまれている。

スルガ銀行側の弁護士が続々辞任

被害者側の弁護団によれば、これまでスルガ銀行の交渉窓口は2つ存在した。1つはオーナーとの交渉を担当するスルガ銀行の代理人としての弁護士と、もう1つは第三者委員会とは別に、スルガ銀行の社内調査にあたった危機管理委員会のメンバーだ。

ところが、9月7日に第三者委員会報告書が提出され、スルガ銀行の岡野光喜会長ら役員5名が辞任し、経営陣が一新された。これを理由に、スルガ銀行側の代理人である複数の弁護士が辞任を申し出た。

さらに危機管理委員会のメンバーも「第三者委員会の報告書が出た時点で、我々の依頼事項は全て終えた」(委員長を務めた久保利英明弁護士)として辞任したという。

スルガ銀行の担当弁護士は1人だけ留任してはいるが、「1人ではダメだから(交渉に)出るな、と誰とは言えないがそう言われたようだ。スルガ銀行は交渉の窓口を切ってくる暴挙に出た」(被害弁護団団長の河合弘之弁護士)。

弁護士の辞任についてスルガ銀行は「個別の契約についてのコメントは差し控える」(経営企画部)としている。

辞任しても被害弁護団との交渉は継続

今回、辞任したスルガ銀行側の弁護士の1人は「旧経営陣が辞任するタイミングで我々も一緒に辞任することは、以前からスルガ銀行に伝えていた。新経営陣が交渉の方針を決めたら弁護士も新たに選任するだろう。弁護士が辞任したからといって、被害弁護団との交渉を打ち切ったわけではない」と語る。


9月12日に司法記者クラブで会見した、スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団(記者撮影)

弁護士はあくまで代理人であり、新経営陣の方針が決まるまで勝手に交渉はできないという。

仮に新たな弁護士が選任されて交渉が再開しても、合意に至る見通しは立たない。これまでの7回にわたる交渉でも、実質的な進展には乏しかったからだ。「私たちは無理無体なことを言っているわけではない。不動産は返すから借金をゼロにしろと、極めてフェアな要求をしている」(河合弁護士)。

だが、7回すべての交渉に参加したというオーナーの男性は「スルガ銀行側の弁護士は、こちらの要求をのらりくらりとかわすだけだった」とあきらめにも似た表情を浮かべる。

これに対して、スルガ銀行と関係のある弁護士は、個人的な意見と前置きしたうえで「スルガ銀行としては、債務の負担割合については交渉の余地がある。だが被害弁護団の言うような、すべてチャラにしろという主張には応じられない。これを認めてしまったら、不動産投資で損失を出しても銀行に買い取ってもらえることになり、モラルハザードが起きてしまう。互いに交渉の余地がなく、このまま(交渉を)続けていても意味がない」と打ち明ける。

別の弁護士は、経営陣が交代したことで被害弁護団の要求を飲むことは一層難しくなったと指摘する。「旧経営陣の場合は、自らの行いの尻拭いという格好も付いたが、新経営陣となると、新たな損失を生み出す形になる」ためだ。

「地獄の底までついて行く」

このまま交渉が停滞すれば、決着は法廷へと移る。団長の河合弁護士はすでに私文書偽造の容疑でスルガ銀行の刑事告発を行ったと明らかにしたほか、「オーナーの中にはスルガ銀行の株主が多数存在するので、株主代表訴訟を提起していく」と二の矢三の矢を放っていく構えだ。

だが、被害弁護団に漂う手詰まり感は拭えない。スマートデイズはスルガ銀行に提出する預金通帳のコピーなどの書類を偽造していたが、その事実を契約時点で知っていたオーナーも複数存在する。司法が捜査に着手すれば、弁護団が守るべきオーナーにも捜査の手が及びかねない。

株主代表訴訟にしても、その趣旨は株主が会社に代わって役員の法的責任を追及することであり、仮に勝訴しても賠償金はスルガ銀行に入るため、オーナーが救われるわけではない。賠償によって株式の価値が上がったとしても、利益を享受するのは株主であるオーナーだけだ。別の弁護士は「あの手この手でスルガ銀行を揺さぶり、交渉の場に引きずり出すことが目的なのだろう」と語る。

「(スルガ銀行を辞めた役員が退職金を受け取り)平穏な老後を送ろうとしているが、そういうことは許さない」「きちんと(オーナーの)被害に向き合わない限り絶対に許さない。地獄の底までついて行ってやるという気持ちだ」

記者会見では弁護団の口から激しい言葉が飛び出した。だが幾年もの期間を要する訴訟はオーナーにとっても負担だ。オーナーの利益を守る一方で、振り上げた拳の落とし所を探ることも欠かせない。