キャリアを狂わされたのは選手だけではない。かつてシュツットガルトの医療スタッフを務めていた人物はある日、マガトにこう進言したという。
「あの選手は(怪我が完治していないから)起用すべきではありません」
 
 指揮官から感謝はされても、恨みを買うようなアドバイスではないだろう。しかし、そのスタッフはどうなったか。ほどなくして解雇された……。
 
 もっとも、誰もが“アンチ・マガト”というわけではない。彼を慕う選手や指導者は存在する。例えば、クラジミール・バラコフだ。マガト時代のシュツットガルトで現役生活の幕を閉じたブルガリアの伝説的MFは、その恩師の下で指導者としての研鑽を積んだ。また、クラーニィは自身の兄弟がシュツットガルトにレストランをオープンした際、マガトを特別ゲストとして招待するなど良好な関係を築いている。
 
「普段のマガトは意外にも紳士的」
 そう語るのは、シュツットガルトで岡崎慎司や酒井高徳のサポート役を務めていた河岸貴氏だ。岡崎のゴールなどでシャルケに勝利した試合後、彼は敵将マガトに“呼び出し”を食らった。マガトが通訳を好まない事情を知っていたため、ロッカールームに向かう際は「ヤバい。しばかれるかもしれん」と肚を決めていたという。しかし、実際は「内田に伝えたいことがあるから訳してほしい」と丁寧に頼まれただけだった。
 
 マガトに指揮を託していた頃、バイエルンのウリ・ヘーネス元会長は「選手が走れなくなっているのは、疲労が溜まっているか、監督を辞めさせたいがための抗議」と口にしたことがあった。2015年シーズンのJリーグで4番目に平均走行距離(113.567キロ)が長かった鳥栖の運動量は、はたしてどう変化するか。大いに注目だ。
 
文:遠藤孝輔