米スポーツ専門局ESPNが、サンディエゴ・パドレスの外野手、エバース・カブレラ禁止薬物の使用の疑いがあることを報じた。マイアミのクリニックから入手したと見られる。
 カブレラは、中米、ニカラグア共和国出身。2009年にメジャーデビューを果たし、昨年は44盗塁でナショナルリーグの盗塁王に輝いた。


 選手の禁止薬物の使用と、出身国には、相関関係がある。そう主張するのは、シカゴ大学のトビアス・J・モスコウィッツ教授と、米のスポーツ雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」の記者、L・ジョン・ワーサイム氏だ。
 両氏は共著、「オタクの行動経済学者、 スポーツの裏側を読み解く」(2012年、ダイヤモンド社)で、貧しい生活環境で育った選手ほど、禁止薬物を使用する可能性が高いと指摘している。

 メジャーリーグに所属する選手を出身国別に分類すると、米国出身が最も多く、全体の73.6%。一方、禁止薬物の使用で出場停止処分を課せられた選手のうち、米国出身者は40%だ。
 これに対し、ドミニカ共和国出身の選手は、メジャーリーグ全体の10%ほどだが、禁止薬物の使用で処分を受けた選手の28%を占めた。ベネズエラ出身の選手ではそれぞれ、6%12%だった。
 このことからモスコウィッツ、ワーサイム両氏は、「ドミニカやベネズエラ出身の選手は、米国出身の選手に比べ、筋肉増強剤を使って出場停止を食らう可能性が4倍近い」と判断した。

 この傾向はマイナーリーグでは、さらに顕著だ。薬物検査で陽性とされた米国出身選手の割合は、選手全体に占める米国出身選手の割合に比べ低く、半分にも満たなかった
 ドミニカやベネズエラ出身の選手では、リーグ全体に占める割合に対し、その2〜3倍の割合で処分が下されている。
 マイナーリーグでは、ドミニカやベネズエラ出身の選手に陽性反応が出る可能性は、米国出身の選手の4倍以上だ。

 もちろん、この時点で中南米出身の選手のモラルの低さを指摘するのは、尚早だ。偶然このような結果になっただけかもしれないし、米国の検査が同胞に甘い可能性もある。

 だが、モスコウィッツ、ワーサイム両氏は「ステロイドを使用している選手の割合は、母国の貧しさとほとんど完璧に一致している」と言う。
 2011年の1人当たりの名目GDP(国内総生産)を見ると、米国が4万8,327ドルに対し、ドミニカ6,828ドル、ベネズエラ1万630ドル、今回容疑をかけられたカブレラの母国、ニカラグアは1,239ドルだ。

 中南米の選手は、貧しい幼少期を過ごした。治安も良くない。だが、メジャーに昇格すれば、祖国では夢のような生活が過ごせる。
 また、禁止薬物の使用について規制が甘いメジャーリーグでは、薬物検査に引っ掛かる可能性は低い。罰則も軽く、ロー・リスクでハイ・リターンを得られるかもしれない。

 だから、中南米出身の選手は安易に禁止薬物に手を染めやすい。モスコウィッツ、ワーサイム両氏は、最初に陽性反応が出た平均年齢も調べているが、米国出身の選手が27歳、日本・台湾・豪州・カナダ出身の選手が30歳近くなのに対し、ドミニカ、ベネズエラ出身の選手は20〜21歳という若さだった。
 しかも、ドミニカ、ベネズエラ出身は再犯率も高いというデータもある。

 ナショナルリーグのチームの元スカウトは言う。「中南米出身の選手たちが、どんな育ち方をしてきたかを知れば、頭の片隅で、『成功するためにやれることを、何でもやらないなんてどうかしている』、そう思うようになるよ。仮にその『何でも』の中身がステロイドだとしても、だ」。

 もちろん、全ての中南米出身の選手が禁止薬物に手を染めているとは言わない。薬に頼らず、わが身1つで戦っている選手も少なくない。
 それでも、モスコウィッツ、ワーサイム両氏は、選手の禁止薬物の使用と、出身国の相関関係を主張している。
 米国内でも、平均所得が低く、高校や大学の卒業率も低く、失業率が高い地域出身の選手ほど、筋肉増強剤の使用率が高い

 全ての中南米、貧しい地域出身の選手を疑えとは言わない。だが、彼らが道を誤らない環境作りが必要だ。