漫画家達のブルースを集めた、苦労と努力のインタビュー集『漫画家さんいらっしゃい!』。勇気の出る一冊。

写真拡大

「まさに今の私は、普通の人間でありながら漫画の超人しかいないスピリッツ連載陣の中で、ボロボロになって戦っている状況ですから……!」
「キン肉マンで言うなら、ジェロニモっすよ……!」

わかる。
ジェロニモとは、漫画「キン肉マン」のキャラ。普通の人間であるのに、超人たちと戦っていました。
どんな職種でも、周りの人がすごすぎて絶望的な気分を味わった人は、多いはず。

インタビュー漫画『漫画家さん いらっしゃい! R's Bar 〜漫画家の集まる店〜 1』 (Kindle版)で語られるセリフの一つです。
数多くの有名漫画家が、作者・黒澤Rのバーにやってくる、という形式。お酒を飲みながら過去を振り返ります。
 
「ジェロニモっすよ」と語ったのは、漫画家こざき亜衣。
現在『あさひなぐ』を連載しています。
いやいや大人気作家じゃないですか。と読者としては思う。
作家の気持ちは別です。
こざき亜衣の兄はイラストレーターのコザキユースケ。ゲーム・アニメのキャラデザを多数手がけています。
彼女は叫びます。
「そんな化け物と一緒に育って、自信持てってほうが無茶」
 
登場するのは羽海野チカ(『3月のライオン』)」、浅野いにお(『おやすみプンプン』)、若杉公徳(『デトロイト・メタル・シティ』)など、そうそうたる面々。
作品についてやマンガの描き方、今までの人生をインタビューしています。
 
アニメ化された『となりの関くん』の作者、森繁拓真はこう語ります。
「『となりの関くん』が売れてから、フレッシュな新人が出てきたー!みたいな感じに言われますが、今年でデビュー13年めです。後輩にもギュンギュン抜かされる爽快感? いっぱい味わいましたよ?」
つらい。
『学園恋獄ゾンビメイト』オススメです。
『となりの関くん』作者の傑作ホラー『学園恋獄ゾンビメイト』 - エキレビ!

『ライフ』『リミット』『HOPE』など多彩な作品で活躍する少女漫画家すえのぶけいこ。
「私の初代担当さんがほんっっとに厳しい人で、ネームを送った後に電話がかかってきて開口一番に「こんな面白くないもの二度と送ってくるな!」って言われたり、『ライフ』では相談なく巻頭カラー100ページで始めると決められたり……。そういえば『ライフ』は連載初めて最初の四年間は休載を全くもらえませんでしたねー」(以下すごく長いので省略)
つらい……。
すえのぶけいこ作品のまんまのハードさ。

『アイアムアヒーロー』が大人気の花沢健吾。かつては印刷会社で働いていました。
「その会社では漫画好きの後輩の一人を除いては、誰にも心を開けなくて、昼休みは仮眠室でテント張って寝てたなぁ。あのまま続けていたら、自殺してたかも」
「初連載の『ルサンチマン』がバカ売れして若くして大金持ちになるはずが……連載終了時には200万の借金ができちゃったんだよねー」
つらい! 
花沢健吾作品に描かれる、生きづらさの原点が見えてきます。
多くのクリエイターに絶賛された『ルサンチマン』。実際は、単行本が売れなかったそうな。

苦労していない漫画家がほとんどいません。

今大人気で有名人な作家たちが、こんなにも苦労をしてきたのだ、というのをしみじみ味わえます。
苦労話を聞くと、元気が湧いてくるよ。
バー形式にしたのは、見事。

浅野いにおはしれっと「売れたい! 少年ジャンプの漫画くらい売れたい!」といいます。
彼は高校時代、渋谷でヤンキーにカツアゲにあって以来、トラウマで行けなくなった。スピリッツに持ち込んだのもヤンキーマンガがなかったから。
その上での言葉だと思うと、ぐっとくる。
心に傷を負い、苦難の生活を送り、今漫画家として戦っている人間の、ブルース。

読者としては漫画家は「超人」に見えるかもしれない。
でもみんな人間。みんなジェロニモでした。
花沢健吾の苦労話には、後日談があります。これがちょっといい話なので、ぜひ読んでほしい。

うん、生きていこう。

黒澤R 『漫画家さん いらっしゃい! R's Bar 〜漫画家の集まる店〜 1』 (Kindle版)

(たまごまご)