『ウドウロク 有働録』有働由美子/新潮社

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NHK「あさイチ」を面白くするアナウンサー有働由美子の、初の著書「ウドウロク 有働録」。
「わき汗」「膣トレ」「伝助へのラブコール(?)」などなど、何かとネタが尽きない有働さんの書き下ろし著書とあって、これは読まねば! と迷うことなく、書店で平積みになった一冊を手に取って、レジへとまっしぐら。

その途中、この本を買うってことは、悩める40代独女ですと自己申告しているものかしら? Amazonで買うべき? などと躊躇があったことも否めません。それでも、迷いを吹っ切って買いましたとも! そして一気に貪り読みましたよ!

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

有働さん、マジで40代独女を代表して書いているなあ! と、嬉しいやら、苦しいやら、ニヤニヤ笑ったり、ちょっと泣きそうになったり、悶えた222ページ。

有働由美子さんは、69年生まれ。91年NHKに入社して、スポーツ番組、ニュース番組、トーク番組を担当し、紅白歌合戦の司会もつとめました。現在は「あさイチ」に出演中です。
ニューヨーク特派員経験もある才媛ながら、決して上目線にならず、自らを笑いのネタとして番組に捧げる、献身的な人であります。そして、独身。

彼女が、NHKのアナウンサーという一般人から見たらハードルの高い、無理めな女という印象を一気にひっくり返して、親しみのあるキャラクターになったきっかけが、「わき汗」問題でした。

「あさイチ」で、彼女がわきにたくさん汗をかいている姿がテレビに映って、賛否両論、視聴者の注目を浴びたこのエピソードが、本のしょっぱなに書いてあります。
これで、つかみはOK。有働さん、わかっていらっしゃいます。
わはは、と笑って、たちまち「ウドウロク」の世界に足を踏み入れたところ、
その後は、スーパーでのちょっとしんみりしたエピソード、男社会で長く生きてきたことに対する悩み、独身で一生生きていくことへの惑い、などが綴られます。
わかります、わかります、どれもこれも40代独女には共感することだらけで、あれ、この本、ただの有働さんのおもしろエッセイ集ではないのだな、と身構えました。でも、身につまされるから、読み進めずにはいられないのです。ううう・・・悔しい・・・。

その後、ひとしきり、他人の結婚式、病気になった時のことなど、あるあるネタが続きますが、「ひとり」の所在なさを感じる生活をぽつぽつと書きながら、話は次第に仕事のことに。紅白歌合戦の司会に抜擢されたこと、ニューヨーク特派員になったこと。有働さんは大変なプレッシャーに打ち勝っていきます。こういう時の「ひとり」はさみしくない。有働さんは勇敢な「ひとり」の時間の喜びも書いて、希望もくれます。

「ひとり」をとことん知っている彼女は、家族や友達や仲間のかけがえのなさも記します。つい頼ってしまう、お酒のことも。
母、父、ニューヨークで出会ったアーティストカップルのこと。115ページで、このアーティストが有働さんに語った「人生の波」の話が印象的でした。

中盤は、いのっちこと井ノ原快彦に関する話の登場です。
「あさイチ」で一緒に司会をやってる いのっちは先日、世間が有働さんに頼り過ぎているのではないか。有働さんが強いからってなんでもかんでも(40代女性に関する言い辛い話題を)振るのはいかがなものか。というような擁護発言をして、同じように疑問に思っていた視聴者から、よくぞ声をあげてくれたと喝采を浴びていました。

そう、有働さん、いつも独身ネタを明るく切り返しているけれど、それは懸命にそうしているのだってことが「ウドウロク」を読んでいると、よくわかります。
いのっちは、この本をあらかじめゲラか見本で読んでいたのではないかな。いや、もちろん、読まなくても気づいていたと思うけれど、本を読んで、よけいに正義感燃やしたのではないかな? なんて思ってしまいました。

本ではさらに、いのっちのかっこいいエピソードが紹介されています。
そのあとは、長嶋茂雄とのエピソード。この人選のセンスも絶妙ですな。

さすがキャスター、流暢な語りで番組が進行していくように、すらすら読めるんです。
でも、やっぱり、隠し切れない知性がのぞく瞬間。
二日酔いの朝、必ず読む詩の引用に、有働さんの笑顔に隠れた真面目さがちらっと見えて、ズシンと来ます。

有働さんの文体は、最初から最後までずっと変わらず、さらりと軽妙なのだけれど、ひとつひとつが刺さるのは、いい本をたくさん読んできたからこその足し引きを知っているのでしょう。
それは、ふだんテレビでの有働さんが、どんなに自虐ネタを振りまいても、ゲストにちょっとヘンな質問をしても、それが単なるテヘペロで済まされない感じがすることにもつながります。
そうなの、40代独身女は真面目なんですよ。

後半、有働さんは「クロウドウ」と銘打って、世間の事象に対してのちょっとブラックな持論を綴ったあと、満を持して、最後の章「シロウドウ」で、恋、結婚、子供など、世間一般に、「女」が得て当たり前と思われていることがなかなか得られないことについて記します。

世の中に対して黒いことを思って、発言してしまうこともあれば、世の中の黒さに対して小心を感じて、密かに肩を震わすこともある。黒いだけじゃない、白いだけじゃない。強いだけじゃない、弱いだけじゃない。ちょっと年齢のいった独り身の女の抱える複雑さを、押しつけがましくない知性で、がっつり内包する「ウドウロク」。その感触は、読者に対して、もう、ひとりで抱えなくていいよ、という母のような感じで・・・思わず泣きそうに。
これは、長らく「ひとり」をちゃんと生きてきたからこそ書けた本だから、「ひとり」も悪くなかったですねと言っていいのか迷うところです。

引用はあまりしたくないですが、一節だけ。
【そんなこんなで本を読む癖がついてしまうと、困難に出会ったとき、その答えを求めるようになった。
 本探しがうまくなると、人間のアドバイスはたいてい良い本に負ける、と不遜な思いを持ってしまうようになった】
「ウドウロク」は私たちにとってはそんな本の一冊かもしれません。

とまあ、妙に感情移入しちゃったけれど、これで有働さんが結婚しちゃったらショック過ぎて死んじゃいそうだから、独身女をあんまりよしよしし過ぎないで〜。
(木俣 冬)