アジア全体は莫大な資産を持っているのに、返しきれないほど借金を抱え込んでしまった日本は今後、どうなっていくのだろうか(写真:まちゃー/PIXTA)

「最も重要なのは、変化し続ける時代の流れに合わせ、自分も変化できるようにしておくことである。時代がどう変遷しているかを肌で感じ、それに順応することだ」と、世界三大投資家の1人ジム・ロジャーズ氏は言う。これまで「リーマンショック」「トランプ大統領当選」など数々の予言を的中させてきた同氏が、近著『お金の流れで読む 日本と世界の未来──世界的投資家は予見する』より、「歴史に立脚して先を読む」方法について解説する。

歴史は繰り返すのではなく「韻を踏む」

私はつねに、歴史の流れを踏まえながら、数年先を見るようにしている。歴史の流れは、先を読む力、とりわけお金がどう動くかという未来を教えてくれる。成功したければ、将来を予測しなければならない。投資家だけではない。ミュージシャンであれ、サッカー選手であれ、会社員であれ、どんな世界でも成功したければ先を読むことが重要だ。私が2007年に家族でシンガポールへ移住したのも、来る「アジアの世紀」を見越してのことである。

重要なのは、「歴史は韻を踏む」ということである。これは作家マーク・トウェインの言葉だ。世界の出来事のほとんどは、以前にも起きている。まったく同じ出来事が起きるわけではないが、何かしら似た形の出来事が、何度も繰り返されている。戦争、飢餓、不況、外国人迫害、貿易戦争、移民問題──。これらの問題は、形を変えて何度も起きているのだ。

現在と類似した問題が以前どのようにして起きたのかを理解すれば、現状がある程度把握できる。それがどのような結末になるかもわかる。よく「歴史は繰り返す」と言うが、まったく同じことを繰り返すのではない。韻を踏むように、少しずつ形を変えながら反復をし続けるのだ。

例えば、1990年代後半から2000年にかけて、アメリカではバブルが起きた。住宅と金融を中心にした資産価値が高騰したのだ。不動産業界の人間は案の定、「今度は違う」と言った。日本人はその頃、資産をたくさん持っていたものだから、不動産を買うべくすぐさまニューヨークへ飛んでいった。住宅価格がさらに高騰すると安易な考えを持っていたのだろう。

そのようにアメリカ全体がバブル景気で盛り上がっていたさなかは、経済紙の「ウォール・ストリート・ジャーナル」でさえも、「経済が新時代に突入した」というような報道をしていた。「ザ・ニューエコノミー」という新しい用語を作ってしまったくらいだ。

しかし、歴史を学んだ人には、「明らかに前回のバブル崩壊と同じ兆候がある」ということはわかっていた。というのもその約90年前、アメリカは同じようなバブルを経験しているのだ。1920年代、第一次世界大戦で疲弊したヨーロッパは、かつての勢いを失っていた。

代わりに競争力をつけたのがアメリカだ。重工業への投資拡大、自動車産業の躍進、大量生産・大量消費。空前の繁栄を、当時の大統領ハーバート・フーヴァーは「永遠の繁栄」と呼んだ。「新時代」「黄金の20年代」という言葉も生まれた。

しかし実際のところは、「永遠」でも何でもなく、ただのバブル景気にすぎなかった。ほどなくニューヨークのウォール街で株価が暴落し、それが1929年からの世界大恐慌へと波及する。

リーマンショックの影響は受けずにすんだ

このように歴史に学んでいたおかげで、私はこれまでにリーマンショックからトランプアメリカ大統領当選、北朝鮮開国に至るまで、数々の「予言」を的中させてきた。とりわけリーマンショックが起こることはその前年から目に見えていたので、その後少なくない利益を得ることができた。住宅ローン業務を担う連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)の株を空売りしたのだ。

ファニーメイだけでなく、シティバンクやその他投資銀行の株も空売りした。テレビに出演して「もうすぐ崩壊が訪れる」ともコメントした。だが、私の言葉に耳を傾けてくれる人は誰もいなかった。「君は変わっている」「ロジャーズはついに頭がおかしくなった」と言われただけだ。

2016年に、東京で講演をしたときもそうだった。「これからは北朝鮮が台頭する」と発言したのだ。あまりに「北朝鮮、北朝鮮」と言ったものだから、あやうく逮捕されそうになったくらいだ。2年後の2018年、状況はまるっきり変わった。「ロジャーズが北朝鮮について話していたとき、彼は頭がおかしいと思ったが、いまは彼が正しいことがわかった」と言われたのだ。

