あなたは今の仕事にどんなきっかけで就きましたか? なんとなく? 自分の肌に合っていた? それとも親の影響? 実際はさまざまな背景が絡み合っているのだとは思います。でも、ふと見たドラマや映画、手にした小説などエンターテインメントがその後の人生を決めることもあるでしょう。そこで今回は医療ドラマを見たり、医療小説を読んで医師になった人を探してみました。果たしていつ、どんなエンターテインメントと出会ったのでしょうか。

人生を変えた作品「白い巨塔




糖尿病治療専門クリニックを開いている渡邉先生がハマったのは「白い巨塔」だったといいます。

「もともと生物学者にも憧れていたので理系に進もうかと思っていたんですが、高3のとき、大学に進んだ人の合格体験記の中に『白い巨塔』という小説について書かれていたんです。そんな小説があるのかと思って読み始めたら止まらずに、続編や文庫本も読破。名声を得ようとする財前五郎と、患者想いの里見脩二(しゅうじ)との対比も面白かったし、多少脚色されているとは思いますが、医療の現場の現実もイメージできました。それで医師に憧れを抱いたのです」

しかし、きっかけはきっかけにしかすぎません。その後の人生の推進力となるのは、先生自身の人を助けたいという気持ちがあってこそでしょう。

人生を変えた作品「赤ひげ診療譚」




台東区千駄木の「よみせ通り診療所」所長などを経て現在、佐藤桂子ヘルスプロモーション研究所所長、代表取締役。ちなみに「左藤」はビジネスネームだそう。

「子ども時代、本が好きだったのですが、山本周五郎という人情ものが得意な作家さんの本を読んでいるうちに『赤ひげ診療譚』という彼の代表作に行きつきました。江戸時代のお医者さんの話です。街の人々に人生を捧げる姿に『ジーン』としました。さらにテレビや映画などで実写化されてさらに良いなと。その本に出会わなければ医師になっていなかったかもしれません。大学卒業後、大学病院に残らずに、東京の小石川という場所の病院に勤務したのも、『赤ひげ』の舞台となっていた場所が小石川だったことを知っていましたので、『手っ取り早く赤ひげに近づくなら』と選びました」

もともと人の心理を解き明かしたり、何か人に教えるような仕事がいいかなと漠然と思っていたという左藤先生。現在、肥満で悩む方の治療のエキスパートとして活躍しているのもうなづけます。

人生を変えた作品「振り返れば奴がいる」 




「幼いころから、将来は『すごいね』と評価される仕事に就きたいと思っていたんです(笑)。例えば弁護士とか商社マンといったような類のものです。当時私は『ひとつ屋根の下』や『101回目のプロポーズ』といったいわゆるトレンディドラマを見ていたんですが、そこで『振り返れば奴がいる』に出会ったんです。これは病院内の対照的な2人の医師の対立を描いた人間ドラマ。その1人であるクールな天才外科医を織田裕二さんが演じていたのですが、毎回難手術を成功させるたびに『かっこいいなあ』と憧れて見ていました。つまり豊富な知識と技術があれば道が切り開けると思い立ちました。また幼い頃から割と手先が器用でプラモデル作りも熱中していました。こうした要素が重なって歯科医師の道につながっていったのだと思います」

医療人として恥ずかしくない技量を提供しなければいけない」という兒玉先生。その情熱は織田さん演じる司馬と対立していた、誠意ある治療を信条にする情熱派の石川(石黒賢さん)を彷彿とさせます。

今回3人の先生にそれぞれ何らかの影響をもたらしたエンターテインメント。今、あなたが見ているドラマ、あるいは読んでいる本もその後の人生を変えるかもしれません。
(内堀隆史)