【動画あり】新幹線の車内清掃では、運行に与える影響を最小限にするため、さまざまなテクニックが駆使されています。座席の自動一斉回転ができない東海道新幹線では、「まわし取り」もそのひとつ。その早業を目の前で取材してきました。

座面は交換が可能だが

 2016年7月のある日、品川駅から東海道新幹線下り列車の指定席に乗ったところ、隣の席に「この座席は汚損によりご利用できません」と書かれた紙が置かれていました。


汚れのため座席の使用不可を示す紙。日本語と英語で書かれている(2016年7月、恵 知仁撮影)。

 座席を見ると、特にぬれていたり、周囲の席へ影響がおよぶものではありませんでしたが、背もたれから座面にかけて黒い筋状の汚れが存在。JR東海によると、東京駅での折り返し運転にあたって車内清掃を行った際、座面は交換できるため、そこだけに問題がある場合は交換対応が可能。しかし問題がそれ以外に広がっている場合は、このように使用停止にすることがあるといいます。

 列車が折り返すまでの短い時間で行われる新幹線の車内清掃、しばしばその早業が話題になりますが、基本的な清掃とあわせて、臨機応変にこうした対応を行っているわけです。

「機動班」の編成も 約8分で16両、1323席を清掃

 JR東海によると、東京駅での車内清掃時間は、乗客の降車時間を含めて12分、実作業は約8分が標準。その短い時間に、1編成16両の列車につき車内班43人、下回り班12人、まとめ役1人の合計56人のチームワークによって、次のような手順で清掃作業が行われています。「車内班」は車内の清掃、「下回り班」は車両への給水や集めたゴミの処理などの担当です。

(1)到着する新幹線の出迎え。
(2)ゴミの回収、座席の向きの転換。
(3)座席の「モタレ」(頭の部分にある白い布)の交換。
(4)座席の肘掛け、窓枠を清掃し、下りているブラインドを戻す。
(5)座席を、ぬれを検知できるセンサー付きのホウキを使って清掃。
(6)荷物棚の点検(忘れ物や汚れの確認)。
(7)掃き掃除やモップ掛けなどによる客室とデッキ(乗降口)の清掃。


東海道新幹線の車内清掃では、座席の頭部分にある白い布(モタレ)も交換される(2016年7月、恵 知仁撮影)。

 東海道新幹線では、その56人のチームが7組の体制で東京駅での車内清掃を実施しており、列車の本数が増える繁忙期には「機動班」を1組増やすこともあるとのこと。1チームあたり、普段は1日に15本、繁忙期は機動班を増やしていても、1日に18本ほどの列車を清掃するそうです。ちなみに東海道新幹線の旅客列車はすべて16両編成で、1323席あります。

 またこの車内清掃では、「まわし取り」という技が駆使されています。JR東海は2016年7月23日(土)と24日(日)に、新幹線車両の整備などを行う浜松工場の一般公開イベント「新幹線なるほど発見デー」を開催。そこで車内清掃の実演と体験を初めて実施し、「まわし取り」を披露しました。

秒速の早業「まわし取り」

 東海道新幹線の座席は軽量ですが、自動で一斉に回転させることができません。そのため折り返し運転にともなう車内清掃では、手動で各座席の向きを回転させる必要があります。

 この座席を回転させる作業、単に足元のペダルを踏んで座席を回転させるだけではありませんでした。両手を使って、座席の向きを変えると同時に「モタレ」(座席の頭部分にある白い布)を次々に取り外していき、あっという間に車内の姿が変わっていきます。


披露される「まわし取り」。1組2席の座席あたり、所要時間は約1秒(2016年7月、恵 知仁撮影)。

 計測したところ、1組(2席)の座席を回転させ、2枚のモタレを外すのに要する時間は約1秒。この、座席を回しながらモタレを取る技を「まわし取り」というそうです

 クルクルとリズミカルに回る座席と、取り外されるモタレ。ホームから窓を隔ててではなく目の前で見ると、「バタンバタン」と座席が回転する音がテンポよく車内に響くこともあり、あたりまえですが“速さ”の臨場感と迫力が大きく違い、思わずあっけに取られてしまいました。


ぬれを検知できる通称「魔法のホウキ」による清掃風景(2016年7月、恵 知仁撮影)。

 こうした作業によって新幹線の清潔さが維持されているわけですが、維持されているのはそれだけではありません。清掃に時間を要するとホームが空かないため運転できる本数が減りますし、清掃に手間取ると列車が遅延してしまいます。この車内清掃の“技”は、新幹線の清潔さのみならず、その利便性と正確さを維持している要因のひとつなのです。こんど、車内清掃をホームから見る機会があれば、ぜひ「まわし取り」とチームプレイに注目してみてください。

【動画】車内清掃で駆使される秒速の早業「まわし取り」