2016年のアメリカ大統領選のときのことも、よく覚えている。大統領選のニュースを見ながら妻と娘2人に、「勝つのはドナルド・トランプだ」と言ったのだ。そう断言すると、家族はみなひどく腹を立てた。私はトランプ支持を表明したのではなく、あくまで彼が勝つと言っただけなのだが。でも、結果としては私の予想どおり、彼が当選を果たした。

では具体的に、投資市場に目を向けてみよう。歴史が教えてくれるのは、これからは「アジアの時代」がくるということだ。

現在アメリカは、有史上最大の債務国(他国からお金を借りている国)である。世界でいちばん、それも世界の歴史上最も多くの借金を抱えているのだ。さらに悪いことに、その債務は増え続けている。対外純資産が約マイナス900兆円(2017年末時点)という数字は、他国に抜きん出て大きい負債額だ。


世界最大の債権国は日本、3位は中国

アメリカが借金を膨らませている一方で、アジア諸国は資産を膨らませ、債権国(他国にお金を貸している国)になっている。この75年間で、アメリカ・ヨーロッパ・日本から、中国・シンガポールなどアジア諸国への大規模な資本流入が起きた。現在、世界の負債は西洋に、資産は東洋にある。


現在、世界で最大の債権国は日本であり、第3位は中国だ。借金を背負うことなく、中国は莫大な資産を築き上げた。2008年、リーマンショックに端を発する世界金融危機が起きると、そこから中国は、まさかのときのためにずっと貯め込んでおいた資金を使い始めた。膨大な貯蓄を、公共事業を通じて株価上昇のために使ったのだ。中国の資産によって、世界の国はずいぶんと助けられた。


それ以降、中国は金を借りる側に回り、債務を抱える地方自治体、企業、個人が増え始めている。それでも、中国が依然として非常に大きな債権国であることに変わりはない。

日本はどうだろう。対外純資産は、世界第1位の約300兆円(図1参照)。外貨準備高も、2018年3月末の時点で1兆2000万ドルを超えており(図2参照)、この数字は世界第2位という非常に高い水準である。

しかし国内の財政をのぞいてみると、腰を抜かすほどの赤字になっている。日本が抱える長期債務残高は、2017年末の時点で地方を除いて国だけでも約898兆円。しかも、その額は年々増える一方だ。これだけの借金を返すために公債を発行し、その借金を返済するためにまた公債を発行──と、どうしようもない悪循環に陥っている。借金の返済には、若者や子どもたちの世代が将来大人になったときの税収などが充てられる。将来世代へと負担を押しつけ続けていることになるのだ。

債務が大きい国は、つねにひどい姿になって終焉する──。こういうことは、すべて歴史が教えてくれる。

だから、日本の将来を危惧しなければならない。私自身、心から案じている。少子高齢化、人口減少。移民も受け入れない。にもかかわらず高齢者は増える一方なので、社会保障費などの歳出が増え続けていくことになる。それを賄うために、また国債が増えていく。

30年後の日本の借金は目も当てられないほど

日本の長期債務残高はここ10年弱で増加の一途をたどっている。この10年で近隣のアジア諸国がどれだけ力をつけたかを鑑みると、両者間の落差にはめまいがするような思いだ。アジア全体は莫大な資産を持っているのに、いくつかのアジアの国、とくに日本は莫大な借金を抱え込んでしまった。


もし私が10歳の日本人だったとしたら、日本を離れて他国に移住することを考えるだろう。30年後、自分が40歳になった頃には、日本の借金はいま以上に膨れ上がって目も当てられない状況になっている。いったい誰が返すのか──国民以外、尻拭いをする者はいない。

人と異なる考え方をすれば、ほかの人には見えないものが見えてくる。それが成功への第一歩だ。もし、周りから自分の考えをバカにされたり、笑われたりしたら、大チャンスだと考えればいい。人と同じことをして成功した人は、いままでいないのだから。

そして最も重要なのは、韻を踏みながら変化を続ける時代の流れに合わせ、自分も変化できるようにしておくことである。時代がどう変遷しているかを肌で感じ、それに順応することだ。

人は歳を重ねるごとに、変化に順応するのが難しくなる。しかし、あなたがたとえ40代ですでに仕事上の地位を確立していたとしても、変化を拒んでいればいずれ職を失うことになるだろう。