恨み節ではない。負け惜しみでもなかった。

　４月７日に行われたＪ１リーグのセレッソ大阪対サガン鳥栖戦後、鳥栖のマッシモ・フィッカデンティ監督が判定に異議を唱えた。イタリア人指揮官が問題にしたのは、０対２で迎えた75分のシーンだった。ペナルティエリア内で相手ＤＦの手にはっきりとボールが当たったが、鳥栖にハンドは与えられなかった。

　アウェイの鳥栖は直後に１点を返したものの、勝点３をつかむことはできなかった。このため、試合後にフィッカデンティ監督が発したコメントが、とりわけ大きく扱われたのだろう。
　
　日本代表を率いていた当時、ブラジル人のジーコはしばしば判定に異議を唱えた。試合中に退席になったことがあり、試合後に主審に激しく詰め寄ったこともあった。鹿島アントラーズの選手だった当時も、ジャッジへの不満をこぼすことが多々あった。ブラジル代表やフラメンゴでプレーしていた彼に比べると、別人かと思わせるほどにヒステリックなところがあった。

　なぜそんなにも怒るのか。日本代表監督を務めていた当時に聞くと、ジーコは肩をすくめた。どうしてそんなことを聞くのか、とでも言いたげだった。

「ひょっとして、私がただ怒っているだけだとでも思っているのかい？　もしそうだとしたら、それは大きな誤解だよ」

　そういって笑顔を浮かべた。いつものジーコらしい穏やかな雰囲気があった。

「審判だって人間だから、ミスをすることはあるだろう。でも、『だからしょうがないよね』といった感じで何も言わなかったら、ミスジャッジを認めたことになってしまう。『ああ、日本はミスをしても何も主張しないのか』と審判に思われて、同じことが繰り返される危険が高まる。それを避けるためにも、ミスはミスだとはっきり主張しておかなければいけないんだよ」

　フィッカデンティ監督に話を戻そう。もし試合を引っ繰り返すことができても、彼は判定に言及したと思う。マイクを通して主張するのは、一時的な感情の発露ではない。「勝ったから言わない、負けたから言う」といったものではなく、今後への抑止効果を見込んでいるのだ。
　
　主審の立場になると分かりやすい。自分が担当した試合が議論の的になれば、気持ちがざわつくだろう。自分の判定をいつも以上に真剣にレビューし、次回以降はミスジャッジが減っていく、といったことが期待できる。
　
　首をかしげてしまう判定はＣ大阪対鳥栖戦に限ったことではない。勝敗に大きな影響を及ぼした疑惑の判定もある。５節の川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島戦はそのひとつだった。川崎Ｆの明らかなゴールがオフサイドで認められず、前年王者は勝点3を失っている。
　
　ビデオ・アシスタント・レフェリー（ＶＡＲ）を、Ｊリーグも導入するべきではないか。ピッチ上で起こる現象は、映像でほぼ漏れなく可視化できるのだ。それが21世紀のテクノロジーである。選手も観衆もすぐには馴染めないとしても、やがては当たり前になる。
　
　何よりも、誰も不利益を被ることはない。導入をためらう理由はないはずだ。