米光 なんで別れなかったの? 句集を意味ないみたいに言われて、女まで作られて。
佐藤 いやー、才能がある人だと思ってたので。
米光 うーん。
佐藤 この人はわたしが大物にしようって。
米光 うーーん。自分が支えて、彼が活躍してくれればいいなーと思ったの?
佐藤 そうですね。お互いの実家に行き来するくらい仲もよかったし。彼のおばあちゃんが亡くなったんですね。亡くなるまえ、あと3ヶ月だと言われてたときに、お見舞いに行きました。彼が、わたしとおばあちゃんの写真を撮って、それが遺影になりました。そのおばあちゃんが、この句集に出てくる敏子さんです。畜産農家で。
米光 「敏子さん」という章があって、いっぱい牛出てくるよね。
売る前の牛は黒くて夢のよう
佐藤 で、働いてたころは、調子がよかった。規則正しい生活と友達ができたのがよかったみたいで。週5で働いて、土曜日は中学生に俳句を教えて。わりとハードだったのに、わたしにしてはあまり休まずがんばったと思います。ただ、その仕事はやむを得ずやめることになって、その次の仕事も2ヶ月くらいで行けなくなって、わたしのいない東京ではみんなが楽しそうだし、もう埒があかない、東京に帰ろうってなったときに、地震が起きたんですよ。
米光 うんうん。
佐藤 地震の直後に東京に出てきて。そのころ米光さんに初めてお会いしました。池袋のコミュニティカレッジで米光さんがやっていた講座を見学させてもらったんですよね。
米光 うん。
佐藤 もう一度東京に戻ってきて、またバイトがうまく行かなくて辞めちゃったり、恋愛がうまくいかなかったり、アップダウンがありつつも、この1年でだいぶましになってきました。今は、この自分とどうつき合うか、どうやったら事前に防げるかを考えて生きています。

■放電と充電
米光 事前に防ぐ方法って、具体的にはどういうかんじ?
佐藤 大きい仕事のあとは必ず落ち込むと思っておく。そして大きい仕事の前後に仕事を入れない。そうすると、落ち込んで仕事ができなくてまた落ち込むというループにはまらずにすみます。ほら当然落ち込むだろ? この日休みにしといてよかったなーと思ったほうが調子がいい。
米光 ちゃんと休みを組み込んでおく。
佐藤 主治医からは、放電と充電という言われ方をしました。「外に出て喋っているときは放電している。家では充電。だから、充電してる日に仕事ができないのはしょうがないよ」と。
米光 その感じは俺にもわかるなー。俺もイベントをやったあとって、虚しい…ではないな……イベントをやってるときの高揚感が基準点に設定されて、終わったあとにマイナス感が発生するの。
佐藤 空っぽみたいになりますよね。
米光 ずーっと双極性障害とつきあっていく感はある?
佐藤 環境がとてもよいところで、楽しく働いていたときは、治ったかなと思いました。でも、その次の仕事は、職場で泣き崩れて過呼吸みたいになって、それ以後どうしても行けなくなって辞めたので。やっぱりダメだ、環境によるわと。治ったら仕事ができる、人並みに生活できる、そういうもんじゃない。人より仕事ができないにしても、できないのが自分。これがわたし。

(米光一成)

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