道路建設予定地にある古墳の存続をめぐって静岡県沼津市が揺れている。
2008年に市内で発掘された「高尾山遺跡」は、3世紀前半に築造された大型前方後方墳だ。出土した埋葬品などから、ヤマト政権と主従関係にある「古代スルガの王の墓」ではないかと見られる。
日本考古学協会や保存を願う住民は保存を求めているが、市は都市計画通り道路建設を進める方針だ。市議会は取り壊し費用を含む補正予算案を2015年6月30日に可決している。
今のところ古墳は完全破壊を免れている。しかし、予算が執行されれば全面発掘調査を名目に墳丘全体が削り取られ、その跡に道路が整備される。


高尾山古墳 (沼津市) 全景(Saigen Jiroさん撮影、Wikimedia Commonsより)

古墳発掘のきっかけとなった道路建設

これほど貴重な遺跡が未発見だったのはなぜか。古墳の上に熊野神社と高尾山穂見神社の2社が鎮座していたからだ。地元では「この小山の下に古墳がある」と言い伝えられていたという。
都市計画で神社の敷地は道路予定地とされ、2008年に神社は隣接地に移転する。跡地の小山を調査したところ、古墳が見つかった。

古墳の規模は墳丘長62.18メートル、高さ約5メートル。築造年代は邪馬台国の卑弥呼と同じ古墳時代最初期で、当時の東日本では最大級だ。
日本考古学協会は「日本列島における古墳文化形成を解明する上できわめて重要。駿河の古墳時代最初頭の重要遺跡で、歴史・文化的重要性を知る起点」と主張している。

県知事の本音も「保存」だが

7月1日の毎日新聞は、「文化庁、国土交通省、県、市、学識経験者で公開の協議をした上で(古墳存廃の)結論を出す」と市長が述べ、それまで予算執行は保留する考えを示したと報じている。
川勝平太静岡県知事も6月25日の定例記者会見で「保存と道路整備を両立できないか」と述べている。

考古学協会や保存を求める市民団体、古墳マニアは、ツイッターで現状保護を訴えたり、署名活動を展開している。ウェブサイト「Change.org」では、7日現在2万筆に迫る署名が寄せられている。

一方で、古墳の規模が一定規模に達していない以上、市の方針が転換しない限り保存は難しいだろうと予測する声もある。

沼津市が完成させたい道路は、沼津IC南交差点と江原公園交差点を結ぶ約1.8キロの区間だ。このルートが開通すれば、沼津駅前と裾野バイパスがスムーズに往来できるようになる。上石田交差点の混雑緩和にもつながる。


高尾山古墳周辺の地図(Jタウンネット作成)

7月1日の中日新聞によると、市は、迂回ルートを新設するか陸橋で古墳をまたぐなどして残せないか検討したものの、「道路の安全基準を満たさない」と判断し、予定通り道路建設を進めることに決したという。