まるでダルビッシュが「新技」でも覚えたかのようなタイトル(笑)だが、ダルビッシュはまたしても凄いものを見せてくれた。全盛期のJ.サンタナ(NYメッツ)が投げていた魔球同然のサークルチェンジアップが「パラシュート」と呼ばれ恐れられたように、ダルビッシュのボールにもそのうち"ニックネーム"がつくかもしれない。もっともダルビッシュの場合は球種のレパートリーが幾分多過ぎるので、ひとつのニックネームをつけるのは難しいかもしれないが。


 2012.09.14 vs Seattle Mariners


 岩隈久志とのマッチアップが注目された、今季27試合目のマウンド。マリナーズにはあのホロ苦いデビューゲームを含む過去3試合でかなり打ち込まれていたが、今のダルビッシュはもはや別人だった。立ち上がりから自信満々かつ落ち着いたマウンド裁きで貧弱マリナーズ打線を寄せ付けず、7回を僅か2安打1失点の9奪三振で15勝目。「3試合続けて7イニング以上、3被安打以下」は実に1990年にN.ライアンがマークして以来のレコードであり、またデビューから27試合目での200K到達は1918年以降史上4位のスピード達成となった。


「レンジャーズはダルビッシュにお金を払い過ぎたなんてまだ思っている人は、まさかいないだろうね」

「ダルビッシュは僕にとって、もっとも見るのが楽しいピッチャーになったね。クリフ・リー以上だよ」



 ゲーム後に「真っすぐが走らなかった中で試合をつくれて良かった」という本人談があったが、それでもカットボールを有効に使いつながらダイナミックに緩急をつけるダルビッシュらしい魅力的なピッチングは健在。5回、川崎宗則に対しては62mphのスローカーブと94mphのフォーシームを続けて投げるという泣く子も黙るスーパーコンボを繰り出した。これには地元のオーディエンスはもちろん、マリナーズ番記者までが「これはキツい」と唸った。


「ダルビッシュは川崎に対して62mphの大きなカーブを投げて、そして94mphのファストボールで三振を奪った。これはあまりにタフだ」

「これほどまでにスピードを変えてくる(緩急をつけてくる)ダルビッシュのピッチングスタイルは、本当に印象的だね」



 辛口批評のレンジャーズブログ『baseball Time in Arlington』のJoey Matschulatも、ズバリ『62/94』と題した記事でダルビッシュのピッチングを手放しで絶賛している。


Over his last five starts, Darvish has spun 36 innings of 2.00 ERA baseball on 16 hits and eight walks against 43 strikeouts and just one home run -- and while I attempt to work through the question of "What's more impressive: the enormous reduction in the walks, or the fact that he's been allowing one-quarter of one home run per nine innings over an extended period of time?", my mind is further blown by the fact that he has held opposing batters to a .132/.191/.215 (.184 wOBA) over those same five starts. From August 17th-present, that .184 opponents' wOBA has been the lowest mark posted by any of 95 qualifying major league starting pitchers. The second-lowest mark belongs to Max Scherzer, at .214. Thirty points of separation between No. 1 and No. 2. Ridiculous.

「最近5回の先発でダルビッシュは、36IPでERA2.00、16安打8四球43奪三振1HRという凄まじい成績を残している。四球やHRの少なさも目を見張るが、最も驚くべきはこのスパンに相手バッターをAVG.132、OBP.191、SLG.215と完璧なまでに抑えこんでいることだ。8月17日から今日まで、ダルビッシュのwOBA(※1).184という数字は、規定投球回を投げている両リーグあわせて95人のスターティングピッチャーの中で最高であり、しかもダルビッシュに続く2位のM.シャーザー(タイガース)は.214。2位に30ポイント以上もの差をつけてダントツ1位というのは、ただただ驚異的としかいいようがない」


(※1)wOBAの解説はこちら


 記事では「さらにスタッツを掘り下げることもいくらでもできるのだが、昨夜ダルビッシュが見せたあるシーンが、彼がバッターに対してどんなことができるかを充分に見せつけた」と前置きした上で、ダルビッシュが川崎の打席で見せた"62/94 combo"が映像と共に紹介されている。ダルビッシュは「メジャーリーグにて自身最も遅いボールとなる62mphのカーブを投げ、ボールが到達するよりも前に川崎宗則をバッターボックスから仰け反らせ、そして直後に94mphのファストボールを投げ込んだ」。ダルビッシュが「見ていて楽しい」ピッチャーである要素がここに凝縮されている。今風のシンカーやツーシームでゴロを量産する投手も見ていて気持ち良いのだが、ダルビッシュはまさに漫画から出てきたかの如く絵になるピッチングを見せてくれるピッチャーなのだ。





 さて、前回登板後の『Darvish Journal 2012 Vol.26』では、ダルビッシュのプレーオフ第1戦先発を推す声が高まっていることを紹介した。ESPNの「(レンジャーズの)プレーオフ第1戦先発は誰にすべき?」というアンケート結果を昨日のゲーム前に見たところ、ダルビッシュと同じ15勝のM.ハリソンが37%の得票率で1位、ダルビッシュが36%で2位となっていたが、昨日のピッチングでこの順位は逆転したことだろう。


「今この瞬間、ダルビッシュをプレーオフ第1戦に送り込むことに私は全く不安を感じない。たとえ相手がサバシアでもバーランダーでも、あるいはウィーヴァーでも、誰であろうとだ」


