『ファースト・クラス』脚本:渡辺千穂、ノベライズ:木俣冬/扶桑社文庫

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“ていうかさ、隆太郎くんさ、こんな余裕ぶっこいていていいわけ? お母さんのブランド危ないのに!”

10月22日放送のドラマ「ファースト・クラス」(フジテレビ)第二話で、倉科カナにこっぴどく叱られていたのは淵上泰史。ドラマ「昼顔」では吉瀬美知子演じるセレブ主婦の元カレ役で注目を浴び、第27回東京国際映画祭で上映中の映画「花宵道中」(11月8日から全国公開)では、安達祐実演じる遊女・朝霧が出会う運命の男を演じた。本作での役どころは、主人公・吉成ちなみ(沢尻エリカ)が働くファッションブランド「TATSUKO YANO」の副社長・矢野隆太郎。ブランド創始者・矢野竜子(夏木マリ)の一人息子でもある。

第二話では、ちなみがデザインした洋服を製造する手はずになっていた縫製工場から突然の断りの連絡が入り、ちなみはもちろん、「TATSUKO YANO」も窮地に追い込まれる。二週間後に発売開始と大々的にお知らせしてしまっているのだ。でも、隆太郎は我関せず。アシスタントデザイナーのさくら(倉科カナ)に「ヤバいの、うち? タイミング早めに教えてね。次考えないと行けないから」と詰められても切迫感はまるでない。「はい! 今がタイミング!! もう考えたら?」と、おどけるだけ。さくらに頭をパコーンと殴られても、太ももに伸ばした手をバシっと払われても気にしない。パンツ一丁でごろにゃーんと、どこまでもマイペースだ。

工場に再度交渉するために訪れた群馬県桐生市でも「やっほー! 田舎最高〜!」とノリノリ。ちなみが、なんとか交渉の糸口を探ろうと工場見学をしている間も、喫煙スペースでのんびり。
「おい、読めねえ女だな」
「どうします? 兄貴」
「下手に動かないほうが…」
と一人遊びを楽しんでいた。まるで役に立たない。

その一方で時折、鋭さも見せる。
「TATSUKO YANO」の買収騒動が持ち上がり、何食わぬ顔で接触してきた滝川蘭子(余貴美子)と間宮充(青柳翔)。キツネとタヌキの化かし合いさながらの腹の探り合いが行われるなか、「隠してもムダなんじゃないかな。間宮さんほどのキャリアがあれば、一ブランドの収支ぐらい電話一本でわかるんじゃないですか?」と、サラリと言い放ったのは隆太郎だった。
もしかして、単なるバカ息子じゃない…?

ただし、女の趣味は微妙。倉科カナに加えて、鈴木ちなみにも手を出していたことが発覚する。語尾に「にゃん」をつけて毒づく、プレスのアシスタント・華ちゃんである。
第一話では仲良く、ちなみの足を引っ張っていた二人だが、昨日の敵は今日の敵。
隆太郎のホテル選びに、華が言及したところでゴングが鳴り響く。

「(選ぶホテルが)南国風のとこばっかりじゃないですか」と同意を求めることで、さくらとの関係も知っていることを暗に匂わす。「隆太郎さんと寝ました、何回か。でも、イマイチでしたね〜はい」は、男の技術不足をあげつらうことで、相手の女をおとしめる手法。二股をかけられている時点でどっちが上もないのだが、いずれも自分が優位だということをアピールする定番スタイルだ。

さらには、「やだ……添い寝ですよ。添い寝」とはぐらかす。これはフォローでもなんでもなく、さくらに“嫉妬深い女”の烙印を押し、さらに序列を下に押しやる、ていねいな仕事に他ならない。
(気持ち悪か〜この女、油断できんね)と、さくらがぼやきたくなる気持ちもわかる。
隆太郎くんも同じ社内で手を出すならもう少し相手を選べばいいのに。ヤバい女のほうが楽しいのかもしれないけど。

でも、いっそのこと、そのおおらかさでともさかりえ演じるデザイナー・凪子にも手を広げてほしい気もする。

「TATSUKO YANO」には猛女が盛りだくさん。
「どこのビヨンセかと思ったわ!」「あら、竜子さんこそ40年前から変わらずクールビューティで」と顔を合わせれば噛みつきあう夏木マリと余貴美子。「あなたがたは今季はデザイナーとしてランクインできなかったの。圏外なの。次のチャンスまではデザイナーでも何でもない、一社員なの」と正論で締め上げる木村佳乃。いずれも猛々しいことこの上ないが、中でもともさかりえのヤバさは一線を画している。

アシスタントだった冴木大五郎(中村倫也)に、マダムのお相手を強要し、ベッドでの記念撮影をちらつかせて脅す。アシスタントに降格された腹いせに、上司と大五郎のラブラブ写真を合成し、社員への一斉メールで送りつける。前作で登場した嫌がらせは、それなりに目的もあり、浅はかながら落としどころも用意されていた。セクハラ担当のカメラマン(遊井亮子)も腕は確かだったし、仕事ではむしろ頼れる存在だった。だからこそ、ゲラゲラ笑って見ていられたのだが……。

そんなモヤモヤ感も、隆太郎くんなら払拭してくれるかもしれない。なんの根拠もなく思わせてくれるカリスマ感が素晴らしい。ビバ! バカ息子!! である。ついでに、「君は素顔のほうが可愛いよ」とかなんとかいって、ちなみの化粧を薄くするべく画策してほしい。真っ赤なルージュでつま先立ちなファイトスタイルもそれはそれで楽しいんだけど、うすづきリップで、うっすら涙目のけなげプレイも見たいのだ。

第三話では、ちなみの新作とそっくりの服がすでに店頭販売されていることがわかり、大騒動になる。盗作疑惑に、ちなみはどう立ち向かうのか。ナチュラルメイク復活なるか。今夜10時から!
(島影真奈美)