「シャープがアップルの下請け、体のいい子会社に成り下がるのでは」−−。年末の株式市場にまたゾロそんな観測が浮上している。
 シャープ関係者は否定するが、同社を巡ってはこの夏以来、アップルが巨額出資を含めた関係強化を狙って急接近しているとの情報が飛び交っていた。
 確かに根拠のない話ではない。アップルはスマートフォンやタブレット端末に係る知的財産権訴訟で、韓国のサムスン電子と世界中で泥沼の法廷闘争を展開している。実際、サムスンに対するアップルの嫌悪感はハンパなレベルではない。

 今年の9月2日から8日までの間、ドイツのベルリンで世界最大級の家電見本市『IFA2011』が開かれた。そのタイミングを見計らったかのようにアップルはサムスンを提訴、現地裁判所がサムスンに販売差し止めの仮処分を下したことで、世界中の関係者が見つめる中、サムスンは会場から新型タブレットを撤去させられるという屈辱を味わった。
 「サムスンはアップルの重要なサプライヤーでありながら『アップルキラー』と呼ばれる対抗機種を次々と売り出し、いまやアップルを脅かす存在になっている。これに危機感を募らせたアップルが、特許侵害などで蹴落としにかかった。ベルリンでの事件は、そんな背景を踏まえて起きました。そこまで険悪な関係になった以上、アップルはサムスンに代わる信頼の置けるサプライヤーを、何が何でも必要としている。そこでシャープに白羽の矢が立った図式です」(業界関係者)

 アップルは2012年半ばにも新商品「iTV」を発売すると言われている。詳細は不明だが、10月に死去したスティーブ・ジョブズ会長が開発に並々ならぬ執念を燃やしたテレビで「そこにシャープの液晶パネルが使われる」とはやし立てる市場筋さえいる。
 「iTVだけではありません。アップルのスマートフォンやiPadのディスプレーも、今後はシャープから一括調達するとの観測さえある。その場合、シャープの首根っこを押さえ込む必要があるというのが巨額出資の根拠になっています」(地場証券幹部)

 昨年の暮れ、一部報道で「アップルがスマートフォン向け中小型液晶パネル生産のため、東芝とシャープに1000億円ずつ拠出し、スマホ市場で一気に攻勢をかける」とあった。当時、アップルによる“植民地シフト”と目を剥いた関係者は少なくなかった。その後、両社とも沈黙を貫いているが、シャープに限って言えば、今になって水面下の動きが顕在化しつつあるということだろう。