 ESPN DallasのRichard Durrettも、昨日のダルビッシュのピッチングを"Yu Darvish sure looks like a Game 1 starter"(まさにプレーオフ第1戦先発に相応しいダルビッシュのピッチング)と称している。


if the regular season ended this weekend and the playoffs started next week, Yu Darvish should get the ball in Game 1 of the ALDS for the Texas Rangers …Darvish no longer looks like the guy who struggled in his first inning against the Mariners on the opening homestand. Or the guy that for a stretch of seven straight starts in June and July was issuing at least three walks per outing. Gone is the guy who looked uncertain about which of his many pitches to throw in key at-bats.
「もしレギュラーシーズンが今週末に終わり来週からプレーオフがはじまるとしたら、ALDS(ディヴィジョンシリーズ)の第1戦は絶対にダルビッシュがボールを手にすべきだ。今のダルビッシュはもはや、4月のデビューゲームでマリナーズ相手に初回4失点したダルビッシュではない。あるいは、6月から7月にかけて7試合続けて3四球以上出していたダルビッシュでもない。重要な場面でどのボールを投げるか迷っているように見えたダルビッシュはもう今はいない」



"It’s not the same Darvish they saw earlier in the year," manager Ron Washington said. "It’s a different pitcher. He has a different attitude. The difference is he’s not trying to use everything he has. He’s identifying what’s working and he’s going with it and he’ll do something else later on. He's not the same pitcher they saw in April or May. It's a different guy and it showed tonight."
「彼等がシーズン序盤に見たダルビッシュと今のダルビッシュは違う」ワシントン監督は言った。「もはや別のピッチャーだ。ピッチングの姿勢が変わった。彼は自分が持っているもの全てを無理して使おうとしなくなったんだ。彼は毎回効果的なピッチングスタイルを探りゲームを進め、そして終盤になるとまた違うことをするんだ。4月や5月に見ていたダルビッシュとはもはや違うピッチャーなんだ」



"I feel nothing," Darvish said of the strikeout achievement. "The goal of pitching up here isn’t to throw how many strikeouts. I don’t feel anything towards that number." Sounds like a guy with a playoff mentality, doesn't it? That's the other big difference in Darvish the past month. There's no sign of fear from him. It's not that he was scared earlier in the season, but he's pitching with a confidence that is more visible these days.
「ダルビッシュはシーズン200奪三振を達成したことについて「興味がない。ピッチングのゴールは多くの三振を奪うことではないから、その数字には何も感じない」と語った。これぞプレーオフに相応しい男のメンタリティーではなかろうか。他にも過去1ヶ月のダルビッシュはそれ以前と大きな違いを見せている。今の彼は"恐怖"を感じていないように見える。それ以前も別に彼が恐怖を感じていたというわけではないが、しかし今の彼は本当に自信に満ちている様が見ていてわかる」



Give some of that credit to Washington, who had a sit-down meeting with Darvish in Boston and since that start, one that was a struggle for Darvish, the Japanese pitcher has gone on this solid run. Pitching coaches Mike Maddux and Andy Hawkins have certainly helped. But Darvish has done the work.
「(ダルビッシュの成長には)ワシントン監督も部分的に貢献した。ダルビッシュが苦しんでいた時期にボストンで、ワシントン監督はダルビッシュとの個人面談を設け、その後ダルビッシュは素晴らしいピッチングを続けている。コーチのM.マダックスとA.ホーキンスの存在も助けになったことは間違いない。しかし結果を出しているのは他でもないダルビッシュ本人だ」



"It’s confidence," Washington said of what he sees in Darvish. "It’s confidence, comfort, relaxation. All of that plays into it. But as a pitcher, you have to know what’s working." Darvish does. And it's working well enough that he should get the ball for Game 1 of the playoffs. It also means that if it comes down to a winner-take-all Game 5, Darvish would be on the mound. That's fine with me. Darvish looks confident and comfortable. I don't think he'd shrink in that kind of situation.
「今のダルビッシュは何が良いのかと聞かれたワシントン監督は「自信だね」と答えた。「自信と、快適でいることと、リラックス。それら全てがハマっている。ピッチングに関しては、何が有効かを知ることが大事だね」。ダルビッシュは、まさにそれを実行している。そしてそれは彼がプレーオフ第1戦のボールを手にするには充分過ぎるほど上手くいっている。またそれは同時に、もしプレーオフがwinner-take-all(負けたら終わり)の第5戦までもつれた場合にも、ダルビッシュがマウンドに立つことを意味している。私はそのことに全く不安がない。ダルビッシュは自信を持っており、快適そうに見える。彼がそのような大舞台でビビってしまうようなピッチャーだとは、私は思わない」




 ダルビッシュのピッチング内容はもちろんだが、その人間性やメンタリティーまでひっくるめて「ダルビッシュは大舞台に相応しい」と考えられていることがよくわかる。つい1ヶ月前には「これ程までに何もかも上手くいかないのははじめて」とまで語ったダルビッシュだが、何だかんだ地元のビートライターにここまで言わせてしまうあたりは流石としか言いようがない。ダルビッシュの実力と期待値を考えれば当たり前と思うかもしれないが、ルーキーイヤーのこの時期にこれ程の信頼感を得ることは並大抵のことではないのだ。




 さて、こうした気の早い記事に目を通しているとレンジャーズのプレーオフ進出はほぼ確実という気分になってくるが、オークランド・アスレティックスが怒濤の快進撃でついに2ゲーム差まで迫ってきており、ここにきて地区優勝争いがヒートアップしてきた。今月末に行われるアーリントンでの直接対決4連戦シリーズがシーズンの天王山となるだろう。ダルビッシュに「エース」としての仕事を期待したい。



halvish