マーリンズのイエリッチ(左)、イチロー(中央)とスタントン(右)【写真:田口有史】

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痛すぎるスタントンの負傷、高まる「ファイアーセール」の可能性

 マーリンズとメジャーリーグに衝撃が走った。両リーグトップの27本塁打、67打点をマークしていた主砲ジャンカルロ・スタントン外野手(25)が27日、左手の有鉤(ゆうこう)骨の骨折で長期離脱することが判明した。26日のドジャース戦でスイングした際に痛めたという。シーズン60本近いペースで本塁打を量産していたメジャーを代表するスラッガー離脱のニュースはESPNで速報され、マーリンズファンだけでなく多くのベースボールファンを失望させた。

 7月にシンシナティで行われるオールスターゲームでは24本塁打を放っているナショナルズのブライス・ハーパー外野手との競演にも注目が集まっていた。薬物検査が厳しくなった近年には見られなかった両選手によるハイレベルなアーチ合戦はファンを興奮させていただけに、残念でならない。

 そして、開幕直後から期待外れの戦いをしていたマーリンズにとって、代役を見つけるのが困難な主砲の離脱が、主力の「ファイアーセール」に繋がる可能性は極めて高い。ウエーバー公示なしのトレード期限の7月31日までに複数の選手がマーリンズ以外のユニホームを着ていたとしても、驚くべきではないだろう。

 米メディアは今季限りで契約が切れるダン・ハレン、マット・レートス両投手、複数のポジションを守れる需要度の高いマーティン・プラード内野手を放出候補に指名。さらに、故障者リスト(DL)入りしている強打者マイケル・モース内野手、中継ぎのマイケル・ダン投手、昨季までクローザーだったスティーブ・シーシェク投手らが他球団の関心を集めるとみている。

 その中に外野の4番手としていぶし銀の働きを見せるイチローの名前も挙がっており、パイレーツやメッツ、ナショナルズなどプレーオフ争いに向け補強が必要なナ・リーグのチームが興味を示すかもしれない。今後1カ月のチームの戦いがマーリンズの今季を大きく左右することは間違いなさそうだ。

イチローは出番増もここが正念場、3000本安打に近づくか、それとも…

 元々、春先から上昇気流に乗れない状況を見かねたオーナーがトレードで主力を放出するのでは? との憶測が早い時期から出ていた。

 6月中旬頃にジェニングス監督は「最後まで諦めない」と噂を否定していたが、それもスタントンがいたときの話。エースのホセ・フェルナンデス投手が7月上旬にも復帰する見通しだが、元々打撃陣の不振とリリーフ陣の不調が低迷につながっていただけに根本的な解決につながるのか微妙。むしろ、本当にあきらめない姿勢を示すならば、先発投手との交換でパドレスのジェスティン・アップトン外野手のような強打者を獲るくらいの補強をしないと、勝率5割も見えてこないだろう。

 現時点で球団はスタントンの代わりに、イチローを右翼で起用していく方針のようだ。球団公式サイトのフリサロ記者が「通算3000安打に114安打に迫っているイチローが偉業への歩みを加速させるかもしれない」と指摘するように、ベンチを温めることの多かった41歳の出場機会は増えそうだ。

 とはいえ、それが今後も保証されるとは限らない。来季以降を見据える戦いに移行した場合、若手起用に大きく舵をとるだろうし、イチローのバットが湿れば補強に踏み切るかもしれない。不透明な未来をつきつけられた51番がこれから1、2週間でどこまで存在感を示すことができるか、ある意味、正念場とも言える。

 昨季まで所属したヤンキースでは故障者が続出し、必要とされたときに結果を残してきたイチロー。チームが窮地に陥った今、レジェンドの底力に期待したい。

伊武弘多●文 text by kouta Ibu