イラク戦争を意識したCMも話題に 『世界に一つだけの花』がヒットした要因

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今年の初めに巻き起こったSMAP解散騒動の際、突如としてオリコンシングルチャートにランクインした昔の歌がありました。『世界に一つだけの花』です。
21世紀のCDで唯一、ダブルミリオンを達成しているこの曲(2016年8月現在)。数ある彼らの楽曲の中でなぜこれだけが、解散反対を訴える手段をして購買されたのでしょうか……。SMAP史上最も売れた曲だから? あと僅かでトリプルミリオン達成だから? 理由は様々だと思われますが、「オンリーワン」を歌う歌詞が、ファンの気分にマッチしたことは間違いありません。

過去を振り返るとこの楽曲は、世の中の大きなうねりに対する、一市民のささやかな反論として機能してきました。それゆえ、途方もない流行歌となり、ついには、音楽の教科書に載るほどのポピュラーソングとなったのです。

『僕の生きる道』のエンディングテーマとなった『世界に一つだけの花』


『世界に一つだけの花』が初めて世に出たのは、今から14年前のこと。SMAPのアルバムの収録曲の一つとして発表されました。一般的に注目を集めるようになったのは、翌年の2003年1月。草なぎ剛主演のフジテレビ系ドラマ『僕の生きる道』の主題歌に採用されたことがきっかけです。
『僕の生きる道』は、無目的に生きていた草なぎ演じる高校教師が、余命一年を宣告されたのを機に、自分の人生を見つめなおしていくというヒューマンドラマ。当時、小説『世界の中心で愛を叫ぶ』によって巻き起こりつつあった純愛ブームの影響からか、ヒロイン・矢田亜希子とのプラトニックな恋愛がフューチャーされがちだった本作。しかし、本来はより大きい意味での自己実現を主題としており、その中には官僚主義への批判も含まれていました。

黒澤明監督の『生きる』と共通点が多い『僕生き』


そういった意味でおそらく、1952年公開のクロサワ映画『生きる』をかなり意識して制作されたのでしょう。2つの作品に類似点は多く、まず、主人公が2人とも公務員で、罹る病気も同じ胃がん。さらに、職場で浮いた存在になりながらも、仕事を通して生きる意味を見出していくところも共通しています。

『生きる』では志村喬演じる主人公が役所幹部を説得して公園をつくることに奔走しますが、『僕生き』の草なぎも教員仲間やPTAの反対を押し切り、受験シーズンで忙しい生徒たちと合唱コンクールでの入賞を目指します。
そして物語のラストシーン。生徒たちが歌う『仰げば尊し』は聞きながら眠るように死んでいく草なぎは、ブランコに揺られながら『ゴンドラの唄』を歌って果てていく志村とそのまま重なるのです。

「これは反戦歌だと思う」故・筑紫哲也氏が発言


さて、話を『世界に一つだけの花』に戻しましょう。「もともと特別なオンリーワン」と高らかに歌い上げるこの曲と、上記のような一市民の自己実現を描いた『僕の生きる道』は、驚くほど相性抜群でした。
2つのコンテンツは相乗効果をなし、ドラマは回を追うごとに視聴率が上昇。曲の方は先述した通り、新世紀始まって以来の売り上げを記録したのです。

またこの曲は、イラク戦争開戦直前の『NEWS23』において、故・筑紫哲也氏が「これは反戦歌だと思う」と語ったことでも話題となりました。それを受けてなのか、曲のTVCMで「もし、世界中のすべての人が、ありのままの自分を好きになれたら、戦争なんてなくなると思う」というメッセージを流し、波紋を呼ぶことに。「戦争に便乗して金儲けしようとしている」という批判もなされました。

『世界に一つだけの花』はこれからも反体制歌として歌い継がれる?


けれども、社会の大きな流れに対して、一人の人間ができることなんてほんの些細なこと。自分と目に付く周囲の人を肯定することくらいです。そのことをシンプルに歌う『世界に一つだけの花』が、他者愛を少しでも助長するきっかけになれば、それは意味のあることではないでしょうか。

その後、個人尊重の歌→反全体主義の歌(反戦歌)→社会の大きなうねりに抗議する歌と転換され、SMAP解散騒動の時にも自然と歌われるようになった『世界に一つだけの花』。
民意に反して、社会や国が何か大きな過ちを犯そうとするとき、これからもこの歌はどこからともなく流れてくるのでしょう。
(こじへい)

世界に一つだけの花