欧州シーンで名を上げた選手たち。成功への道のりは十人十色だが、だからこそ運が大きなカギを握る。(C) Getty Images

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 才能だけでは決して成功は掴めない。過去の歴史を紐解けばそれは明らかだが、置かれた環境などにも左右されるサッカー界でトッププレーヤーになるためには、いかなる要素が必要なのか。中田英寿をはじめ、小野伸二、中村俊輔、本田圭佑らの足跡をヒントに、スポーツライターの加部究氏が大成するための条件を導き出す。
 
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 おそらく、フットボーラーの明暗を分ける最も大きな要素は運だ。理解ある監督との巡り合せと言いかえてもいい。
 
 極論を承知で言えば、リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドが、もし日本に生まれていたら少年時代をベンチで過ごしていた可能性もある。あるいはベンチに座らなくても、平凡なパサーに終わっていたかもしれない。
 
 実際、今の日本に、小さなメッシがドリブルばかりしていたとして、守備の負担を軽減してまで、その長所を我慢強く伸ばそうと考える指導者が何割いるだろうか。
 
 フットボーラーとしての成否は、かなり成長してからでも依然として不透明なものだ。C大阪にレヴィー・クルピ監督がやって来なければ、香川真司は控えのボランチという立場に耐えられず、今もJリーグのクラブを渡り歩いていたかもしれない。
 
 武藤嘉紀の人生を一変させたのも、FC東京の監督交代劇だ。もしランコ・ポポヴィッチがあのままパスサッカーで成功していたら、ドリブルが持ち味の武藤は今頃出番を求めてレンタル移籍の道を模索していた可能性もある。だからFC東京を率いて今季で2年目のマッシモ・フィッカデンティ監督は胸を張る。
 
「私が来日した頃は、みんな柿谷曜一朗に注目していて、武藤のことなどほとんど誰も知らなかった」
 一方、スキルの高さが必ずしも成功を保証するとは限らないのも、この世界の特徴だ。
 
 柿谷が注目されたのは、スキルやファンタジーが比類ないレベルだったからだ。セレ女(C大阪の女性サポーターの呼称)に限らず、多くのサッカー小僧も胸をときめかせた。また過去の例に照らしても、移籍先の選択も理想的だった。小野伸二は当時オランダ三強の一角だったフェイエノールトのユニホームに袖を通し、瞬く間に圧倒的なスキルで信頼を集め、UEFAカップを手にした。
 
 さらに中村俊輔も、スコットランドの二大クラブのひとつ、セルティックで思うぞんぶん感嘆を引き出した。やはりパワーよりファンタジーを売るなら、強いチームで周りを輝かせて、自分も輝くのが鉄則だ。
 
 小野がエンジェルパスを提供した相手は、若き日のロビン・ファン・ペルシやデンマーク代表のエース、ヨン=ダール・トマソンたちだった。逆にボーフムやエスパニョールに移籍してからの小野や中村俊を見ても、中堅以下のクラブで輝くのが難しいことが良くわかる。
 
 その点で柿谷は鉄則どおりの移籍をした。スイスでバーゼルは群を抜く存在で、チャンピオンズ・リーグへの出場もほぼ確約されている。そんなバーゼルでも、柿谷のスキルはチームメイトを驚かせるレベルにあったという。ところが、?鉄板〞は外れた。
 
 パウロ・ソウザ前監督の信頼を得られず、ウルス・フィッシャーへの監督交代に望みを託して残留した柿谷だが、今のところ序列は変わらない。小野や中村と違いがあるとすれば、それは柿谷がパスの受け手として最前線でプレーしている点だ。
 
 レジェンドのふたりは強豪クラブでボールを引き寄せ、プレー機会が増えるメリットを享受したが、柿谷の場合は攻撃の機会が多くても、相手ゴール前の人口密度が障害になってしまっているのかもしれない。
 本田圭佑や岡崎慎司は、生き様や戦う姿勢で感銘を与えている。しかし半面、彼らのスキルに憧れるサッカー小僧は意外と少ないのかもしれない。