「ウェアラブル端末にも「サブスクリプション」方式──サーヴィスとのセット提供が、継続利用を加速する」の写真・リンク付きの記事はこちら

「Apple Watch」が成功したおかげで、2017年のウェアラブルテック市場は少なからず拡大したかもしれない。しかし、分析レポート以外を読んできた人間は、そうは思わないだろう。

Fitbitの製品売上は減る一方だし、ノキアはヘルスケア事業から手を引いた。Wear OS(旧Android Wear)対応の新しいハードウェアは、かれこれ1年以上登場していない。

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現在ウェアラブルメーカーたちは、ユーザーにどうにか数カ月以上、デヴァイスを装着してもらおうと四苦八苦している。その一方で、ただの歩数計ではない何かに特化したウェアラブルの開発に注力している。

ボストンを拠点とするWhoopは、創業から3年ほど特化型デヴァイスの開発を続けてきた。彼らが販売しているのは、センサーがたくさん詰まったナイロン製のアクティヴィティトラッカーと、分析プラットフォームである。ターゲットは、エリートアスリートと「フォーチュン500」入り企業のCEOたち(どちらもマーケティングの一部だ)だ。

これまでWhoopは、プロや大学のスポーツチームを対象に、1プレイヤー当たり1,000ドルから2,000ドルの価格で徹底した分析とトラッキングを提供してきた。「NFLやNBAのチームもクライアント」というのが、同社の謳い文句だ。一般消費者も500ドルで利用できた。

しかし今回、Whoopはビジネスモデルを刷新した。

Whoopは5月15日、プラットフォームとバンド本体をまとめて提供するサブスクリプションサーヴィスを開始した。もうWhoopはトラッカーを単体で販売することもない。つまり、同社のウェアラブルを手に入れるには、月額30ドルを払うしかないのだ。

市場拡大のためのサブスクリプション

すでにWhoopを購入していた人は分析サーヴィスだけを継続利用することになるが、新規購入者は6カ月分の料金を前払いする仕組みになっている。

Whoopの創業者で最高経営責任者(CEO)のウィル・アハメッドいわく、サブスクリプション開始の大きな理由は、潜在顧客に対して「新規加入のハードルを下げる」ことだったという。「サブスクリプションサーヴィスによって市場を拡大できます。一定期間Whoopを試したあとで、ユーザーの行動が大きく変わることを期待しています」

新しいサブスクリプションモデルには、ビジネス上の明らかなインセンティヴもある。

このモデルは毎月の定額収益を確保するだけでなく、「コストを資本的支出から運用コストへ移すこともできます」とジテッシュ・ウブラニは話す。調査会社IDCのアナリストを務めるウブラニは、ウェアラブルテック市場を追ってきた。「さまざまなデヴァイスでみられるビジネストレンドです」

サブスクリプションだけのビジネスモデルには、ユーザーに継続してウェアラブルを装着してもらえる効果もある。データによると、アクティヴィティトラッカーのユーザーの多くは6カ月以内に使用をやめてしまうという。ウェアラブルのガラクタ箱行きを証明する逸話だって数多く存在する。

しかしアハメッドいわく、Whoopの継続エンゲージメント率は高く、ユーザーの50パーセントは18カ月後もトラッカーを装着しているという。彼は「ウェアラブル」という言葉を使うことも避け、ユーザーの継続的なエンゲージメントはWhoopの分析プラットフォームに関係しているのだと言う。

これは、Whoopが常日頃からパフォーマンスを意識しているエリートアスリートたちにサーヴィスを提供していることによるのかもしれない。もともと活動的ではない人々を、少しだけ活動的になるよう説得するのとは正反対なのだ。

PHOTOGRAPH COURTESY OF WHOOP

ジャック・ドーシーやネグロポンテが投資する理由

個人顧客とチーム顧客のどちらが多いかは明かせないと、アハメッドは言う、だが、同社が公開している「お客様の声」を見てみると、チーム顧客がWhoopのビジネスの大きな部分を占めていることがわかる。

Whoopがこれほどアスリートや投資家──Founder’s Collective、Two Sigma Ventures、ジャック・ドーシー、ニコラス・ネグロポンテ、NFL、Bose Venturesが名を連ねている──を惹きつけるのはなぜだろう?

Whoopのナイロン製バンドは見た目こそ平凡だが、これがほかのウェアラブルにはない高い精度を提供するのだという(同社のデータトラッキングは侵略的になる可能性がある。コーチは大学生アスリートの睡眠時間まできっちり把握できてしまうのだ)。

同社いわく、トラッカーは健康に関する5つの要素を1秒あたり100回測定しているという。そのひとつは心拍変動で、これはアップルやガーミンといった他社のウェアラブルも測定している。特定の活動に対して、体の神経系がどれだけ早く対応できるかを正確に把握するためのデータだ。

Whoopのデータ周りの健康強調表示はまだ査読されていないが、同社はウェブサイト上で自社データに基づいた論文を発表している。全体的に、アスリートの回復時間の大切さを強調するものが多い。

回復具合を色別に表示するWhoopの機能に言及しながら、アハメッドはこう話す。

「このトラッカーを5年間着けていますが、起きたときに自分が赤、黄色、緑のどの回復状態なのかいまだに自分ではわかりません。朝起きて疲れがとれていないように感じても、Whoopが回復していると教えてくれれば、その日のワークアウトに思い切り励めるんです」

サブスクリプションモデルは増えるのか?

ちょっと依存気味になるこうした機能が、チームにとってのWhoopの大きな魅力だ。

疑問なのは、こうした機能が月額30ドル払わせるほど一般消費者にとっても魅力的かということだ。さらには、ほかのウェアラブルメーカーもこのビジネスモデルを真似できるか、という問いも浮かんでくる。

実際にメーカーのなかには、すでにサブスクリプションを導入する兆候を示しているところもある。例えば、Fitbitのフィットネスアプリ「Fitbit Coach」やApple WatchのLTE通信機能などがそうだろう。しかし、これらは柱となるサーヴィスではない。FitbitのCoachからの収入は、デヴァイスの売上に比べればささいなものだ。

将来ウェアラブルのサブスクリプションサーヴィスは増えるかもしれない。だがいまは、Whoopのような「小規模だが儲かる」アプローチが中心だろうとIDCのウブラニは言う。

というわけで、今後しばらくはFitbitやアップル、ガーミンのウェアラブルに初期投資を続けることになるだろう。たとえ無料ソフトウェアへのコミットメントの欠如が、ウェアラブルのガラクタ箱行きを助長したとしてもだ。

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