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●「プリウスPHV」もコネクティッドを推していた

トヨタ自動車は新型「クラウン」を「初代コネクティッドカー」として発表した。一昨年にコネクティッド戦略の説明会を開いたトヨタだが、今回のクラウンを同時発表の「カローラ スポーツ」とともに“初代”と位置付けるのはなぜなのか。多彩なサービス内容ともども解説していく。

○「クラウン」と「カローラ」がコネクティッド?

6月26日に発表された、通算15代目になるトヨタの新型クラウン。その概要については先日、テストコースで試作車を試乗した様子をお伝えした。しかし発表の場では、試乗のときには聞かれなかった新しいメッセージが加わっていた。「初代コネクティッドカー」である。

同日、12代目「カローラ」の先陣をきるクルマとして発表された新型車「カローラ スポーツ」にもまた、トヨタは初代コネクティッドカーという名称を与えている。

これらのメッセージについて、「あれっ?」と思った人もいるようだ。トヨタの初代コネクティッドカーは「プリウスPHV」ではなかったのかと。

○「プリウスPHV」との違いは

トヨタがコネクティッド戦略についての発表会を開催したのは2016年11月。この時は、発表間近となっていたプリウスPHVに言及し、スマートフォンのアプリで乗車前のエアコン設定やバッテリー状況の確認、充電ステーションの検索などができる「ポケットPHV」というサービスを提供予定とした。

翌年2月に発表されたプリウスPHVは、予告どおりスマホアプリを用意し、インテリアに11.6インチという巨大な縦長ディスプレイを備え、DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)を搭載して、「T-Connect」と呼ばれるテレマティクスサービスを準備していた。

そこには、音声対話サービスの「エージェント」、専用アプリ、万一のときにアラーム通知や位置追跡を行うセキュリティサービス、定期点検などの案内をメールで送信するリモートメンテナンスサービス、事故や急病などの際に緊急通報を行うヘルプネットなどの用意もあった。

これだけの内容を備えていたプリウスPHVだが、トヨタが初代コネクティッドカーに位置づけなかったのは、ベースグレードにDCMを装備していなかったためかもしれない。新型クラウンやカローラ スポーツは、DCMが全車標準装備となっている。

●街ともつながる新型「クラウン」

○つながる機能が若返りの切り札?

先進的なイメージを持つプリウスPHVがコネクティッドカーになるのは、自然な流れともいえる。逆に、クラウンやカローラはユーザーの高齢化に悩んでいた。若返りのためにクラウンではデザインを一新し、カローラでは久々のハッチバックを「スポーツ」という名前とともに送り出した。

トヨタとしては2台の若返り戦略の最後の一手として、初代コネクティッドカーという意外性のあるメッセージを加えたのだろう。とはいえ、プリウスPHVよりもはるかに幅広いユーザー層を狙っているクラウンと、価格をプリウス以下にしたいと考えていたカローラスポーツで、DCMを全車標準装備としたのは、英断ではないかとも思っている。

新型クラウンのインテリアデザインは前回紹介したとおりで、プリウスPHVのような縦長のディスプレイは採用していない。60年以上の歴史を持つクラウンのインパネにはなじまないという判断かもしれない。

しかしながら前述したように、車載通信機DCMは全車に標準搭載となっており、T-Connectサービスが3年間は無料で使える。4年目以降は1年につき1万6,000円(税抜)の利用料が必要となる。

○インフラとの通信も増え始める

その内容は、まずドライバー向けでは「ヘルプネット」「eケア」といった安全・安心をサポートするサービスに加え、「オペレーターサービス」 「エージェント」など、カーライフを快適にするためのサービスも提供する。

これらはプリウスPHVなどでも展開しているが、新型クラウンでは「My TOYOTA for T-Connect」という名前を与えており、ドアロックやハザードランプ消灯などをスマホで操作できることに加え、現時点での航続可能距離やクルマの健康状態などが確認できたり、安全運転やエコな運転を診断する機能も追加となったりしている。

さらに新型クラウンでは、上記の「ドライバーとつながる」機能以外に、「街とつながる」「社会とつながる」という点もアピールしている。

このうち、街とつながる部分では、2015年からクラウンに搭載している「ITS Connect」を引き続き採用。ITS専用周波数(760MHz)を活用し、クルマに搭載したセンサーでは捉えきれない、見通しの悪い交差点などでの情報を、他のクルマやインフラと通信を行うことで、ドライバーに知らせて安全運転を支援する。

2015年時点では、インフラ側の通信システム対応交差点は全国で数カ所だったが、今回、記事を書くにあたりトヨタのウェブサイトを見たところ、東京23区内だけでも30カ所近くに増えていた。車両側では「プリウス/プリウスPHV」や「アルファード/ヴェルファイア」が加わっているので、効果を発揮するシーンは増えているのではないかと推測できる。

●「最後は人」がトヨタイズム

○LINEで「クラウン」と“ともだち”に

社会とつながる部分では、2011年の東日本大震災で初めて提供し、先月の大阪北部地震でも展開した「通れた道マップ」がある。DCM搭載車両などから収集した情報に基づく通行実績をウェブサイトで無料公開したもので、直近約24時間の通行実績情報が1時間ごとに更新されるので、災害地域での移動に役立てることができる。

もうひとつ、クラウンのコネクティッドサービスで注目したいのは「LINEマイカーアカウント」だ。自分のクルマを“ともだち”として追加し、ナビの目的地登録やガソリンの残量、天気予報の確認などが可能になるというものだ。

プリウスPHVではLINEを含めたSNSに全く対応しておらず、残念に感じた記憶がある。今回も、家族や友人からのメッセージがディスプレイ上に表示されたりはしないようだ。ユーザーの若返りを目指しているのであれば、もちろん安全性は担保したうえで、より積極的な対応を望みたい。

○AI導入もオペレーターは残すトヨタの判断

一方で感心したのは、プリウスPHVの取材時に開発担当者から聞かれた「最後は人」というメッセージが、新型クラウンにも受け継がれていることだ。トヨタでも、他のブランドと同じ人工知能(AI)を用いた応答は「エージェント」として用意しているが、それだけでなく、オペレーターが対応するサービスも継承している。

新型クラウンが、依然として年齢層の高いドライバーを想定しているからではない。20〜30歳代のユーザーを想定したというカローラスポーツでも、同じようなサービスを展開している。つまり、これがトヨタらしさなのではないかと筆者は感じた。今後、さまざまなブランドがコネクティッド分野を進化させていくだろう。その際にトヨタの「最後は人」という考え方は、強みになるのではないだろうか。